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邪神アベレージ  作者: 北瀬野ゆなき
【後篇~神之章~】
50/82

18:決着

 攻略階層の最高記録を達成した混合パーティだが、最後の砦でもある30階層のボス──インペリアル・デスに敗れて敗退となった。

 なお、ダンジョン内で倒れた以上、相手が勇者や魔王であっても武器やアイテムの回収を免除する道理は無いため、聖剣や聖槍、聖弓に魔剣もしっかりと回収させて貰った。勿論、それ以外のアイテムやお金も含めて。


 そしてその瞬間が、彼らのダンジョン踏破が不可能になった瞬間でもあったとも言える。


 勇者達についてはソフィアの加護が付与された聖なる武具が力の源であり、それを奪われると力の大半が失われる。

 おじ様の方はそこまで武器に依存しているわけではないけれど、やはり魔剣があると無いでは戦力に大きな差が生じる。

 聖剣や魔剣を失った彼らには、最早ダンジョンを攻略するだけの戦力は無かった。




 そして、そのまま勝負の期間は終わりを告げようとしていた。




 ちなみに、聖剣や魔剣についてはソフィアやアンバールから要望があり、期間中は預かるものの勝負が終わったら返すことにした。

 回収した以上は私の物なので無視しても良かったのだが、どうも聖剣などのソフィアが加護を与えた武器は持ち主が呼ぶとその手元に飛んで戻る機能があるらしく、ダンジョンの中でギュンギュン飛び回って危なっかしいことこの上ないのだ。

 取り合えず捕獲して、ダンジョンの一部屋に放り込んで外から鍵を掛けておいたが、部屋の中から聞こえる音から推測するに依然として暴れている様子が窺えた。おそらく、勇者たちが諦めずに呼び掛け続けているのだろう。

 私としてもこんな傍迷惑な剣なんかさっさと返してしまいたい。こんな状態じゃ売り物にもならないし、ダンジョンのドロップアイテムにも出来ない。

 魔剣の方はそんな機能もなく大人しいのだが、聖剣を返すなら魔剣も返さないと不公平だろう。それに、魔剣は魔王が代々受け継ぐものらしいので、いずれレオノーラの手元に渡るのだから、友人としては返しておくべきだと思う。

 まぁ、本来返す義務は無いのだから、多少の代価は要求してもいいよね。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 勝負を開始してから一年間、その期限が残り三十分程で終わりを迎える。

 私達はその時を31階層の『攻略の証』を安置した部屋で見届けようと、全員で集まっていた。


「『攻略の証』って……」

「まさか、『コレ』がか?」


『攻略の証』を見たテナとレオノーラの表情が引き攣る。そう言えば、ソフィアとアンバールは既に知っていたけど、彼女達にはこのことを言っていなかった。

 部屋の中央には丸テーブル状の台座があり、その上には継ぎ接ぎだらけの不気味な人形が置かれている。

 これが私の設置した『攻略の証』、レオノーラが始めてダンジョンに来たときにも使った呪いのテナ人形だ。


 なお、私自身は神族になることで呪われている状態を克服したが、だからと言ってこの人形の呪いが浄化されたわけではない。そのため、この人形に私や眷属のテナ以外が触れればもれなく呪いもプレゼント、という寸法だ。

 別に、ダンジョンを攻略された場合は腹いせに呪ってやろう、なんて陰険なことを考えていたわけではない。邪魔だから誰か持っていって欲しいとは思ったけど。


「残り時間も後僅かですね……」

「チッ」

「ひっ!?」


 勇者やおじ様達がそれぞれの武具を失った時点で既に敗北濃厚だったにも関わらず、敗北宣言はしていなかったソフィアとアンバールだが、事ここに到っては流石に勝利を諦めた様子を見せている。ソフィアの方は落胆した態度だが、アンバールはあからさまに不機嫌そうだ。

 アンバールがあまりに苛立ちを振り撒いているため、リリなんか怖がって私の後ろへと隠れてしまった。


「今から攻略者がここまで来ることもないだろうし、もう勝負は決まったな」

「おめでとうございます、アンリ様」


 レオノーラとテナの祝福を聞いて、ようやく私も勝利の実感が湧いてきた。勝利の直後に『攻略の証』をトロフィー代わりに掲げようと、台座に向かって一歩前に出……ようとして、つんのめった。

 バランスを崩して倒れ込みながら後ろを見ると、ドレスの裾の上にリリの足が乗っている。どうやら、アンバールを怖がって私の後ろに隠れたリリがドレスの裾を踏んでしまっていたようだ。以前着ていたローブと異なり、今着ているドレスはそこそこ裾が長いため、気を付けないと踏まれてしまうのだ。

