最終話 すごい生徒会長さんとやればできる副会長さん
クリスマスパーティー。
それは学校から僕たちへのクリスマスプレゼントだ。
皆で楽しい思い出を。そんな学校からの贈り物に僕たち生徒は夜6時半頃から学校へと集まってくる。
「あ、副会長くんだ。今日も綾乃の護衛なの?」
私服の可愛い系の女の人達4人が僕を見つけて声を掛けてくる。
顔はどこかで見たことがあるけど、名前は出てこない。
確か、会長と同じクラスの人だったような…。
「あ、あの…」
「あはは、私は綾乃と同じクラスだよ。色々頑張ってね」
「はい?」
女の子グループは笑いながら僕の横を通り過ぎていく。
色々ってなんだ…。もしかして……いや、無いな。だって、絶対に口外しないと約束したのだから。
「あ、真也。今日はどうすんの?」
「要くん、どうもこうも…」
「いいなぁー俺ももう言っちゃおうかなぁ」
「誰も公言するなんて言ってないんだけど」
「いや、もうしないとダメでしょ」
「……僕、死なないかな?」
「さぁ?知らない。でも、今日はクリスマスイブだし、告白には持ってこいでしょ」
「いや、もう付き合ってるし」
「真也がそういうなら良いけどさ。でも、綾ちゃんはモテるよ。真也よりもカッコいいのが告白してくるかもしれない」
「うっ………」
会長がいくら僕の事が好きだと言っても………。
「そうやって自分に自信が無いなら周りを味方に付ければいい。恋愛なんて周りが勝手に盛り上げてくれれば、他の奴らは手を出せなくなるからね」
「なら、要くんも」
「俺の場合は敵が女性になっちゃうからなぁ…、志乃もそれを望んでないし」
「……なんかズルい」
「俺は皆に言いふらしたいけどね」
要くんは本当に残念そうな顔をしながら、体育館へ入っていく。
僕も要くんの後を追いながら体育館の中に入ると、すでにパーティーは始まっている。
各地で料理が並べられて、バイキング形式になっていた。
ステージ上にはピアノなどの楽器が置かれており、プロらしき人たちが体育館の雰囲気に合わせて曲を弾く。
本当に、お金のかかったクリスマスパーティーだ。
僕はジュースを片手に体育館の端で取った料理を食べる。
体育館の中は、女子グループで来ている人、男子グループで来ている人、個人で来ている人達がたくさんいる。もちろん、カップルで来ている人もいる。
このイベントは四條学園の学生しか入れない事になっているから、ここに来ているカップルはここの学生同士なのだろう。
楽しそうに会話をしながらラブラブオーラを辺りにまき散らすカップル。
ん~…確かに幸せそうなオーラは周りの人間を引き離す効果があるらしい。
ラブラブオーラをまき散らすカップルの周りには人が近寄らない。
というか…単純にあのラブラブオーラはウザいだけだな…。
「おや、リア充の犬塚くんはどうして体育館の端っこで1人寂しくしているんだい?」
白いワンピースに身を包まれた岩瀬先輩が横に立つ。
顔が良いだけに結構似合うなぁ…。
「私に惚れた?」
「…残念ながら」
「綾乃に言ってこよう。犬塚くんに告白されちゃったって」
「そんなことしたら俺の人生めちゃくちゃになります」
「くくくっ、どうせ今からめちゃくちゃになるんだから良いじゃない」
「………」
「言っておくけど、君たちが付き合ってる事なんて2年生の女子の中じゃ知れ渡っているよ」
「………はい?」
「普通に考えて綾乃が隠せるわけないでしょう」
「もしかして」
「いや、口には出さないよ。でも、顔には出る」
「あ~ぁ…なるほど……」
だからさっき2年生の女性に声を掛けられたわけか…。
それにさっきからクスクスと僕の方を見て笑う女子グループがあるなぁと思っていたけど、そういうわけか…。
岩瀬先輩は楽しそうに僕の皿に入っているサラダを奪い取り、口に運ぶ。
「まぁそういうことだから君がどういう風に言うのか楽しみにしてるよ。2年生女子を代表して伝えておく」
「……会長はここに来てるんですか?」
「さっき、守る会の連中に挨拶されていたよ。そろそろ終わる頃じゃない?」
「そうですか」
「別に綾乃に確認取らなくても体育館中に聞こえるように言えば良いんじゃない?ほら、ちょうどあそこにマイクもあるわけだしね」
岩瀬先輩はステージの中央に置かれているマイクを指差す。
まるで準備されていたかのような…。これじゃもう逃げられないな。
僕は大きくため息を吐きながら、立ち上がり、女の子(主に2年生グループ)の視線を浴びながらステージへと進んだ。
ステージに上がる。
僕が見る最後の景色となるかもしれないから、目に焼き付ける。
体育館の中に居るほとんどの人が僕の方を見てくる。
なるほど…、確かに2年生の女子には僕が今から何をしようとしているのか分かっているみたいだ。
岩瀬先輩を筆頭にニヤニヤ顔が目立つ。
しかし、この際どーでもいい。 なぜなら、ここにいるほとんどの人が今、僕が何を話そうとしているのか分かっていないのだから。
