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閑話  生徒会に入る前のお話。

 

 これは僕がまだ生徒会に入っていない頃のお話。


 僕はまだこの四條学園の事はあまり知らなかった。


 学校の規則が非常に緩い。

 イベントがたくさんある。

 生徒会長がとてつもなく綺麗。という3つしか知らなかった。


 そして、その僕の知っている数少ない情報はすべて本当の事で、特に3つ目に関しては僕の予想の範囲を軽く超えていたのだ。


 あれは入学式の時。

 皆はこれから3年間通うこの四條学園に入学したということで浮かれている中、入学式が行われていた。

 もちろん、校長先生の話や学園関係者の話なんて耳に入るわけがない。

 皆はすぐにでも友達を作ろうと横の席に座っている人とコソコソと話している中、生徒会長の祝辞が行われる。

 するとどうだろうか?さっきまでコソコソと話していた新入生がピタッと時間が止まったように静まり、ステージ上にいる生徒会長に視線を移すのだ。

 そして、皆うっとりとした目をする。


「皆さん、ご入学おめでとうございます。私は生徒会長の藤堂綾乃です。

 長々と話を聞くのも疲れると思うので、これだけ言わせてもらいますね。

 この四條学園に通う3年間は今後の人生において、たった3年間かもしれません。

 だけど、このたった3年間が大人になり、お爺ちゃんお婆ちゃんになった時も、あの頃は楽しかった。と言えるような3年間になってもらいたいです。

 好きな人と過ごすも良し、自分の世界にのめり込むのも良し、この3年間は皆さんにとってただの通過点にしないでください。

 楽しいは正義です!全力でこの3年間を楽しんでください!」


 ステージの上で、満面の笑みで、力強く、生徒会長さんは僕たち新入生に言い放つ。

 本当にすごいの一言。

 元々の顔スペックが異常に高い上に、あの生き生きとした眼。

 中学の友達が「羨ましい!あそこの生徒会長凄いんだぞ!」と豪語していただけのことはある。

 もし、あんな綺麗な顔で「おはよう」と声を掛けられれば恋の一つや二つが簡単に落ちてしまうだろう。

 他人事のようにそんなことを思いながらステージ上を見ていた。


 しかし、この入学式から5日後、安定という人生の歯車が狂い始めるのだ。

 あれは僕が教室を間違えた事がキッカケだった。

 まだ入学してから5日間という短い時間なのに、担任が僕に生徒会室へ資料を届けろというのだ。


「あれ…ほんとどこなんだ?生徒会室…」


 先生から場所を聞いたとはいえ、口答だったからいまいち覚えていない。そもそも僕は図書室の場所すら覚えていないのだから任せるのはおかしいだろう。

 とりあえず、最上階とは聞いてたんだけど…もしかして校舎が違うのだろうか?

 辺りをキョロキョロしていると下の階から誰かが上がってくる

 ちょうどいい。生徒会室はどこにあるか聞こう。


「あの…」


 上がってきた人に声を掛けようと振りむく。すると、そこにはなんと入学式の時にステージ上に立っていた生徒会長こと、藤堂綾乃さん。

 予想外の展開に頭が付いて来ない。というか、近くで見るとホントに可愛いな人だ。

 さすが学園のアイドルとか聖女とか女神さまとか言われているだけある。あ、あと人をメロメロにする魔女とも言われてたっけ…もちろん、全部褒め言葉だけど。


「ん?どうかしたの?」

「あ、えっと…」


 どうしよう…入学試験の時より緊張しているかもしれない。

 目の前の生徒会長さんは不思議そうな顔で僕を見つめてくる。

 そして、何かに気が付いたのか手をポンッと叩いた


「あ、もしかして、それ1年生の名簿かな?」

「あ、はい。これ先生から」

「うん、ありがとう。あ、そうだ!君の名前を確認させてもらってもいいかな?顔と名前を一致させたいから」

「いいですけど」

「生徒会室はこっちだよ」


 まさか自分があの生徒会長さんと話ができるなんて思いもしなかったけど、いざ話して見ると普通の人っぽい。

 生徒会長さんの後ろを付いて行き、生徒会室に入るとそこは紙の山、山、山。

 普通の生徒会室ならまずあり得ない紙の量だ。


「あ……ご、ごめんね?これはちょっと新入生対象にイベントをやろうと思ってたんだけど片付けるの忘れてて。いつもはもっと綺麗なんだよ?」

「………」


 この慌てようはなんだ…もしかして、いつもこんな汚れているんだろうか?

