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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【後篇~神之章~】
52/82

20:普通のアンリ

「私は……人として生きたい」


 元々、私が望んでいたのは平穏だ。神族になってしまったことについてはもう心の整理はついていたけれど、人としての生を取り戻すことが出来ると言われると、やはり心は傾く。

 邪神の話を聞く限りでは、一時的なもので結局最終的には神族になるようだが、一種のモラトリアム期間と考えればいいだろう。

 テナやリリ、レオノーラ達と同じ時を過ごすことが出来るのであれば、それを選ばない理由は何処にもなかった。


「そう、分かったよ。

 それじゃあ、分離するからそっちに立って」


 邪神の言葉に従って、私は円卓から立ち上がって少し離れた場所に立った。


「じゃ、いくよ」


 その言葉と共に、私は訪れる衝撃に備えて目を閉じた。しかし予想したような衝撃はなく、代わりに何かが身体全体からごっそりと抜けていくような感覚がした。


「はい、終わったよ」


 邪神の声を受けて目を開くと、目の前には私と瓜二つの人が立っていた。

 いや、瓜二つと言うよりも、もう一人の私と言った方が正しいのだろう。

 神族としての立場と役割を押し付けることになってしまう『私』に対して何か言おうと口を開くが、それより先に私の手足に異変が生じた。


 い、痛……何か手足がじんわり痛い。


「何か痛い」

「成長痛じゃないかな。

 神族だった時には止まってた成長が、今一気に来たんだろうね」


 思わず呟いた声に、邪神が理由を説明してくれた。

 確かに、神族であった間には成長していなかったけど、私はその間に一つ歳を取っている。本来であればある程度の成長はあった筈だ。そんな急に成長すれば、痛みが生じるのも不思議ではない。

 激痛という感じじゃないけれど、じんわり痛い。


「テナは大丈夫?」


 成長が止まっていたと言う点では使徒族となっていたテナも同じだ。いや、私よりもテナの方が年齢的に成長の度合いが大きい分、痛みも大きいだろう。心配になって質問する私に、テナは痛みを堪えながら返答を返してきた。


「は、はい……手足と胸が痛いですけど、これくらいなら我慢出来ます」


 胸? 確かにテナは胸の辺りを痛そうに押さえているけれど、何故だろう? 私は何ともないのだけど……。

 みんなの眼差しが生温かいので、取り合えず私も胸を押さえておくことにした。……生温かさが増した、何故だ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 まだ痛みは残っているけれど、大分慣れてマシになってきたので、改めて対面の続きをすることにした。

 目の前に立つ『神としての私』を改めて見る。顔も体型も格好も私自身と瓜二つだけれど、やはり何処か存在感のようなものが異なっている気がする。目の前の彼女は、より純化した神族なのだから、それも当然なのだろう。


「貴女には色々押し付けてしまうけど……」

「気にしなくていい。貴女の記憶も想いも最後には私のところに還ってくる。

 人としての一生を満喫してきて」


 どちらも私なので議論しても仕方ないかも知れないが、『神としての私』がそう言ってくれたことで罪悪感が少し減って心が軽くなった。


「分かった。

 それで物は相談……」

「?」


『神としての私』がキョトンとした表情になる。自分も周りからこんな風に見えているのかと、少しくすぐったい気持ちになった。


「お金頂戴」

「…………………」


 自分自身にジト目で見られるという経験をしたのは、この世界で私が初なのではないかと思う。

 しかし、これはきちんと話しておかないといけないことなのだ。神族だった時は食事も趣味以上の意味はなく衣も住もお金は掛からなかったが、人族に戻った以上は先立つものがないと生活出来ない。

『神としての私』はこれまで通り神殿に居続けるのだろうけど、私は人族としての一生を満喫するためにもいつまでも神殿に引き籠っているわけにはいかない。そうすると、住居を手に入れるにしても宿に泊まるにしても、やはりお金は必要になるのだ。

 現在の資産の所有権が『神としての私』にあるのか私にあるのかは微妙な線だが、邪神として得たお金の方が多いためこのままいくと不利だ。ここは、交渉によって分け前を勝ち取らなければならない。


