第三話 ボク、モテない
僕は友達が少ない。
まぁ、僕と対等に話せる人なんてそうそういないから仕方のないことさ。
あくまで少ないだけであって友人はちゃんといる。
僕が認める唯一の男子の友達は山野辺武。彼とは趣味がよく合う。
特にアニメ、「戦慄のパンツ」の彼の考察は神がかっている。
女子にいたっては知り合いすらいない。
だからといって別に問題は何もない。
そもそも女子と面識がないのだって僕が好んでやっているのだ。
三次元の女なんて見るだけでもおぞましい。
奴らはみんな淫乱で売女だ。
外面も内面も醜くいし、自意識過剰。
僕が横を通っただけで
「うわ、今のやつ見た?キモッ」
と口に手を当ててヒソヒソ話をする。
聞こえてんだよ。
やっぱり二次元が至高だね。
彼女たちの肌にはシミの一つもないし、シワなんてできることは一生ない。
そして誰もかも美しい美女ばかりだ。
性格だって良い子ばかりだ。
毎朝僕のことを起こしてくれる甲斐甲斐しさ。
僕のことを雨の中ひたすら待ち続けてくれる健気さ。
風を引いた時にわざわざおかゆを作ってくれるやさしさ。
なによりみんなぼくのことが大好きなのさ。
山野辺くんは
「俺は、二次元も好きだけどね、三次元も好きなんだよ。というかね、ロリ、ロリこそ至高。」
と言っていたけれども。
僕はガキが大っ嫌いだ。
うるさくてわがままで傲慢で残酷で悪魔、鬼、デーモン。
認めたくないが血縁関係的には僕の妹に該当する人物がまさにそれ。
いつまでたってもガキ。
この前なんか
「ちょっと、やきそばパン買ってきて」
兄をパシリにすんなよっ。
しかも焼きそばパンとか定番すぎなんだよっ。
その点、二次妹はすばらしい。
みんな僕の言う事を聞いてくれる。
「お兄ちゃん、だーい好き」
みんな僕のことが大好きなんだ。
唯一の難点はみんな恥ずかしがり屋で画面から出てこないことだけれど。
結論、三次元(笑)になんか一生興味持たないね。
なんて考えていた時期もありました。
その出来事は昼休みのことだった。
ぼくはいつも屋上で弁当を食べる。基本だれもいない。僕の一番安心できる場所だ。
今日は運悪く、先客がいた。
女子である。弁当をくっている。しかも僕の定位置で。
すごい邪魔な女だな。
自分の領域を犯されるのは耐え難い苦痛である。
心の中で女を思いっきりいたぶった後、便所で食うか、と思うと
「あの、あなたもここでお弁当たべるんですか」
話しかけられた。
女子に話しかけられたのは実に8年ぶりほどだ。
だからといってどうということはない。
「い、い、いつもっ、そ、そこで、たべ、てるっ」
「そうなんですか、よかったら一緒に食べません?」
女子に食事に誘われるなんて生まれてはじめてだ。
よくみると、かわいい。あくまで三次元にしてはだが。
だからといってどうということはない。
「ふぁい」
まぁせっかくだから一緒に食べてやろう。
「ここいいところですね」
「う、うん」
「風が気持ちいい…」
この女は電波か何かなのだろうか。こんな屋上で僕と飯を食おうなどと正気のさたではない。
にぃにぃ、メールだお♪
メールだ。送信したのは武だ。
“次回のシスターのパンツはくま“
ああ、「戦慄のパンツ」のシスターのパンツ予想か…。
“僕は猫”
返信して顔を上げると女がこちらをじっと見ていた。
「その着メロ…」
なんだよキモいとでも言いたいのか、これだから三次元は
「戦慄のパンツのフレデリカじゃないですかっ!」
彼女は意外なことにアニメオタクだった。
それから彼女との交流は続いた。お昼休みに一緒に屋上で弁当を食べ、好きなアニメ、ゲーム、漫画の話をした。彼女の話もした。彼女は後輩で、仲間でアニメを見る人があまりいなかったので、話せる人がいてうれしいとか。
僕の話もしたが、そこは省こう。
毎日楽しかった。
こんなに三次元の女の子と話したことはいままで一度もなかった。
そして好きになったことも。
だが、幸せは唐突におこり、唐突に消える。
「先輩、実は、私、好きな人がいるんです」
この言葉を聞いた時、僕は高揚した。
「明日、告白します…」
もしかしたら…。そんな淡い期待をいだいた。
僕はドキドキしながら彼女を見つめた。
彼女は羞恥からか、頬を赤くし、目をそらしている。
僕はそんな彼女に話しかけようと…
「あーっ、こんなとこにいたっ」
耳障りな声が聞こえる。
「さがしたよー、いつもこんなとこでご飯食べてるの、って、うわっ、アンタ」
実の兄を汚物をみるような目で見るんじゃない。
「大丈夫?こいつになにかされなかった?」
「え? 平気だよ、林檎ちゃん。というか、林檎ちゃんのお兄さんだったんですか!?」
不本意ながらそうですが、というか、林檎、お前邪魔、消えろ。
「は? 邪魔なのはテメーだよ」
「り、林檎ちゃん? ケンカはダメだよ?」
「わかったわ、それより、こんなやつはほっといて、はやく明日の薫の告白の打ちあわせをしましょう。」
いまなんといった? 誰に? 薫に? 告白? 大野、薫、のことか?