 それにあの机に置いてある携帯ゲームはなんだろう…


「あっ!?ち、違うの!あれはそのぉ~…そう!没収した物!」


 あ~…この人の持ち物なのか…


「ほんっと、学校は勉強する所なのにゲームを持ってくるなんて信じられないよね。君もそんな生徒になっちゃダメだよ」

「…わかりました。それにしても大変なんですね、生徒会って」

「ん~まぁ色んな事をできるから楽しいけどね。1人だとシンドイかなぁって思うことはあるよ」

「1人でやってるんですか?」

「うん。まぁ面白いから良いんだけどね」

「そういうもんなんですか。僕にはわからないですね」

「やってみる?楽しいよ。今まで見てきた世界がパァッて広がるよ」

「そうですね、それも良いかもしれないですね」


 普通、あんな紙に山を1人で確認なんて考えただけでも嫌になると思うけど…さすが四條学園の生徒会長と言ったところだろう。僕は絶対に嫌だけど。

 でもまぁゲームできるぐらいだし、時間はたくさんあるんだろうな…。


「えっと君の名前を確認してもいい?」

「あ、すみません。1年C組の犬塚真也です」

「C組の~…犬塚~…あ、あったあった」

「全生徒の名前覚えてるんですか?」

「ん?ん~まぁある程度は覚えてるかな。でも1年生で初めて覚えたのは君だよ」


 生徒会長さんは笑顔でそんなことを言うため、顔が赤くなってしまう

 なんとなく、魔女っていう意味が分かったかもしれない。

 僕は顔を反らして、適当にお礼を行って生徒会室を出ようとすると止められる


「ねね、犬塚くん」

「…はい?」

「これから3年間、楽しんでね。ワンちゃん」

「…は?あ、あのワンちゃんとは?」

「犬塚って言いにくいから可愛く言ってみたの。ワンちゃん、響きが可愛いでしょ」

「止めてください」


 ピシッと真顔で言うと生徒会長さんはビックリしたような顔をする


「えぇ!どうして?私、あだ名付けるの得意なんだよ。皆、喜んでくれるし」

「少なくとも僕は嫌です。バカと呼ばれた方がまだマシです」

「バ、バカの方が良いの?」

「そんなわけないでしょう。言葉のあやですよ」

「ワ、ワンちゃん?」

「次言ったら怒りますよ」

「………ぷぷ、面白いね。君」


 クスクスと口を抑えながら笑う生徒会長さんはどこか楽しげで一瞬、可愛いと思ってしまう。

 僕はそんなことを考えてしまう恥ずかしさから今すぐにでも逃げ出したくなり、生徒会室のドアを開ける。


「それじゃ、失礼しました」

「うん、また話そうね。ワンちゃん」


 生徒会長さんは手を振りながら悪意のあの字も感じられない笑顔で再び「ワンちゃん」と言う。

 なんなんだ…この人…。

 苦笑いをしながら頭を下げて生徒会室を出る。


 ったく、本当になんなんだ…あの人は…本当に生徒会長なのか?

 普通、生徒会長と言えば少し硬い感じのする人だと思ってたのに、勝手に人のあだ名は付けるわ、人が嫌だと言ってるのに何度も言うわ…まったく生徒会長という感じが受けられない。

 しかし、そんな生徒会長さんとはもう話すこともないだろう。

 なぜならあんな紙の山を処理しないといけないだろうし、それに僕みたいな目立たない人とは会う機会もない。


 少し寂しい気もするけど、今日話せただけでも役得だ。

 そんなことを思いながら階段を下りる。


 しかし、そんな考えは完全崩壊し、まさかの生徒会副会長という立場に立つことになるのはこの日から2日後のことだった。



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