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魔法主義の世界で剣を極めます。  作者: あすたると
第一章 異世界と、現実と
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33話 狂気の渦

 決意を固め、ルノを握り締め、共に戦おうと死神の前へと立ちはだかった僕等。だが、先程までの行動が嘘のように静かになった敵対者に、思わず眉間にしわが寄る。


「…………」


『あの子、なんだか静かになったよ?』


「……不気味ですね。下手に動けません」


 元から死神の容姿は不気味だが、こうも沈黙されると、その不気味さに拍車が掛かる。


「…………──ハンノウ」


 しばらくの沈黙の後、ようやく発した言葉は、相変わらず常人には理解が及ばない。


 だが、その発言の意味はすぐ知る事となる。


「おいジジイ、全く距離が稼げてねぇじゃねぇか」


「ここは異界の地。ましてや、この環境だと場所は把握しづらいのじゃよ」


 突如として男二人組が、光に包まれながら現れた。恐らく転移してきたのだろう。とどのつまりあの化物は、転移してくる前にはこの二人を察知したという事になる。


「言い訳はどうでもいいんだよ。さっさと次を使わねぇと追っ手が来るだろうが。覚醒間近で魔族如きに捕まる訳にはいかねぇんだよ」


「おや、それなら目の前にいる見た目だけ死神のような、格下の敵を相手取ったらいいんじゃないかのぉ?」


「覚醒前後は自由が利かないって言ったのはジジイ、テメェだろうが。遂にぼけちまったか?」


 怪物が鎌を構えて、敵意を示しているというのに、動じるどころか、喧嘩のように言い合いが始まる────かと思いきや。


「ほっほっほ、恐ろしい恐ろしい。して、どうやら魔族もいるようじゃが、それも見逃すという事じゃな?」


 二人組の中の一人である、乱雑ながら短髪に切られた白髪の老人がキルアに目を付けた。


「──あ? 何で人間が魔族なんぞを庇ってんだよ」


 そしてその声をきっかけに、もう一人の翡翠色の瞳が印象的な銀髪の凶暴そうな男が、僕の存在にも気が付く。


『ソウくん。攻撃された時以外は、この人達には手出ししない方が身のためだよ。死神さんより危ない人達だから』


「……わかりました。しかし、キルアに何かされそうになった時は約束を反故にしてしまうかもしれないですけど」


 ルノから反発はしないように忠告をされ、それを受けてキルアの側へと下がり、息を潜めるかのように静かに座す。


「どうしたものかのぉ?」


 老人が白々しく、男の子へと相談を投げ掛け、それに苛立った様子で返答しようとする彼だったが。


 背後に、死神が静かに立っており、二本の得物を振り下ろさんと鎌を掲げていた。


「こんな状況じゃなかったなら、尋問してから消し去ってやりてぇところだが、捕まったら元も子もねぇ。放置しとけ」


 しかし彼はたった一瞬の内に、死神の背後を取り返し、いつの間にやら握られていた長剣によって、死神の胴体を貫いていた。


「キヒ……ヒッ…………マダッ──」


「黙って()ちろ」


 貫かれた死神は、苦しそうに嗤いながら鎌を振るう。だが、俊敏に動く男の身体は捉えられず。彼の長剣が、死神の体を切り裂き、肉片を飛び散らせた。


「……案外、剣も捨てたもんじゃねぇな」 


「意識して周囲の魔素を集める必要も、魔法行使の際の隙も無いからのぉ。ただ、ある程度近付かないといけない分、不利ではあるのじゃが」


「届かない距離なら魔法を使えば済む話だ」


 一瞬にして繰り広げられた攻防は、奇襲を受けたにも関わらず一方的で、圧倒的。老人が言っていた通り、僕等が苦戦した相手は、彼にとって格下の相手だった訳だ。それも、かなり力量に差がある。