林檎はめんどくさそうにこちらを見て、言った
「それ以外にだれがいるってのよ」
彼女を見る。彼女は頬を赤くしてうつむいている。
僕は悟った。すべて、ただの勘違い。僕の期待。それは間違いだった。
今までの僕なら、三次元の汚さをののしり、蔑むことでつらさをごまかしたのだろうが、できなかった。
少し、本気で彼女のことが好きになっていたから。
けれども僕には彼女を引き止める勇気も、彼女に告白する勇気もなかった。
精神力を振り絞って言えたセリフがこれだ。
「告白、頑張って」
「はいっ、ありがとうございます。先輩っ。」
彼女達は屋上から去った。
僕も、もうここに来ることはないだろう。
明日からは便所か…。
その日の朝はいつも通りだった。
DQNで女たらしで、くそ野郎の大野薫が教室に入ってくると共に騒ぎ始めるクラスの女子、そして男子。
男子どもは女子に人気な大野を表面上嫌っているが実のところそうでもない。むしろあいつら全員仲がいい。まぁ僕には関係ない。
大野薫と一緒に入ってきた武が話しかけて来た。
「ナッシー、おパンツ」
「おパンツ、武」
いつも思うのだがなぜ彼は大野薫と仲がいいのだろう?
タイプが全然ちがうと思うのだが…。
因みにおパンツ、というのは朝のあいさつである。念のため。
「昨日の戦慄のパンツ見た?」
「見た見た、幼女シスターはやっぱりくまパンだったね」
ほほう、やはりか。僕は猫の可能性もあるかと思ったのだが、やはり武はすごい。
僕の予想の斜め上をいく。
「くまパンだったということは前回の伏線は…」
アニメの話をしていると彼女のことを思い出す。
大野薫を見る。ヤツは机に突っ伏して寝ている。
あいつは今日、あんなにかわいい子に告白されるのだ。
うらやましい。ねたましい。けれど、彼女は昨日、頬を赤くして笑っていた。
こいつのことを考えて。嬉しそうに。ならば僕も我慢しよう。彼女を応援しよう。
「ああ、やっぱり、幼女シスターは漏らしていない、実は…って、むむっ」
いきなり武が立ち上がり、窓に張り付いた。
彼はかなり大きいのでいきなり立ち上がるとびっくりする。
「ど、どうしたんだ」
「あそこの小学生のパンツみえたああああ、ふうおおおおお」
狂喜乱舞していた。
その日は便所で昼飯をくった。
放課後、家に帰ろうとしたところを、黒川先生に呼び止められた。
「木島、大野と山野辺をしらないか?」
どうやら武と大野をさがしているようだ。
「た、武なら小等部じゃないですか?…大野はしらないです。」
大野の場所なんて知らないし、知りたくもなかった。
「おお、ありがとう。真っすぐ家に帰れよ」
すごい勢いで走り去った。
仮にも教師なんだから廊下を走るなよ…。
黒川先生と別れた後、僕は家に帰ろうとし、遭遇してしまった。
僕はその現場にいたくなかった。はち合わせたくなかった。
僕は一部始終を見た。聞いた。そして、彼女は去った。
涙を流して。
まぁ恋愛はそういうもんだ。僕もCG回収のために何回かキャラをふったことはある。でもそれはとても心苦しくて、もうしわけなかった。なのに、きさまは…
「女なんて、めんどうくせえ」
きさまは…、
「大野…薫…」
その日の夜中、僕は家を抜けだし近所の神社にいった。五寸釘と藁人形をもって。
藁人形にはあの畜生の写真をはった。クラス写真でヤツのを切り取った奴だ。
ひたすらご神木に釘を打ち付け、人形を磔にした。
ガンっ、ガンっ、ガンっ、ガンっ、ガンっ、
人形をヤツだと思った。
ガンっ、ガンっ、ガンっ、ガンっ、ガンっ、ガンっ、ガンっ、ガンっ、ガンっ、ガンっ
ヤツという男がいなければっ、ヤツという、男がいなければっ
しばらくしてから僕は家に帰り、寝た。こんなことでしか、ヤツに復讐できなかった自分を恥じて。いや、そもそも、やつに復讐してすらいない、できない、自分を恥じた。
好きだった子が他の男に振られたことってあります? 僕はあります(泣)