第十話
細作の報告を受けた俺達(冥琳・享・穏・俺・AI)は、
感想としては、
【思っていたよりも多いな】
という所だった、
何が?
と問われれば、
【天の御使いが現れる】
といった事象がだ、
いや、
俺のような未来から来た人間が沢山居るというわけではなく、
多くの勢力が黄巾党を潰すのに【天の御使い】を担ぎ出していた、
まぁ、
そのどれもが白鬚の爺さんを戦場に連れてきて【天の御使い】が居るぞと脅して戦うような感じだった、
俺達の作戦が功を奏したと言えるだろう、
それだけ俺達の細作が優秀で且つ噂の広まりが早いということでもある、
こんな時代だからこそ藁にも縋る気持ちで希望の持てるような噂はあっという間に広がるのかもしれない、
しかし、本来であれば天の御使いが自勢力に居る事を喧伝するなんて漢王朝に対する反逆の意図ありと取られそうなものだが、
なんといっても最初にこの戦法を取り始めたのがその官軍だというのだから仕方がないといえば仕方がない、
天子である皇帝の軍に【天の御使い】が居て勝利に導く、
官軍に【天の御使い】が居る事に何の問題があるというのか?
何の問題もないわな、
さて、
他勢力が【天の御使い】を担ぎ出したのも同じような理由からだった、
ワラワラと現れる黄巾党相手に官軍だけでは手に負えなくなり皇帝の勅を持って各地の勢力の戦力を宛てがう事で解決を見出そうとしたのだが、
多くの勢力もまたワラワラと沸き出すように現れる黄巾党には手を焼いた、
これを殲滅するために多くの勢力が【天の御使い】を担ぎ出す、
皇帝の勅を持って黄巾党を殲滅しているのだから【天の御使い】を担ぎ出しても文句は言われないだろう、
ましてや官軍も行っているのだから。
なんとまぁ無茶苦茶な理屈ではあるが、
まずは黄巾党の殲滅を図るために漢王朝はこれを黙認した、
漢王朝の手足となって働いているうちはそれでも良いと判断したようだ
そんな中、執務室の扉が音を立てて開かれる、
「ちょっと!! 将っ!! 袁術の所に【天の御使い】が現れたって大騒ぎになっているわよっ!!」
雪蓮である、
「解っているさ、袁術だけじゃない、他にもあちこちで【天の御使い】が現れているぞ。」
冥琳が答える、
「なんでそんなに落ち着いているのよっ!!」
「雪蓮、落ち着け、これくらいは想定の範囲内だ、報告を見てみろ、【天の御使い現る】そのどれもが白鬚の爺ばかりだ、つまり我々の流した姿を模した者ばかりという事だ。」
と冥琳、
「つまりはどこも偽物だって解っていながら虚名を利用するために使っているっていうことです~。」
と穏が続く、
「これはこのあと荒れるぞ、今は良いかもしれないが少し落ち着けば漢王朝があるうちに御使いを立てた連中は目をつけられるだろうな、そしてそいつらはそれを有耶無耶にする為にも簡単に泰平になって貰っちゃ困る、そしてそのうち綱渡りのような平和も終わりを告げるだろうな、そしてそいつらはこう主張するだろう、
うちの御使いこそが【本物】だ、
ってな、孫家に【天の御使い】が現れるのはそんな荒れた世の中を平定する為で良い。」
クククと笑いながら将が雪蓮に語る、
「冥琳、それで大丈夫なの?」
「大丈夫なの、とは?」
「時間がかかりすぎるんじゃないのか、ってことよ。」
「時間が掛かれば掛かるほどにうちは有利になるんだぞ、闇塩の利益、AIによる画期的な農法で我らは今年も収穫はかなり上向きになる、各地に飛ばした細作からの情報で農作物の出来不出来は早い段階から解るからその利鞘だけでもかなりのものになる。」
「他所にも時間を与えることにもなるわよ。」
「実際にはそんなに時間はかからないと思うぜ、黄巾党も徐々に追い詰められているみたいだしな。」
そう言って将は書簡を一つ雪蓮に差し出す、
「何これ?」
「黄巾党内部からの情報、張角・張宝・張梁って三姉妹の旅芸人で合ってたんだな、本人たちはこんな大事になるとは思わなかったらしいぜ。」
「どういうこと?」
「そもそもの始まりは歌が終わった後に【大陸一になりたいの】って言ったところかららしいです~。」
穏が補足する、
「本人たちは何の気無しに大陸一の歌手になりたいと思って言った一言が発端らしい。」
「ちょっと、それでこれだけの大事になったって訳?」
「雪蓮、これって上手いことやれば戦力の増強につながると思わないか?」
「確かに、けれどもそう簡単に行くかしら?」
「これが張角の為人だという事で我々の所に来た書簡です。」
訝しむ雪蓮に享さんが別の書簡を渡す、
「何なのこれ? 身長は3m位で髭面、腕が八本、足が五本、角と尻尾まで生えてるじゃない、どんな化物なのよ。」
「これが今の朝廷の情報収集力ということでしょう。」
「私達の細作とは天と地ほども差がありますね~。」
「情報を制する者は世界を制す、俺が来てからかなり細作に力を入れてきたからな、未来知識ってのはこういう時に力を発揮するよな。」
ニヤリと笑う将、
「しかし気がかりなのはこれだ。」
そう言って冥琳が一つの書簡を雪蓮に渡す、
「劉備さんという義勇軍の所に居る【天の御使い】さんです~。」
「姓を北郷、名を一刀と言うそうだ、おそらくは俺と同じ国の出身、今のところの情報では俺と同じくらいの時代から来たようだ。」
「じゃあ、将と同じ様な力を持っているって事?」
「いいや、情報では普通の少年のようだ、一般兵にも負けるらしいぞ。」
と冥琳が別の書簡を雪蓮に向ける、
「私の記録の中でも【北郷一刀】なる人物はありませんでしたから私達とは別の世界から来たという可能性もあります。」
AIのデータベースの中に北郷一刀の名が無かったということは俺達の時代において名がどこかに出るほどの事はしていないという事になる、
「おそらくは祭り上げるのに都合の良い人物が劉備成る者の所に居ると言うことでしょう、今は劉備の所の細作は少し多めに向けています。」
享さんと冥琳が気になる勢力への最終チェックを厳しくしていた、
董卓、曹操、袁紹、劉備、公孫賛、馬騰、袁術、現在の注意勢力はこの辺、
「解った、気をつけておくわ。」
そして袁術から黄巾党本隊を叩けとの使者が来る、
そこでの駆け引きで全ての旧臣を揃えることが出来るようになったのは大きい、
そして袁術はまたしても分隊を叩くそうだ、
前回と同じように戦力を削らせてもらう事にする。
数日後、準備の整った孫家の軍は黄巾党本隊を叩く為に出発する。




