第61話 あまっあま?
僕の横にちょこんと座り、身体を預ける会長。
本当にこんな可愛い人が僕の彼女になったんだ…。なんかもうこの世が壊れてしまうんじゃないかと思ってしまう。
「ん?どうしたの?」
「なんだか、本当に現実なのかなぁと思って」
「どういうこと?」
「だって、会長みたいなこんな可愛い人と付き合えるんですもん。夢じゃないか?って思ってしまいますよ」
「あはは。嘘じゃないでしょ?」
「う、うひょじゃないでひゅ」
会長は僕の両頬をギュッと掴む。
痛くないけど、幸せすぎて心が痛いな…、これは。
会長は僕の頬を離すとニコニコしながら再び僕に身体を預ける。
「ワンちゃんって、いつから私の事がその…す、好きになったの?」
「夏休みの時に、そうかなぁって。そこからは、どうしてこんな人を好きになったんだろう?って自問自答を繰り返してましたよ」
「こんな?」
会長は僕の言った意味を都合の良いように解釈せず、僕が思っていた通りの意味で解釈したらしい。
こういうところは鋭いのかも。浮気とかしたら一瞬で気が付きそうだ。
「日本語って難しいですね」
「そうやってワンちゃんはごまかそうとするの?」
「い、いひゃいです」
僕の返答が気に入らなかったのか、会長は僕の右頬をつまむ。
「もう言わない?ワンちゃん」
「いいまひぇん」
「よし。それで?」
「それでとは?」
「夏休みの頃に私の事好きになったんなら、文化祭の日にあんなに怒らないと思うんだけど」
「そうですか?逆に怒ると思いますよ?」
「怒ったら嫌われちゃうかもしれないでしょ?」
「あ~、そうですね。でも、会長も怒られるぐらいの事をしてたんですよ?」
「うっ…だ、だって、今まで人に頼るなんてした事なかったもん…」
「それからだって頼ろうとはしてなかったですよね?」
「…だって、あの日の夜にあんな…」
「キスですか?」
「あっ!?もしかしてアレわざとじゃ!」
「ち、違いますよ!あれは偶然です!!それにあんな近づいてきた会長が悪いんでしょ!」
「私のせいにするの!?」
「そうですね、あれは僕の責任じゃないです。無用心にあれだけ近づいた会長が悪いです」
「なんでよー!!ワンちゃんのくせに!」
会長はキィーっ!!と怒りを露わにしながら両手を上げ、僕に襲いかかってくる。
もちろん、そんな会長も可愛いのだけど、会長の勢いが思っていたより強かった。
「ちょ、まって!」
「きゃっ!」
勢い余った会長の攻撃、のしかかりのせいで僕はゴテンッと会長を胸の上に乗せたまま倒される。
「いったた…ったく、何してるんですか…」
「だ、だって…ワンちゃんが私のせいに」
背中の痛みを少し感じながら目を開けると、会長の顔がどアップで写る。
それも、胸辺りに柔らかい何かを感じるし…。
「………」
「………」
少しの沈黙の中、会長の顔色が徐々に赤くなっていく。
そして、会長の瞳に映る僕の顔も徐々に赤くなっていくのが見える。
それぐらい近いのだ。
ついさっき付き合い始めたカップルがこんな状況になったらどうするだろう?と頭の端の方で考え始める。いや、すでに答えは見つけているのだ。
だけど、それを自分から口にするのが恥ずかしい。
たぶん、会長も同じ事を考えてる。根拠は無いけど、そう感じるのだ。
「………」
「………」
お互い無言のまま、どのぐらいの時間が経ったか分からない。
だけど、これ以上、この人の顔をこの距離で見続けるのは心臓に悪い。異常なほどドクンドクンと鼓動しているのだ。
それに、我慢できない!
僕は頭だけを動かして、目の前にいる会長にチュッと一瞬だけキスをする。
すると、会長はビックリしたような顔を一瞬だけ浮かべると、ニコッと無言で笑い、お返しと言わんばかりに僕にキスをしてくる。
「ワンちゃんのえっち」
「それは会長もでしょ」
「…私、こんな幸せなの初めて」
「僕もです」
「…ね、もういっかい」
「何度でも」
「やっぱりワンちゃんはえっちだ」
「会長にだけですね」
「うふふ」
こんな幸せな時間があるなんて…と思うような程、幸せな時間かもしれない。
会長を優しく抱きしめると、良い匂いがする上に抱き心地が素晴らしく良い。
癖になりそうなほどだ。
会長も僕を優しく抱きしめてくれて、このままの状態で1日中過ごしたいと思ってしまう。
「あのさ、いつまでその恥ずかしいのを見せつけるつもりなの?人が気を効かせて出ていってあげたのに、帰ってきたら何このザマ。バカみたいに何度もキスしてさ、見せられる側にもなってほしいよ。ほんと。私が止めなかったらヤリ始めそうとしてたでしょ。ホント、綾乃も犬塚くんも獣だね。これだからムッツリスケベが付き合うと」
「うわっ!?!?」
「な、奈央っ!?」
勢いよく引き戸がガラッと開く。
そこには呆れを通り越して、怒りの表情に達しそうな顔をした岩瀬先輩がいた。




