カムバック!我が日常!!(2)
遅くなりましたが第二話です!お楽しみ下さい!
俺と八坂は他愛もない会話(ポケットにティッシュ入れたまま洗濯したときの絶望について)をしながらクーラーのきいた講義室へ入った。やけに寒いな...って、誰だよ設定温度17℃にした奴...
「この後も講義が入ってると思うと憂鬱だな、小鳥遊よ」
「俺はこれで本日終了だから関係無いな、うん」
「薄情な奴め」
おっと八坂そいつはおかしい、恨むのは俺でなく時間割だろう。
テキストを引っ張り出しながら八坂は
「式野さんかわいい...」
「誰さ?」
「あそこに居る栗毛の子」
「へー」
はっきり言おう。わからん。なんたってこいつの目線の先には女子が4、5人いるので栗毛なんて言われても皆、茶髪っぽいので識別できないのだ。
「あ、お前今、誰が誰だか...みたいな顔しやがったな」
「何故判ったかは訊かないでおこう...」
「でもはっきりいってわからな...」
「おーい!式野~!小鳥遊が話があるってよ!!」
「は?」
やりやがったなこいつ、八坂の得意技の一つ、話あるある詐欺が俺に面倒事を運んできやがった。
それだけならまだいいとしよう、周囲が「ありえない」といった目を向けてくるのはなんとも頂けない。
「マジかよ...」
「まさかあのかれなしが...」
「やっぱり小鳥遊君は枯れてなかったんだよ~」
まて、俺は枯れてない。只、一般人よりも少しだけ異性に対する情熱とか関心とか欲望が薄いだけで...あれ?しかも、式野さんと思われる人物が近づいてきたし。
「え、な、何かご用かな?」
短めのふんわり栗毛のちっちゃい子、式野さんが話しかけてくる。名前は百合というらしい。なんというか子リスのような子である。八坂が可愛いというのも少し頷けるような気がする。大事な事なので二回言っておこう。あくまでも気がするだけである、うん。
「た、小鳥遊くん?」
「あ、悪い。なんでも...」
なんでもないと返しそうになったが脳裏にとある可能性がふと浮かんだ。悪いな八坂、話あるある詐欺のお礼という名の仕返しってことで。
「あ...あぁ式野さん、前の講義のノートを見せてほしい。後でカフェでなにか奢るからどうかな?」
八坂に目をやると「マジかよ」といった顔である。どうやら勘が当たったようで、今日の星座占いって意外と当たるんだな。ありがとう射手座さん...
「よし!約束だかんね!!」
「ありがとな、式野さん」
「ユリさんでかまわないよっ」
「へいへい」
そんなこんなで子リ...式野さんとのやりとりを終えた俺は「ふぅ」と溜め息をついた。
「なぁ、何で分かった?」
頬杖をつきながら奴がのびた声で訊いてくる。
「星座占い?」
「疑問系で返すなっての」
「コホン...なんとなくお前の声が少し控えめだったからな、お前が言ってた現在片想い中の女性は彼女かもしれんと思っただけで...」
「あらら、やっぱり付き合いが長いってこわいな」
「確証なかったけどな、俺が『呼んでないぞ』とか言ったときに『連れないやつだなー』とかから会話に持ち込む予定だったか?」
八坂は少し自嘲気味に笑い
俺の額を小突いて...って俺のおでこに何しやがる。
「バレたか。まぁ、チャンスは貯蓄できないから少しでも話たかったんだよな」
八坂は樋口廣太郎の言葉を織り交ぜてこう言ったあと少しだけ真剣な目をして
「まぁ、少しでもお近づきになれればと思ったわけで。」
これは少し申し訳なかったな。埋め合わせをしなければな...
「こういう真面目な八坂幸太郎もなかなかだろ?」
「俺の気持ち返せ」
「俺に惚れてたの?」
「次にふざけた事を言ったら口を縫い合わすぞ」
講義が始まろうとしていた。しかし、もうこの時点、いや式野さんのとやり取りの時点で俺は平穏な日常を手放していたようだ。その事に講義が終わりいつも通りにカフェの席につくまで俺は気付かなかった。