「7:3」

「どっちが7?」

「もちろん私」

「それは偏り過ぎ、そもそも神族の貴女はそんなにお金は必要無い筈。5:5」

「それは持っていき過ぎ。あれは邪神として得たお金。6:4」


 暫く応酬が続いたが、流石に『私』は手強かった。

 結局、私の取り分は四割となったが代わりに以前手に入れた聖剣、聖槍、聖弓を持っていっていいことになった。

 と言っても、これらについてはソフィアやアンバール達との勝負が終わったため、条件付きで勇者達に返すことになっている。言ってみれば、その条件を課す資格──勇者達への命令権──を譲り受けたような形だ。


「貴女と言う人は……」

「ま、『強欲』の権能持ちだしな」

「アンリ様……」

「…………………」

「あははは、君は本当に面白いね」


 交渉に熱中している間に、周囲のみんなから物凄く呆れた視線を向けられていた。

 ちなみに、レオノーラとリリは相変わらず土下座したりテナの後ろに隠れたりしている。空間内に魔眼を持つ者が二人も居ると、視線から逃れるのも難しいみたいだ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「アンリ様が二人!? これは私の祈りが叶った結果でしょうか」

「落ち着いて」


 そして、お前は一体何を祈ってた。


 何処で暮らすにしても、『神としての私』と私が瓜二つである以上、教皇には話を通しておかないと色々混乱を招きかねないと思って顔合わせをすることにしたのだが、二人に増えた私を教皇が見た直後の言葉がそれだった。

 顔合わせと言っても、既にお互いに見たことがあるので事情説明がメインなのだが、どうにも初っ端から意気を削がれた気分だ。


「成程、お話は理解致しました。

 つまり、『神としてのアンリ様』はこれまで通り神殿におわし、『人としてのアンリ様』は下界に住まれると言うことですね」

「下界……」


 神が住む世界と人が住む世界と言う意味では間違っていない表現だけど、こんな目と鼻の先でそんな言葉を付けるのはどうなのだろうか。


「それで、どちらに住まわれるのでしょうか。

 必要とあらば、神殿の3階層の部屋を整えますが……」


 その言葉に、私は少し考え込んだ。

 神殿に住むと言う選択肢はない。それでは、これまでとあまり変わらない。かと言って、邪神と同じ姿をした私が神殿の周りの街に住むのは色々とリスクが大きい。バレなければ問題ないとも思うものの、念には念を入れておいた方がいいだろう。

 一番良いのは、街から少し離れた場所に屋敷でも建てることだろうか。

 幸いなことに、資金もあるし体力のある働き手にも当てがある。


「街の外に屋敷を建てて住むことにする。

 建築士の手配と、完成するまでの仮の住処をお願い」

「畏まりました。すぐに手配を致します。

 完成までは3階層のお部屋をお使い下さい」


 そう言うと、教皇は慌ただしく謁見の間から立ち去っていった。


「それじゃ、そろそろ行くから」

「分かった、何かあったら連絡して」


 荷物も持ったし、お金もきっちり四割貰った。旅立つ準備は万端だ。旅立つと言っても、屋敷の建築が終わるまでは神殿の部屋か街の宿に泊まるだけだけど。

 それくらいならここにいてもいいような気もするけど、やはりケジメはきっちりと付けるべきだろう。ズルズルと居続けるのは良くない。

 なお、聖剣、聖槍、聖弓については暴れ続けているせいでダンジョンの一室を開かずの間にして対処していたが、よくよく考えればアイテムボックスに放り込んでおけばそんなことをしなくて済むということに気付いた。今更だけど。


 私は部屋の外に出て、待っていた三人に声を掛けた。


「テナ、リリ、レオノーラ……もう出られる?」

「はい、大丈夫です」

「はい」

「ああ、私の方は問題ない」


 神殿を降りる私と一緒に付いてきてくれるのはこの三人だ。但し、レオノーラは元々魔族の国との連携役としてこの教国に居たので、私と一緒に住むと言うよりは二ヶ所を行き来するようになることを予定している。