 確かに手を出さない方が得策だと理解し、ルノと共に事の成り行きを見守っていると。


「して、相手取るのは賢明な判断じゃったが、それも遅かったようじゃのぉ」


「チッ────無駄話のせいだろうが」


 苛立たしげに愚痴を吐き捨てる男の視線の先には、見知った顔触れがあった。


「うへぇ……転移慣れはまだまだ先ッスね」


「ロゥ。こんな事をしている場合ではないですよ」


「情けないの……」


「セフ様、ルゥ様。ロゥ様には構っていられません。ここに置いていきましょう」


「大丈夫ッス! 大丈夫になったッスから置いていかないで欲しいッス」


 魔剣界に来てから関わりを持った、シギル、セフと孤児院で出会ったロゥ、ルゥの魔族四人。その彼等が老人等と同様に、光を伴い現れた。


「さて、早めに任務を終わらせるとするッスよ、ってソウくんじゃないッスか」


 舞い降りて早々に、木陰に座り込んでいる僕とキルアに気付くロゥ。何故僕等がここで、こんな状況になっているのか理解しかねる様子で、彼はルゥに振り返る。


「ソウさんがいるという事は、結局戻ってきてしまったのですね。ロゥが転移する度に酔って無駄な時間を潰さなければ、すぐに追いつけましたのに」


「……返す言葉もないッス」


 兄弟である彼女に指摘され、納得すると共に、原因となっていた自分の行動の反省を言葉にするロゥ。


 次いでシギルとセフもこちらを視認した。


「おや、ソウ様と────そこに倒れておいでの方はキルア様ですか」


「良くない状態……治療した方が……いいよ……?」


「ええ、そのつもりですセフ様。ですが、お二人の勇者方が、そんな暇を与えて下さるかどうか。治療中、皆様でお相手して下さるというのなら、今すぐにでも取り掛かろうかと思いますが?」


