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魔法主義の世界で剣を極めます。  作者: あすたると
第一章 異世界と、現実と
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07話 蒼の嘘

「街の中に……林……?」


 孤児院までの道中、メルル達の後を追いながら街の様子を観察していた僕は、次第に周囲の建築物が少なくなっている事に気を止めた。比例するように木々が増えている事にも。


 どうやら街の最西端に向かっているらしく、その方角には街の中だと言うのに木々が生い茂っている。そして林の隣には、最早屋敷と呼ぶに相応しい程、立派なものが建っていた。西洋風のそれは、周りに点々と並ぶ建物と比べても、倍以上の大きさは優に届いている。


 最西端という、唯一門が存在しないらしい方角の為に建物が少ない辺境の立地だが、のどかな雰囲気が心を落ち着かせてくれる。


「大きな屋敷……」


 余りの大きさに、僕の口からは独り言が漏れた。独り言故に、自分以外聞こえない声音だった筈だが、余程耳がいいのかその言葉を聞きつけたルーンは、自慢気に言い放った。


「メルルの為なら、当たり前の事にゃ」


 腰に手を当て胸を逸らし、ふんぞり返るルーン。その姿と物言いは、まるで自分が用意したかのような様だ。多分、用意したというのは本当の事なのだろうが、そこまで来ると信頼というか溺愛に近い。


 ともかくここが孤児院らしい。孤児院というには随分と壮麗な外観で、白と青の配色がメルルの修道服と相俟って教会のようにも見える。ただ形は教会のそれとは異なる為、雰囲気的に見れば、という部類である。


 しばらく無為な思考に捕らわれていると、いつの間にかメルル達は屋敷の入り口にまで進んでおり、玄関の扉を開け放っているところであった。


「ど、どうぞ中へ」


 急いで彼女達の近くまで近寄った僕に、メルルは小さく微笑みかけながら開けた扉を押さえてくれる。僕は微笑み返し、会釈と感謝の言葉を述べながら中へと入った。


 扉の奥には居間が存在しており、幼稚園児から僕と同じくらいの歳の子までの子供達が十数名ほど見受けられた。


 この子達が孤児なのか、と感慨深く彼等の様子を見守る。だが彼等の表情は、孤児とは思えないほど明るく澄んだもので、そこからメルル達が如何に人が良いかが窺える。


「ただいまぁ、みんないい子にしていたかな?」


 一瞬、誰の声か分からなかった。その慈しみに満ちた声音に気を取られ音の発生源へと視線を動かすと、メルルが先程と打って変わった表情をしており、我が子に向けるような微笑みを浮かべていた。今まで見ていた笑みとはどこか違う、安心と慈愛に満ちたものに見える。


 彼女の優しさに溢れた言い様には驚いたが、本当に子供が好きなんだな、と心なしか気持ちが豊かになっていくように感じた。孤児院の経営もしているくらいなのだから、当たり前の事ではあるのだが。


「うん。いい子してた!」


 まだ幼い子供達が勢いよくメルルの周りに群がり、彼女の問いを肯定する。どの子も元気一杯で活発な様子で何よりだ。流石に僕と同年代の子達は群がる事は無かったが、表情は一様に明るい。


 微笑ましい光景を端から眺めていた僕であったが、メルルに群がる内の一人の子が僕を見るなり不安そうに顔をしかめ尋ねてきた。


「ねぇねぇこの人だーれ?」


「今日から一緒に暮らす事になった、ソウさんよ」


「はは……みんな、よろしくね」


「「「よろしくー!」」」


 子供らしい純粋な疑問に答え(あぐ)ねる前にメルルによって説明が為されており、便乗して挨拶を済ました僕。


 子供達から威勢の良い挨拶が返されるが、いよいよ空腹が音を上げ始め、全力の挨拶に応じる程の気力はとうに無かった。空腹と罪悪感に戒められながらいると、唐突に奥の部屋の扉が開いた。


「あらあら。メルちゃんってば、今まで男っ気がなかったのに……やっとなの?」


 水色の髪の少女が、からかうように笑いながら奥の小部屋から出てきた。彼女の容姿は寝間着ではあったものの、整えられた顔立ちから体躯、足先に至るまでもが妖艶の一言で、一度魅入ってしまえばそのまま囚われてしまうと錯覚する程、魅力的なものである。


 いいおもちゃを見つけたとばかりに爛々と瞳を輝かせ、メルルに絡む彼女から感じるそれは、魔性という言葉が似合いそうだ。


「そ、そんなんじゃありません!!」


 恐らく年下であろう彼女に弄ばれているメルルは、顔を真っ赤に染めて慌てふためいている。そんな光景を見ていると、可愛らしいなと感じる反面、当人には悪いが笑いも込み上げてくる。


 密やかに笑っていると、腰まで延びた透き通った髪の毛を閃かせ、魔性の彼女は笑う。


「ソウくん、ねぇ……よろしくね?」


「よ、よろしくお願い致します」


 彼女の前では名乗っていないというのに、盗み聞きでもしていたのだろうか。顔には細められた目元と艶笑が貼り付けられており、僕は何とも居心地が悪く苦笑する他無かった。

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