 謁見の間がある4階層から階段を降り、3階層に足を進める。

 ここから下は信徒に開放している階層であるため、基本的に私はこれまで足を運ばないようにしていた。仮にも神として崇められていた者が気軽に降りていっては混乱を巻き起こすと思っての配慮だが、人族に戻った今であれば問題ないだろう。

 3階層以下に居る信徒でこれまで私が直接会った人物は教皇くらいなので、顔がそこまで広まっていることはあり得ない。もしかすると私が神族になった時に目撃していた人物は居るかも知れないが、一年前の話だし遠目だったから問題ないだろう。


「そう言えば、まだ人形を持ったままなんだ?」

「いや、お前が取ってくれないからだろう……。

 いい加減取ってくれないか?」


 レオノーラはあれからずっと人形を腕に抱えている。もう既に皆の中でその光景が普通になっているし、そのままでもいいのではないかと私は密かに思っている。

 それに、取ってくれと言われても──


「無理、もう外せない」

「は!? どういうことだ?」

「それを外せるのは『神である私』だけ。人族に戻った私には外せない」


 そう、呪いを克服出来たのは神族になったからだった。逆に人族に戻った以上、最早その人形の呪いは私にはどうにも出来ない。

 ん? 今何か大事なことを見落としているような気がした。


「ちょっと待て、それでは私はずっとこのままでないといかんのか?」

「『神である私』なら外せるだろうけど、今出てきたばかりだし戻るのはなし。

 似合ってるからそのまま持ってれば?」

「勘弁してくれ……」


 がっくりと肩を落とすレオノーラ。まぁ、気が向いたら『神である私』に連絡して外すように頼んであげよう。気が向いたら。




 話をしている間に3階層の入口の大扉が近付いてきた。ここから先はある意味において新たな門出の第一歩となる。

 私は少々の期待と不安を胸に抱きながら、大扉を開けた。

 大扉の先には広い部屋があり、少なくない人数の人が動き回っていた。それらの人々は扉の開く音に反応して、各々の作業の手を止めて私達の方を向く。

 大勢の視線が集まって思わずたじろいだが、今の私はもう人族に戻ったのだから別に注目されることはないと、気を取り直す。








 ──が次の瞬間、部屋に居た人達は一斉に土下座を始めた。


 何故? と思うが、すぐにピンと来て慌ててステータスを確認する。


「ステータス」



 名 前:アンリ

 種 族:人族 [OLD]

 性 別:女

 年 齢:18

 職 業:魔導士 [OLD]

 レベル:1

 称 号:戦慄の邪人、ダンジョンマスター、変人

 魔力値:3031504

 スキル:邪神オーラ(Lv.5)

     悪威の魔眼(Lv.5)

     加護付与(Lv.7)

     状態異常耐性(Lv.6)

     闇魔法(Lv.6)

     アイテムボックス(Lv.4)

     ダンジョンクリエイト(Lv.7)

 装 備:災厄の扇

     黒死薔薇のドレス

     堕落のベビードール

     淫魔のスキャンティ

     闇のパンプス

 眷 属:テナ [OLD]



 やっぱり、スキルが普通に残ってる……。

 人族に戻ると言うから神族化のために不相応に植え付けられていた邪神用スキルも一緒に無くなると思っていたのに、神族になる直前の状態にまでしか戻ってない。

 って、よく考えればテナが眷属なのだから、少なくとも加護付与スキルを持ったままなのは確定だったのか。もっと早く気付くべきだった。

 しかし、それ以上に称号の戻り方が中途半端過ぎる。『戦慄の邪神』が『戦慄の邪人』で『変神』が『変人』って、『神』を『人』に変えただけじゃないか。と言うか、誰が『変人』だ。