 後ろから引っ張られるような形になってバランスを崩した私は、倒れる中で反射的に前にあった台座に手を伸ばして掴むことで、何とか転倒することを免れた。


「大丈夫ですか、アンリ様!?」

「ご、ごめんなさい……」


 テナが慌てて私を助け起こしてくれた。リリは……謝らなくていいから裾の上から降りて欲しい。


「おいおい、何やってんだ」

「取り合えず、転ばなくて済んだようですが」


 ソフィアとアンバールも呆れたような声を掛けてくる。


「前の服より裾が長いのだから、気を付けないと危ないぞ。

 あと、人形が撥ね飛ばされてこっちまで飛んで来たぞ」


 咄嗟だったので気付かなかったが、先程私が台座を掴んだ際に手が当たってしまったのか、台座の上に置いてあった呪いのテナ人形が撥ね飛ばされてレオノーラの足元まで転がっていってしまっていた。

 彼女はそう言いながら、屈んで足元の人形を拾う。





「……………………あ」


 テナがその様子を見て、ポツリと声を上げた。私を含めた部屋の全ての者がそれを聞いて、彼女の視線の先に居るレオノーラへと視線をやった。


「……………………あ」

「……………………あ」

「……………………あ」

「……………………あ」


 みんな揃って一律、同じような間抜けな声を上げてしまう。


「え? ……………あ」


 突然みんなから視線を向けられて戸惑ったレオノーラだが、視線の先が自分の手の中を向いていることに気付き、そこにある物に気付くと同じような声を上げた。


「「「「「「あああぁぁぁーーー!?」」」」」」


 部屋中に叫び声が上がる中、転移魔法が発動してレオノーラの姿がそこから消えた。





 レオノーラのバカ……





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「納得いかない」


 円卓のある会議室に場所を移して、開口一番で私はそう告げた。


「担当種族が『攻略の証』に最初に触れたら勝ち、だろ?

 疑問を挟む余地はねぇだろうが」


 確かにレオノーラは魔族なのでルール上ではアンバールの勝ちとなる。しかし、あんな事故で勝敗が覆るのは釈然としない。そもそも、もとはと言えば彼がリリを怖がらせたのが原因なのだ。


「ソフィアの意見は?」

「そうですね。確かに締まらない決着の付き方ではありますが、ルールに従えばアンバールの勝利とせざるを得ないのではないですか」


 彼女からしてみれば、どちらであっても自分の勝利になることはないのだから、敢えてルールを調整する気にならないのは仕方ないか。

 私としても自分の意見が不利なのは理解している。ただ、少し……いや、かなり悔しいだけだ。


「ア、アンリ……私が悪かったから、いい加減許してくれないか?」

「ダメ、まだ正座してて」


 会議室の隅の方から私に声が掛けられたが、私はちょっと冷たく返事をする。声を掛けてきたのはレオノーラで、先程から反省のために正座して貰っている。

 転んで人形を台座から落としてしまった私が悪い部分もあるからそこまで強く責めるつもりはないのだが、それでも彼女のうっかりによる部分も大きいのでしっかり反省して欲しい。


「正座は兎も角、この人形を取って欲しいんだが……」

「ダメ、しばらく持ってて」


 正座をするレオノーラの膝の上には、呪いのテナ人形が置かれている。この人形、以前は捨ててもいつの間にか戻ってくるというだけのものだったが、放置している間に呪いが強まったのか、手放すと即座にトコトコ歩いて戻ってくるようにレベルアップしていた。そのため、レオノーラは手放すに手放せず、ずっと抱えている。


