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魔法主義の世界で剣を極めます。  作者: あすたると
第一章 異世界と、現実と
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04話 羨望の力

「教えてくれないですか!?」


 鮮やかで、華やかで。何より自分にない圧倒的なまでの力。その力を欲さんと胸の奥は熱を持ち、言動や行動までもが熱を帯びていた。そのせいで彼女は気後れしていまい、何かを伝えようとも口が回らない様子。


「あの……あぅ」


「あっ、ごめんなさい。つい」


「だ、大丈夫、です」


 つい興奮して彼女の肩を揺さぶり、詰め寄ってしまった。彼女が混乱している事に気付かず、講義の声でやっと我に返る。少し怯えた表情と、不安そうな瞳。僕は不信感を抱かせるような行動をしてしまったと焦り、罪悪感に襲われた。


「と、とにかくここにいたら、危険ですし、つ、ついてきて、下さい」


 やはり彼女から発せられた言葉は、おどろおどろしい。嫌われてしまっただろうかと自らの行いを後悔を始めたが、不意に彼女は僕へと手を差し出してくる。その意味を察せず戸惑っていると。


「さ、さっきの様子だと、魔法を使えないようでしたし、は、早く街に戻った方がいいと思いまして……」


 またもや理解し難い発言。手を握る事と街に帰る事に、何の関連性があるのか疑問は残るが、取り敢えず差し出された手を握る。彼女の表情が和らいだ瞬間────。


「転移──っ」


 僕達の周囲に光の粒子が舞い始める。漂う光が渦を巻き、その輝きが次第に増し────。


 夜風に吹かれ、なびく雑草同士の擦れる音だけが響いていた空間には、僕はもう居なかった。




■ □ ■ □ ■ □ ■




「つ、着きました」


 暗闇の最中。唐突に起きた光によって目を眩まされた為に周囲の状況が把握できず、彼女の言う、着いた、という意味が分からなかった。一体どこに、と、まばたきを繰り返す。取り囲んでいた粒子の光が晴れ、徐々に視界が慣れていくとそこには────。


 石の壁が目の前にそびえ立っていた。


 それは見間違う事無く、僕が目指していた街の周囲を囲っていた壁。当たり前だが遠方から目にした時よりもずっと大きい。つまりその事実が証明している現実は、僕の命はまだ朽ちないという事だった。


 ここへ着くまで数日はかかると感じていたが、まさか一瞬にして目的地に到着するとは想像できなかった為に、ただ歓喜に震え唖然とする他ない。


 僕の口からは言葉が紡がれる事は無く、時間の流れに身を任せていると、街の方角から人が何か叫びながら走ってくるのが見えた。


「にゃ!! メル、どこに行っていたのにゃ!!」


 混乱気味の僕と、未だ警戒心が見え隠れする彼女の前に現れたのは、小柄な女の子だった。


 肩に掛からない程度の長さの黒く艶やかな髪の毛。その髪型の中からは、猫の耳のようなものを生やしている。更に身に纏う黒い衣装の裾からは、細長い尻尾が見え隠れしており、まるで猫のような格好だ。


「る、ルーンちゃん」


「にゃ? この人誰にゃ?」


 ルーンと呼ばれた猫のような彼女は、僕を訝しげに観察。彼女は猫耳を小刻みにひくつかせ、生きているかのように尻尾が動かす。作り物かと推測したが、滑らかに動く様はやはり猫のそれに近い。


 左右に振るわれる尻尾を目で追いながら、本物かどうか考えを巡らせていると、それに気が付いたルーンは不適に笑う。


「そんな見つめられても……恥ずかしいにゃ。ルーンの魅力に一目惚れかにゃ~?」


 彼女のほのかに朱色に染まった頬。挑戦的な表情で僕を見つめてくるルーンだが、ただ物珍しさについ見入ってしまっていただけの僕は、その言動で彼女を意識してしまい、恥ずかしさにもがく事となる始末である。


 居心地の悪さからそっぽを向いて、気を紛らわせるように頬を掻く僕。そんな居たたまれない状況に、助け舟の如く、修道服の少女がこれまでの経緯を話し始めてくれた。


「る、ルーンちゃん。この人、街に来る途中で倒れちゃったみたいなの」


「病気か何かなのかにゃ?」


 助かったと視線を戻し、無かった事として振る舞おうとした刹那。またしてもルーンが返答に困る質問を投げ掛けてきて下さった。


 別に倒れていた訳では無かったが、街道のど真ん中で寝ていたらそう解釈されてもおかしくはない。むしろその場所で寝ている方がおかしい。


 ここは信用を得る為にも事実を話すべきだろうが、自分自身何が起きてこうなったのか理解できていない。そんな状態のまま説明を断行した所で、逆に怪しい人物として警戒されるだけだ。


 あまりの空腹で気絶していました、という言い訳を思い付くが、街の外にいるのにも関わらず、食料どころか水すら持っていないなんて、愚の骨頂もいいところだろう。


 これ以上熟考すると疑いは深まるばかりで、何も良い事はないと判断した僕は、適当な誤魔化しをして時間を引き延ばしにかかった。


「持病は覚えがないですが……」


「うーん? にゃんで街の外で気絶してたのにゃ?」


 辻褄の合う理由が思いつかず、絶えず模索。


 やはり異世界から来ましたと、真実の可能性が高い現状を説明するしか────だが、自分だったら絶対信じないだろうと至る。信じたとしても、メルと呼ばれた修道服姿の彼女くらいだろう。


「なんか怪しいにゃ~?」


 歯切れの悪い僕を訝しみ始めたルーン。挙動不審ならば疑いを掛けられるのも当然と言えるが、理解していても納得できる言い訳は見つからない。


 空腹感が思案の邪魔をしてまともな案が浮かばないが故に、更に焦燥感が増す一方。一筋の冷や汗が頬を伝う事にさえ思考を逸らされ、ただ無意味に目を泳がせる状況が打破できないでいた。


 ただ、しばらくの沈黙の後に、唯一信用してくれている聖者のような彼女が、またもや救いの手を伸ばしてくれる。


「か、顔色が悪いし、疲れているみたいだから、休ませてあげても、いいかな?」


 僕をここまで連れて来てくれた彼女には、感謝の一言に尽きる。最早、初対面の時に少しでも疑心を抱いた自分を恥じるしかない。


 彼女の進言が鶴の一声となる事を願って、愛想笑いを浮かべる僕は、自分自身の立ち位置がとても情けなく感じながらも生きる為と割り切って、口は挟まないでおく事にした。


 だが、当然ながらすんなりと事が運ぶ訳もなく、ルーンは彼女に注意するよう説教を始める。


「メルはすぐに信じ過ぎにゃ。少しは疑った方が身の為にゃよ?」


「あぅ……はい」


 僕としては、常識的に考えればその意見には多いに賛成なのだが、今は彼女を信じてあげて欲しい。


 感傷的にそう思うと同時に、信じて貰えなければ自分がこの先どうなるか────それを考えれば、何としても信じて貰わなければと、僕の中の我欲が顔を覗かせる。


 それからしばらくの間、説教を続けるルーンから心優しき彼女を庇いつつ、一緒になって説得し続けた。

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