 私は苛立ちのままにステータス表示の称号の部分を手に持つ扇で叩いたが、当然ながらすり抜けるだけで表記は何も変わらなかった。

 その時、ふと手に持った扇に目が留まり、嫌な予感がした。


 私はその予感のままに、扇をその場に置いて近くの机の上にあったペーパーナイフを手に取ってみた。

 ……次の瞬間、地面から飛び上がった扇にペーパーナイフが私の手から叩き落とされる。


 ああ、やっぱり……。

 人族に戻ったせいで克服した筈の呪いも元に戻ってしまっているようだ。また、着た切り雀生活になるのか。


「アンリ、どうかしたのか?」


 頭を抱える私に、人形を抱えたままのレオノーラが心配そうに話し掛けてきた。

 そうだ、さっき人形の話をした時に感じた違和感はこれだったのか。人形の呪いを外せないなら、装備の呪いも同じ状態で当然だった。

 レオノーラに呪いの人形をしばらく持ってるように言った報いだろうか。

 人を呪わば穴二つ、大分変則的だけど。




 その後しばらく頭を抱え込んだが結局どうにもならないので、元々の状態に戻っただけだと思うことにした。

 それよりも重要なのは、今周囲で土下座をし続けているこの人達をどうすべきかだ。


 一般人なら脱兎の如く逃げ出す私の魔眼と目を合わせて土下座で済んでいるのは、この人達の精神力が並みの人より強いからなのか、それともこの国にずっと居るせいで邪神の力に慣れたのか。

 いずれにしても、信徒に開放した1階層から3階層の内、最上階層である3階層に居るこの人達は教国の主要人物なのだろう。彼らくらいには教皇に話したように私と『神としての私』の関連性を説明しておいてもよいのではとも思うが、如何せんかなり人数が多いし噂が拡散しないとは言い切れない。

 ならば結論は一つ……


「戦略的撤退」


 三十六計逃げるに如かず、全員が土下座で下を向いているうちに姿をくらまそう。今なら多分気のせいで済ませられる……といいな。

 幸いにしてここはダンジョンの地上階層であるため転移出来る。本当は新たな門出だから歩いて外に出たかったのだけど、この際仕方ない。

 そう結論付けた私は、転移の魔法陣を展開して、三人と一緒に神殿の入口まで一気に移動した。


 移動した先は幸いにも物陰であり、いきなり人に囲まれるという事態にはならずに済んだ。


「い、いきなり跳ぶな」

「ビックリしました」

「うぅ……」


 三人がいきなり移動させた私に抗議してくるが、あの場合は仕方ないだろう。

 私は取り合わずに、神殿の入口の様子を窺う。神殿の入口付近に人が居ないわけではないが、それでもそれほど多くはない。今なら注目されることなく外に出ていけそうだ。


「行こう」

「やれやれ」

「はい」

「分かりました」


 私達は物陰から出ると、神殿の入口を潜った。





 丁度昼時であり、高く昇った太陽の光が暖かく周囲を照らしている。

 気温は高めだが涼しい風が吹いているせいで、それほど暑さは感じない。

 久し振りに吸った外の空気に、とても清々しい気分になる。



 ……あれ? 私、もしかして神族になった一年前から外に出るのは今回が初めてなのでは……?

 いやいや、そんなこと……あるはずが……あるかも。



 自分の引き籠もり振りに戦慄していた私だが、ふと視界に妙なものが映り、そちらに気を取られた。

 神殿の横で工事が行われ、何か巨大な建築物が建てられている。しかし、どうも形状が普通の建物とも違うように見える。その建築物の横幅はそれほど大きくないが高さは神殿の半分程まである、しかもまだ建築途上でありこれから更に高さを増すようだ。


「テナ、あれが何だか分かる?」


 私達の中で、教国の事情に一番詳しいのは中継ぎをしていたテナなので、試しに聞いてみた。テナは私の質問に首を傾げるが、視線の先を追って工事現場を見ると、頷いて回答を返してくれた。


「え? ああ、あの工事ですね。

 教皇さんがアンリ様の像を造ると言ってましたよ」


 あの話、本気で進めてたの!?

