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第64話 皆口綾乃。

 

「結論から言ったほうが良いのかな?」


 会長は僕の目を見ながら問いかけてくる。

 この場合の結論ってなんだろう?

 これから会長が今まで隠してきた秘密を話してくれる。だから、僕にとって会長の中の結論が分からない。

 しかし、ここは頷くしかないのだ。もうすべてを受け入れる覚悟はしたのだから。


「私ね、本当は藤堂家の子じゃないの。本当の名前は皆口綾乃って名前」

「え?」

「あはは、やっぱりそういう反応になるよね」


 会長は力なく笑って、話を続ける。


「私が何言ってるか分からないよね。えっとね、私は孤児なんだ。

 私が産まれた時にママが亡くなって、6歳の頃に交通事故でパパが亡くなったの。

 身取りの居ない私を拾ってくれたのが今のお父さん。藤堂家は父方の親戚なんだ」

「それじゃ要くんとは?」

「うん、繋がってないよ」


 自分は経験が無いから分からない。

 本当はこういうことは空気を読んで聞かないのがセオリーなんだろうけど…。


「血が繋がってなくても関係ないんじゃ」

「お父さんもお母さんも“綾乃も私たちの子供よ”って言ってくれるけど」

「それだったら」

「それに甘えちゃダメなんだと思うの。私が甘えたら本当に甘えても良いはずの要が甘えられないもん」

「………」


 会長のあの厄介な性格はここから来ているのか…。

 おそらく、要くんは気が付いてる。だけど、こればっかりは要くんが何を言おうと会長の考えなのだから動きはしない。それを要くんは分かっているから直接かかわろうとしないのだろう。

 要くんの言葉は会長には届かない。


「もちろん、この1人暮らしも甘えさせてもらってるのは分かってる。だけど、私があの家に居たら迷惑になっちゃう。私がいるせいで本当の家族じゃなくなってるもん」

「そうやって自分が犠牲にですか…」

「………」

「僕がお父さんだったら悲しいですけどね。そういうことされるのは」

「そうだろうね。でもやっぱり私がいることであの人は甘えられないもん」

「要くんはそんな人じゃないと思いますけどね…。でもまぁ、会長がそう決めたんなら僕は否定はしませんよ。むしろ肯定します」

「どうして?」

「どうしてって、会長の事好きだからじゃないですか。そういうお節介な会長も好きですから」

「…バカ。でも、ありがと」

「いえ。話は戻しますけど、会長はここにいつから住んでるんですか?」

「高校に入った時からだよ。お金の方も自分で何とかしたかったんだけど、生徒会長になっちゃったせいでアルバイトできなかったんだ。本当は辞退してでもアルバイトをしようとしてたんだけど、お父さんが“四條学園の生徒会長に選ばれたのだからやりなさい。そうじゃないと1人暮らしは認めない”って」

「良いお父さんじゃないですか」


 うちの父親とは大違いだな…。

 まぁあれはあれで良い父親ではあるんだろうけど…。


「まだ誰にも言ったことは無いんだけど。私ね、高校卒業したら就職しようと思ってるの。誰にも迷惑をかけずに生きて行きたいんだ」

「それは無理だと思いますよ?」

「どうして?ワンちゃんなら賛成してくれると思って言ったのに」

「だって、もし僕が会長の親なら絶対に大学に行ってほしいですもん。別に高卒で働くのが悪いってわけじゃないけど」

「どうして?大学なんて4年間無駄になるだけでしょ?」

「ん~、そう言われると困りますけど。会長には夢は無いんですか?」

「夢?」

「まだ会長は17歳ですよ?夢を追いかけたって良いと思うんです。僕の母親は言葉では言いませんけど、あの人自身が夢を追いかけた人ですから。そういう生き方もあるんじゃないですか?

 あれ?答えになってないな…。えっと、何と言えばいいか分からないんですけど、夢を見つけるために4年間通うっていうのも1つの手だと思いますよ」

「夢…ん~…ワンちゃんにはあるの?」

「僕の夢ですか?…ん~、今のところは無いですね。今が一番ですから」

「あ、ズルイ、その言い方」

「あはは。それじゃ僕の夢は…そうですね、会長に負けないぐらい頑張る。って所ですね」

「それもズルい」

「会長が高い夢を持てば持つほど頑張らないといけないので大変なんですよ?この夢」

「それだったら私はワンちゃんに負けないように精一杯頑張る!って夢にする」

「それ楽じゃないですか?僕が頑張らなければ会長も頑張らなくていいんですから」

「あ、そっか…。あれ?今さっき頑張るって言ってなかった?」

「さぁ?忘れました。それよりも質問続けて良いですか?」


 このままだとグダグダと同じことを繰り返していきそうな雰囲気だったため、話を元に戻す。

 あのまま話していたら一日が楽しくてあっという間になりそうだ、それも良いかもしれないけど、今日はその日じゃない。今は僕の知らない会長を知る時間なのだ。


「会長が就職するとかしないとかは僕の問題では無いのでこの際、何も言いません。すべて肯定してあげます。それが僕にできることですから。それよりも、最後にこれだけ聞きたいんですけど…」

「ん?なに?」

「僕の家族の事って何か知ってますか?」

「ワンちゃんの?…………あっ!!そうだ!ワンちゃんの家ってあの私がおススメしてたお店の!」


 あぁ…やっぱり気が付いてたんだ…。

 会長が僕に近寄ってくるのを見ながら大きくため息を吐いた。


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