ブーケンビリアの花束を抱えて
薄らと目に映るのは、白い天井。
消毒の臭いが充満した部屋。
僕は、こんな所でなにをしているんだ?
身体を起こそうと試みるが、動かない。
意識はあるが、どことなく朦朧とした感じだ。
数時間前―――
「あの白い花を両手いっぱいに。」
僕は、花屋の店先で白いブーケンビリアを指さす。
「プレゼント用でしょうか?」
「ええ。大切な人に。」
「リボンは、なに色にしますか?」
今から僕は彼女に会いに行く。
特別な日になるだろう。
今日という日は、一生忘れられない記念日に。
僕は、右のポケットの片手に収まるほどの箱の感触を確かめる。
ドキドキする鼓動を沈めるために、深呼吸を繰り返す。
遠くに、彼女の姿を確認する。
ああ、今日も彼女は可愛らしい。
僕に気がつくと、片手を大きく振った。
あの笑顔だ。僕は、あの笑顔を一生護ろうと思った。
よし。
彼女が駆け寄ってくる。
花束を抱えたまま、僕も彼女の方へと駆けだす。
ドラマのワンシーンみたいだ。
ププー!!プププーー!!
突如、クラクションが鳴り響いた。
車道を振り向くと、止まった車を避けようとした後続車が・・・。
舵を失って、こちらに向かって来る。
キキキーーー!!!
ガシャン!!
「きゃぁぁぁぁぁああ!!!」
―――僕を呼んでる?
目を開けて、見えたのが白い天井。
そして、君の泣き顔。
視界の片隅に、白いブーケンビリアが映る。
花瓶に活けられているがボロボロな感じだった。
ぽとり。
白い花が落ちた。
君の涙が僕の頬に降り注ぐ。
薄れゆく君の顔。
僕は、君に・・・。
ブーケンビリアの花束を抱えて。
―――君に伝えたかったんだ。