「なら……治療は……私がやる……」


「あ、セフさん卑怯ッスよ! 戦うの苦手ッスから交代してくださいッス!」


「ロゥは治療自体できないでしょう? 大人しくセフさんに任せて、私達はお子様のお()りです」


 周囲の事など置き去りにして、ふざけ続ける魔族四人に憤慨した勇者と呼ばれた彼は。


「魔族共が……ジジイ、大陸に戻る目処は立ってんのか?」


「うむ。やはり門の管理者が居らんと、帰るに帰れないようじゃの」


「チッ。ならここで潰す。テメェも手伝え」


「当てにはしないでもらいたいのぉ」


 老人達の言葉を機に、互いに闘志を露わにして、武器を手に取る。


「あ、下手に覚醒されても困るので、短期決戦でお願いするッスよ」


 一触即発の空気の中、飄々としたロゥの口調が皮切りとなって、抗争が開戦された。


 勇者と呼ばれた、老人と男の二人と対峙するのは、ロゥとルゥ、シギル。


 僕とセフは、キルアの護衛と治療の任についており、下手に戦闘には参加できない。


「俺が餓鬼二人を始末する。ジジイは優男をやれ。手負いと取り巻き共はその後だ」


「老体には荷が重いのぉ」


 二対三で数的には不利だというのに、焦った様子もなく冷静に指示を出す男と、腰をさすりながら愚痴を垂れる老人。


 老人はともかく、僕と同年代程度でありながら、この状況で冷静にいられる男は、やはりただ者ではないだろう。


「寝言がうるせぇぞ。黙ってろ」


「……ふむ。その口調は何とかならんものかのぉ。違和感しか覚えないのじゃ」


「無駄な情報を教えてやるな。黙って仕事しとけ」


「ほっほっほ。では、気を付けてお相手するとしましょうかのぉ」


 刹那、彼等から放たれる濃密な殺気を前に、僕は足が竦む。しかしロゥ達は、あくまでも楽観的に、平然と敵意を受け止める。


「うへぇー。とても勇者とは思えない殺気ッスね。関わったら確実に殺されちゃうッス」


「ロゥの悪運の強さは折り紙付きなので、そうそう死なないかと。あ、お子様のお守り、お願いします」


「子供とか苦手なんスよね。シギルさん代わってもらえないッスか?」


「申し訳ありませんが、私はあのご年配の方の介護をしなければならないので」


「介護ッスかー。それもそれで大変そうッスから、お守りで我慢しておくッスよ」


 いつまでも続く無駄話に、いよいよ付き合っていられなくなり、しびれを切らした老人が割って入ってきた。


「会話中申し訳ないんじゃが、こちらも時間が惜しくてのぉ。早く片を付けさせて頂くとするのじゃ」


 一瞬の内にロゥ達との距離を食い潰し、隠し持っていた長剣を横薙ぎに振るう。狙いは正確無比に、ロゥの首を跳ねようと刃先が迫る。


「案外速いッスね。でもその程度の速さじゃ、首は取らせてあげないッスよ?」


 しかしその刃は肉を裂く事なく、ロゥの手に握られた短剣によって停止させられる。


 初めてまともに目にしたロゥの実力。それは僕なんかよりも卓越しており、実力差が一目瞭然となっていた。


 周りが強い人達ばかりで、自分の弱さが浮き彫りになっていき、もっと強くならなければ、一生ただの足手まといだと痛感する。


「シギルさん、あとは頼んだッスよ」


 短剣で受けていた長剣を弾き、入れ替わるようにシギルが放った炎の魔法が懐へと潜り込む。


 着弾と同時に、鈍い爆発音が地面を揺らした。


「さて、こちらも時間の浪費はしたくはないので、大人しく投降して頂ければ幸いです」


「とんだ冗談を抜かしおる。その提案はこちらから持ち掛けるものじゃよ」


 直撃した筈の魔法は、ほぼ老人に影響を与える事なく役目を終える。


 だが一切動じないシギルは再度、自らの魔法を行使し、鋭く尖った闇の槍を複数、周囲に漂わせた。


「左様ですか。ならば仕方ありませんね────交渉は決裂です」


 彼の柔らかな目つきが、まるで狩人のように獲物を狙う目に豹変する。


「非常に、残念じゃのぉ」


 シギルの好戦的な態度に触発され、老人も彼の魔法と酷似した光系統の槍を形成し、加えて長剣を構えた。


 互いに向き合ったまま、数刻の時が過ぎ。


 静かに一対一の闘いが始まった。




■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■




 一方のロゥとルゥは、男の子のお守りに手を焼いていた。


「やんちゃ坊主とはこの事ッスね」


「それは違うと思います」


 的確に急所を狙って長剣を振るう男。それを紙一重で避けるか、短剣でいなすロゥ。端から見ればロゥが劣勢のようにも見えるが、飄々とした表情と言動はいつも通りの上、ルゥによる支援がある。


「うるせぇんだよ。魔族の餓鬼共が」


「ありゃ、お子様に餓鬼扱いされちゃおしまいッスね」


「という事は、ロゥはおしまいですね」


「ルゥさん? なんで公認されちゃっているんッスかね?」


 戦闘中だというのに、兄弟の言い合いは止まらない。しかしそれは、男の子の鋭い一撃によって中断される。すんでのところで刃を滑り込ませ、難を逃れたロゥではあったものの、続く長剣による猛攻は止まらない。


 急所に加え、足下や手首を狙う厄介な攻撃に、さすがにロゥの表情も曇る。


 やがて捌ききれなくなった斬撃が肌を掠め、血が衣服を滲ませた。短剣も刃こぼれをし、ひびまで入っている始末。


「油断していた訳じゃないッスけど、さすが勇者と言ったところッスね」

 

 そしてついに短剣を叩き折られ、丸腰となったロゥに、長剣の刃先を向ける男の子の構図が出来上がっていた。


「悪しき魔族共め。テメェ等さえ居なけりゃ、喜ぶ民衆もいるだろうに」


「人族であれば、そう結論付くのも納得ッス。魔族との壁は埋めきれないッスからね。だからといって、負けてやるなんて事はできないッスけど」


「テメェの負けだ。さっさと──」


 満身創痍のロゥに、これで終わりと長剣を振り上げた男の子は、振り下ろす寸前に、背後に悪寒でも感じたかのように、一瞬で身体の向きを変えた。


 そしてそこには、先程までロゥの後ろで援護に徹していたルゥの姿があった。


「私を忘れてもらっては困ります」


 彼女は魔法で作られた氷の盾で突貫してくるや否や、鍔迫り合いの如く押し合いの勝負となる。そして、その勝負の行方は見届けられる事はなく。


 彼女が事前に同系統の魔法で生み出した、拳程度の大きさの氷の物体が、男の左右から襲いかかろうと距離を詰める。


 ルゥがいる正面と、魔法による側面からの同時攻撃から逃れるには、後ろに下がるしかない。だがその後ろには、既にロゥが新たな得物である短刀を持ち、待ち構えている。


 勝負は決まった。端から見ているだけの僕でさえ思った。ロゥやルゥも確信していただろう。


 しかし。


「チッ────『停止』」


 彼の放ったその一言で、見事に戦況は反転した。


 何もかもが動きを止め、音が途切れる中で一人、忌々しげに男は呟く。


「あー……クソッ、使っちまった。さっさと片付けねぇと」


 呟きが有言実行されようとする様を、僕ははっきりと視認し、助けなければと、動ける筈がない身体が動いた。


 木に立て掛かっているルノではなく、以前にルーンからもらった普通の刀の柄を握り、居合いの型で一直線に男の子へと走る。


 静かな世界に突然足音が鳴った為に、すぐに気付かれたが、ロゥ達に刃を向けられるよりは都合がいい。


「あァ? テメェ……────そうか。テメェは、あの勇者か」


 何を思考し、理解したのかは知らないが、男の瞳が、戸惑いから狂気に変わる瞬間を垣間見ただけで、身体が強張った。


 彼の見た目にはそぐわない程の狂気。身体に怪物でも宿っているのかと、意識を向けられた今更ながらに痛切に感じる。


 それでも堅く鈍い身体に鞭を打ち、揺れる感情を殺して、居合い切りを放つ。


 刃が身に迫る。だというのに、彼の表情には微笑が刻まれていた。


「テメェは────殺す」


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