表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法主義の世界で剣を極めます。  作者: あすたると
第一章 異世界と、現実と
3/43

03話 異世界への憧れ

 知らない世界、正に現実とは異なる世界。そう言われても反論できない。少なくともゴブリンは────そもそもゴブリンなのかも怪しいが、ともかくあんな生物は現実にいない。


 故に考えられるとしたら、異世界だという可能性。現実味のない話だが、僕はそれ以外の理由を見い出せないでいた。


 もしあの世界にあんな魔物が現れたのなら、騒動が起こるだろうし何よりこれまで発見されなかった方がおかしい。それにこの平原も、開拓されていてもおかしくはない筈だ。


 昨日の事は夢だったのだと、微かな希望を胸に目を覚ました現状がこれである。


 無為に思案を続けても力尽きるまでの時間が延びる訳ではない。取り敢えず街までは着けなくとも、人に見つけてもらえる可能性のある所まで着いておかなければ、本格的に危険。


 今日こそは街まで着いておきたいが為に、無理にでも体を動かし、食事──せめて水が欲しいと街へ向かう。




■ □ ■ □ ■ □ ■




「──っ」


 二日目の夜。今日も何の進展もなく過ぎた一日を嘆いた後、少しでも力を残そうと眠ろうとした僕であったのだが。何らかの声が耳朶に響き、浅い眠りから飛び起きた。


 気付けば辺りは暗闇に染まっていて、僕の視界を遮る。瞳を凝らし、物音を聞き探ろうと耳をそばだて、周囲の確認に集中。


「大丈夫ですか?」


「──っ!!」


 不意に後ろから声をかけられ、反射的にその場から飛び退く。勢い余って前のめりに転倒しそうになるが、間一髪のところで間に合った手を地面に付けて転倒を防いだ。よろけながらも平衡感覚を取り戻した僕は、声を掛けてきた張本人に視線を向ける。


 そこには、紺色を基調とした修道服を身に纏った、言わば、シスター、という感じの服装をした女性が立ち竦んでいた。突然の僕の行動に驚いたのか、杖を構えながら怯え、銀色の髪の毛を小刻みに揺らしている。


 そんな状態の彼女を目にした僕が抱いた感情は、魔物ではなかったという安心と、人に会えた喜び。彼女の怯えるような様子も気にならなかった訳ではないが、心配よりも安堵が優先されたようだった。


「うぅぅ……」


 一人で安堵する僕に、いまにも泣き出しそうな表情をしながらも、上目遣いでこちらの様子を窺ってくる女性。取り敢えず落ち着きを取り戻した僕は、現状の把握に努める事にする。


 よくよく彼女を観察してみれば同年代程度の女の子である事が窺えた。何故この時間にこんな所にとも思うが、差し当たり有り難いと感謝しておくに限る。


 それにしても現状を好転させるにはどうしたものか。泣き崩れそうな女の子を前に安心顔の僕。端から見れば、彼女を襲わんとする悪漢のようにも見えなくも無いのだろうかと不安になったが、そもそも端から見る人も居なかった事には気付かない。誰に言い訳する訳でもないのに、焦って彼女を落ち着かせようとあたふたとしてしまう。


「えっと……」


「あなたは悪い人、ですか?」


「──えっと……はい?」


 どう切り出していいか反応に迷っていると、彼女の方から震える声で尋ねてきた。


 質問の意図が読めない。


 何かの暗号、合い言葉の類だろうか。何にせよ、ここでそうです、なんて言って彼女の警戒心を高めても意味がないだろう。そもそも、そう聞かれて素直にそうですなんて言わないと思うのだが。


 彼女の意図を探りながら、今は一番害が無さそうな返答をしておく事とする。


「えっと……違いますよ?」


 そう断っておくと、彼女は顔を綻ばせ安心したような笑顔を見せる。


「はぅ……よかったです。通りかかったら、あなたが倒れてたので、びっくりしたのです。怪我とか無いですか?」


 この様子だと、さっきの質問は本気で聞いていたと窺える。よく分からない。分からないが────今の言葉を聞く限りでは、気絶も同然の僕を看病してくれていたみたいだし、悪い人では無さそうだった。


「あの……大丈夫ですか?」


「へ? ……は、はい。大丈夫ですよ」


 彼女を眺めながら呆けていると、反応を示さない事を不思議に感じたのか、彼女は僕の顔を覗き込んできた。僕の視界に割り込んできた彼女の表情は、弱々しくも心配そうで、未だに涙の溜まった瞳は上目遣い。その余りの可愛らしさに気恥ずかしさを覚え、ついつい目を逸らす。


 一応の反応を目にした事で、異常はないと判断されたようだが、彼女の瞳から心配の色は消えない。


「一応治しておきますね」


 不安を消し去るように彼女は再び笑みを浮かべ、優しくも力強くそんな事を言い放った。すると先程まで歩き疲れて悲鳴をあげていた足が、何事も無かったかのように軽くなる。それはまるで画面の奥に見た羨望の力で。


「────魔法?」


 それは憧れた力。


 それは持ち得ない力。


 そして、それは僕を魅了した力。


 たった今、目の前で起きた事が事実ならば。


「ど、どうやったのか教えてくれないですか!?」


 一時、我を失った僕は思わず興奮気味に彼女の肩を掴み、羨望の眼差しを向けていた。


 魔法という力が欲しいと、僕が僕を駆り立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