「えーっと…すみません、少しステージお借りしてもいいですか?」
ステージ上にいる演奏家の人達に了解を得て、皆の方を見る。
体育館の扉からはちょうど、守る会に囲まれている会長が入って来ている途中で、僕がステージ上にいるのを確認すると無駄に可愛い笑顔を見せる。
そのせいで会長の周りに居る男共は僕を殺す勢いで睨んでくるのだ。
今からあの人たちを敵に回すかと思うと………怖くて仕方がない…。
だけど、もうここまできたらやるしかないのだろう。
「えーっと、皆さん。すみません、少しだけお時間いただきますね。
生徒会副会長の犬塚真也です。生徒会長である藤堂綾乃さんの代わりとして、このクリスマスパーティーを開いてくださった学校に感謝します。ありがとうございます。
そして、この素晴らしい場を借りて、皆さんにお伝えしたいことがあります。
そこの体育館の扉の付近に居る生徒会長さん、こちらに来てもらってもいいですか?」
念のために、会長を安全地帯へと促す。
あんな狂気的なファンの中に囲まれて、僕が今から言うことを言ってしまえば会長が危ない。
会長は嬉しそうな顔をしながら、男たちの間を抜けて行き、ステージに上がる。
「ついに決心してくれたんだね」
「あんなことされちゃね…。それに2年生の女子には今からすることバレてますよ…」
「え!?」
「…やっぱり知らなかったんですか。その顔を見れば誰だって気が付きます」
「で、でも他の人は」
「はぁぁ…だから、こうして言うんでしょう?」
「ワンちゃん…その…えっと、別に言わなくてもいいんだよ?私、ワンちゃん信じてるし」
「ありがとうございます。でももう引けないですしね。それに、会長を他に取られたくない」
心配そうにする会長に小さな声で言う。
すると、会長の顔が赤くなりながらも良い笑顔になる。
なるほど…これはバレるな…。
そんなことを思いながら、「あとで期待してますよ」と小さく会長に言って、皆の方を見る。
まぁこれだけしてれば、僕が何を言おうとしているのかは、ほとんどの人が理解するだろう。
「皆さん、もうお気づきの方もいると思いますが、僕と会長はすでに付き合ってます。
なので、温かく見守ってくださいね。非難中傷などは受け付けません。もし、会長を僕から奪うような真似をすれば…生徒会副会長の権限を全力で使わせていただきます」
体育館の中にいる人たちに向かって満面の笑みを見せる。
言ってしまった…。体育館の扉近くでは殺意の籠った視線がたくさん飛んできているが気にしない。
なぜなら、それ以上にさきほど声を掛けてきたり、ニヤニヤしながら僕の方を見ていた2年生の女子生徒たちが「ひゅーひゅー!」「綾乃愛されてる~」などの声が飛び交っているからだ。
どちらかといえば、こちらの黄色い声の方が恥ずかしくて僕にダメージが大きい。
「しょ、職権乱用だ!!!」
「殺してやる!!!」
「死刑だ!!!」
やっと扉の方からそんな声がたくさん飛ぶ。
しかし、所詮、会長を守る会のメンバーだ。元が男であり、女子には敵わない。
男ってのはそういう生き物なのだ。女子に嫌われれば今後の学園生活はほぼ壊滅と言っていい。
つまり、こうして、僕に暴言を吐ける人は元から女子に嫌われている人が多い。
その証拠に一部以外の人間は慌てて顔を背けている。
「あんたら、綾乃と副会長くんの間に何かしたら許さないわよ!」
2年の女子、というか、ここにいる女子のほとんどが扉近くにいる守る会の方を睨む。
正直、これほど心強い者は無いだろう。
そして、怖いとも感じる。もし、会長を泣かせたらこの人達を敵に回すことになるのだから。
要くんが宮地さんと付き合っていると公表できない理由が分かる。
女の子たちのおかげで体育館の中はもう僕たちを祝うムードに変わり、色んな所から「おめでと~」という声が飛んでくる。
「わ、わんちゃん!」
僕の後ろでじーっとしていた会長が僕の方へ近寄ってくる。
「はい?」
「私すごく幸せだよ!」
「それは良かったです」
「うんうん。本当に幸せ!大好きだよ!!ワンちゃん」
いつもの数倍テンションが高い声がマイクを通じて、皆に伝わる。
そして、キラキラと輝くような可愛い笑顔で僕を見る。
僕も負けずに笑う。
この顔さえ見れれば何したって良いかもしれない。
目の前に居る会長を抱きしめて、会長だけに聞こえるように。そして、今の気持ちが全部会長に届くように言った。
「会長、大好きです」
今まで読んでいただき、ありがとうございました。
「すごい生徒会長さんとやればできる副会長さん」の本編はこれで終わりです。
あと、おまけ+あとがき。があります。
できればそちらの方も読んでくださるとありがたいです。
それでは、「すごい生徒会長さんとやればできる副会長さん」を読んでいただきありがとうございました!!!