 そんな物を建てられたら、どうあっても私と『神としての私』の関連性を隠せないじゃないか。

 いや、でも私の顔をきちんと把握しているのは教皇くらいだし、建築士の人も顔が分からなければそんな似ている像は造れない筈……。


「設計図は教皇さんが自分で引いたらしいですよ。

 私も見せて貰いましたけど、出来上がり予想図はアンリ様にそっくりの素晴らしい出来でした!

 あの人、絵も描けるんですね」

「確かに、あの絵の出来は中々だったな」


 要らんところで余計な才能発揮するな。

 今すぐやめさせたいけど、見たところ既に邪神像建築は戻れないくらいまで進捗が進んでいる。

 あれだけの建築物となると最早国家事業であり、途中で止めたりしたら様々な部分に影響が出ることは避けらない。


「完成したら神殿と同じくらいの高さになるそうです。

 きっと、隣の王国からでも見えたりするんじゃないでしょうか」


 決めた、屋敷を建てる場所はなるべくここから遠い場所にしよう。そして隠れて住もう。















 今度こそ普通の人として生きていけると思っていたけれど、やっぱり私には波乱万丈な運命が待っているようだ。




 それでも、かつて邪神になってしまった時だって、みんなと一緒に笑って過ごすために頑張ろうと思えた。




 だったら、人間に戻れた今だって同じように頑張れる筈だ。




 いずれもう一人の私のところに還る時が来たら、精一杯人としての人生を満喫したと言えるように、




 もう邪神じゃない、普通のアンリとして歩いていこう。












「ところで、それは何だ?」

「経典のオリジナル、間違えて持って来ちゃってた」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




<元邪神アンリ>

 フォルテラ王国と神聖アンリ教国の国境付近に屋敷を建てさせ、テナやリリと共に暮らす。

 なお、屋敷は存在を知るものからは「黒薔薇邸」と呼ばれているが、設計を教皇に任せたせいで、とんでもない広さの豪邸となっている。

 時折厄介事が起こることはあるものの、概ね望んでいた平穏な生活を送ることが出来ている。

 なお、分離した際にダンジョンマスターの権限を持って来てしまっていることで『神としての自分』が困るのだが、まだ気付いていない。

 巨大邪神像のせいで顔が知れ渡ってしまったため、最近は仮面を愛用している。


「何故だろう、注目されてる気がする」



<元使徒テナ>

 人族に戻ったアンリに仕え、身の回りの世話を続ける。

 ずっと会うことを躊躇していた自身を奴隷商人に売った家族とも対面を果たし、和解した。

 黒薔薇邸に居住を移してからしばらく後に、一人の青年と出逢い騒動に巻き込まれる。


「アンリ様、お茶が入りましたよ」



<元生贄リリ>

 アンリの屋敷にて共に暮らす。

 最近、姉代わりのテナに倣って家事を覚え始めた。

 慣れたのか、アンリの魔眼と目を合わせても逃げずに居られるようになった。


「アンリ様、テナお姉ちゃん、ご飯出来た」



<魔炎姫レオノーラ=ロマリエル>

 神聖アンリ教国との国交樹立への貢献を功績として、若くして魔王の座を譲り受ける。

 両国の懸け橋となり、本来敵対種族である筈の人族からも慕われる。

 なお、人形を片時も離さず持ち続けているため「人形姫」や「実は人形の方が本体」などの異名を持つ。


「違うと言ってるだろう!?」



<教皇ハーヴィン>

 今日もはっちゃけ布教中。

 完成した巨大邪神像にご満悦の様子。

 最近では信徒への配布用の小型邪神像の大量生産を目論んでいる。


「フッフッフ、草の根アンリ様計画は順調ですね」



<聖剣の勇者アーク>

<護剣ジオ>

<魔炎フレイ>

<清風ウィディ>

 聖剣をアンリから返して貰う為、屋敷の建築で散々扱き使われる。

 なお、アークが開放されないと身動きが取れないため、パーティメンバーも巻き添えで働かされた。

 魔王討伐の旅はアークがその気をなくしてしまったため頓挫した。


「も、もう大工仕事は嫌だ……」

「まったくだぜ」