「まぁ、そっちの落とし前は好きにしな。

 過程は兎も角として勝ちは勝ち、負けは負けだ。

 諦めるこった」

「………………分かった」


 アンバールの念押しに、私は渋々と自身の敗北を認めた。悔しいけど。





「と言うわけで、早速『権能』の割振りを決めちまうか」


 そう言うと、円卓の一角に腰掛けているアンバールの周囲に無数の文字が浮かび上がった。続いて、ソフィアの方も同じように自身の周囲に文字を浮かび上がらせる。


「これが今俺らが持ってる『サブ権能』だ。

 新たに『サブ権能』にするべきものもないからな、今俺らが持ってる『サブ権能』の何割かをお前に渡せば完了だ」

「具体的に何割にするのですか?」

「そうだな……4割ってとこか」


 各々から4割ずつだと、ソフィア:アンバール:私の持つ権能の比率は6:6:8となる。


「それだと私だけ多い、不公平」

「バランスが崩れていない範囲であれば問題ない筈です」


 確かに、少しでも自分の持つものを減らしたいからこそ勝負をしていたのだから、配分が均等でないことに文句を言うつもりは無い。

 私が不公平だと言っているのは「私だけ」多いことに対してだ。

 勝負に勝ったのはアンバールなのだから、私とソフィア両方の配分を増やせばいい筈なのに、私だけ狙い打ちされるのは納得出来ない。


「何で私だけ?」

「お前は新人なんだから経験積む必要があんだろ、好意で仕事振ってやってるんだから有難く思え」


 私は睨みつけるが、アンバールは涼しい顔をして受け流した。

 と言うか、絶対嘘だ。この悪意のある配分は、ダンジョン攻略で苦労をしたことに対する意趣返しに違いない。

 しかし、比率を決めるのは勝者というルールだし、バランスが崩れていると言うほどでもないので、悔しいが私がここで騒いでも覆りそうにない。


「じゃ、まずは大罪系からいくか。

 そうだな『暴食』『強欲』『色欲』『嫉妬』をくれてやる」


 は? 大罪って七つの大罪だろうか、この世界にも同じ概念があったのか。

 それにしても渡されたセレクションが何だか酷い。抗議せねば。


「私はそんな大喰らいじゃない」

「食事の必要もねぇのに毎日三食喰ってる時点で十分大喰らいだろ」


 それを言われるとグゥの音も出ないが、最近は貴方とソフィアも毎日三食食べてるのに……。


「だったら『強欲』というのは……」

「いや、これはどう考えてもお前にピッタリだろ」


 …………まぁ、入場料取ったりしてたから、これはやむなしか。

 しかし、残り二つは断じて合っていない。


「『色欲』と『嫉妬』は絶対に合ってない」

「そもそも合ってるかどうかなんてのは、参考にはなっても必須事項じゃねぇしな」


 さっきと言ってることが違い過ぎる。

 と言うか、七つの大罪とこの世界の大罪系が一緒だとすると、残っているのは『怠惰』『傲慢』『憤怒』……絶対、意図的に格好いいやつだけ自分のとこに残したな、この男。

 あと、比率が合ってない。四割と言いながら半分以上渡すな。


「それでは私からは美徳系を渡しましょう。

 『節制』『倹約』『忍耐』をあげます」


 ちょっと待った、大罪系と混ざって変なことになってる。『暴食』と『節制』とか両立し得ないから。

 あと、こっちはこっちで『勤勉』『純潔』『慈悲』『謙譲』とか耳当たりの良いものを自分のところに残してるし。

 あまりのことに呆然としている間に、ソフィアとアンバールの周囲を漂っていた文字のうち幾つかが私の方へと飛んできた。

 要らない、要らないってば。


「じゃ、次は生物系だな……」


 待って、お願いだから。この流れのままだととんでもないことに……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 数時間後、燃え尽きて円卓に突っ伏した私を余所に、散々私に『権能』を押し付けたソフィアとアンバールはホクホク顔で部屋から出ていった。


「あの、アンリ様……大丈夫ですか?」

「大丈夫……じゃない」


 億劫な気分のまま顔を上げると、周囲には様々な文字が浮かんでいる。その内容は非常に雑多であり、こんなごった煮の内容を司ることを考えると最早邪神と言えるかどうかすら分からない。

 最後にアンバールが「こんだけごちゃ混ぜならこれも入れとくべきだろ」と言って置いていった『混沌』の文字が目の前で光っており、無性に腹が立った。




『称号「変神」を獲得しました』




 随分と久し振りに聞いた『システム』の声だけど、『変神』ってなんだ『変神』って。

 そこはせめて「混沌神」にするところでしょう!?




 ……私はこの苛立ちを何処にぶつければいいのか。


「その……わ、私は一体いつまで正座していればいいんだ?」


 そんな私の耳に、会議中も正座をずっと続けていたレオノーラの声が聞こえてきた。最早足の痺れが限界を迎え、僅かに身じろぎするだけで凄まじい刺激を受ける状態になっているらしく、動くことすら出来ずに硬直している。

 そう言えば、こうなった原因の半分くらいは彼女のせいだった。


 私は矛先を向ける相手を見付けたことに内心で暗い笑いを浮かべると、彼女の痺れた足に向かって指を伸ばした。

本編完結まで残り2話の予定です。

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― 新着の感想 ―
変神の読みは「へんじん」でいいのかな?
[一言] 絶対こうなるだろなと思ってました!!! リリかレオノーラのどっちかが証触っちゃうんだろうな〜と思ってましたましたが、レオノーラでしたか。 あと神様2人はなんだかストレスが凄いです! 掛け合い…
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