「ほんっと扱き使ってくれちゃって」

「凄い人でしたね……」



<聖槍の勇者ライオネル>

<聖弓の勇者オーレイン>

 アークと同様、聖槍や聖弓の返還と引き換えにアンリに屋敷の建築をさせられる。

 共に作業する中で愛が芽生え……なんてことも無く、ライオネルが一方的にオーレインを口説き続けている。


「なあ、そろそろ俺達付き合わねぇ?」

「いい加減しつこいですよ、ライオネル」



<魔王エリゴール=ロマリエル>

 娘であるレオノーラに魔王位を受け渡し、気儘な冒険者暮らしに。

 ダンジョン「邪神の聖域」に挑戦を繰り返している。

 何気に攻略出来なかったことが悔しかったようだ。


「むぅ、今日こそは行けると思ったのだが」



<烈風騎レナルヴェ>

<血氷将ヴィクト>

 四天王として、新たな魔王であるレオノーラに仕える。


「先代陛下はご無事だろうか」

「あの方なら何があってもそう滅多なことにはなりませんよ」



<剛地鬼イジド>

 十円ハゲも治って職場復帰。


「俺はハゲじゃねぇ……っ!」





<邪神アンリ>

 邪神殿最上階にて、世界の管理を続けている。

 時折、人としての自分の様子を観察している。


「あの仮面、格好いい……」



<光神ソフィア>

<闇神アンバール>

 勝負が終わった後も、何故か邪神殿に留まり続けている。

 その意図は不明だが、そのおかげもあって邪神アンリの寂しさは和らいでいる。


「悪いことは言いません、やめときなさい」

「まったくだ、趣味悪ぃぞ」



<黒龍ヴァドニール>

「こい」を覚えた。


「グルルル……」



<邪神の鎧アンリルアーマー>

 一号は相変わらず20階層でボス稼業に励んでいる。

 新たに召喚された二号は黒薔薇邸の番鎧として活躍中。

 なお、二号は一号と異なり女性用鎧をベースにしている。


「……………………」

「……………………」



<死を超越せし皇インペリアル・デス>

 ダンジョンの30階層はあまりに攻略者が来ないため、普段は邪神殿上層階で邪神アンリの側近をしている。

 テナが居なくなったことにより家事を行う者が居らず様々な面で居住の危機であったが、数百年の経験を持つ彼の存在で危機は回避された。

 必要も無いのに食事をしたがる三柱のための料理も彼が行っている。

 テナが居なくなったためにアンリルアーマーに搭乗出来るのは邪神アンリと彼だけになってしまったが、代わりにアンリルアーマーに搭乗した上で黒龍ヴァドニールを乗騎とする最終形態アンリル・デスライダーを編み出した。なお、生身の方が強いのは言うまでも無い。


「貴女様に永久の忠誠を」



<邪神?>

 今日も「狭間」で揺蕩っている。

 時折、邪神殿を突然訪れて邪神アンリ達に絡んでは蹴り出される。


「さて、次は何で遊ぼうか」

以上をもちまして、邪神アベレージ本編完結となります。

この後少し間を置いてから番外編などを投稿するつもりではありますが、

アンリの物語「は」これにて終了です。

途中、展開について色々ご意見も頂戴しましたが、

何とか完結まで漕ぎ付けられたことはひとえに応援して下さった皆様のおかげです。

ご読了、そして応援本当にありがとうございました。


なお、今後の予定についての詳細は活動報告をご参照頂きたいと思いますが、少しだけここで宣伝しておきます。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



光神と闇神、そしてちょっとマイペースな邪神が治める世界。


その世界の最大勢力を誇る聖光教は、権威を失いつつあった。


焦る上層部は権威回復の象徴として、勇者召喚の儀式を強行する。


しかし、もっとマイペースな邪神の介入によって、召喚された青年には厄介なスキルが付与されていた。


騒動を起こし追われる身となる青年は、一人の少女と出逢い、共に理不尽へと立ち向かう。




「邪神アベレージ」の世界で贈る新たなる物語 Coming So…nouchi

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