第58話 コンビニからの?
「ごめんごめん、待った?」
「いえ、別に」
「そう。それじゃちょっと色々お買いものするから待ってて」
岩瀬先輩はカップラーメンやらジュースやらお菓子やら色んな物をカゴの中に入れていく。
「…野宿でもするんですか?」
「あはは、それはそれで面白いね。でも今日はちょっと違うかな」
「そうですか。それで…どうして僕にかごを渡そうとしてるんですか?」
「え?こういうのは男の子が持つって」
「分かっててやってるなら可愛くもなんともないですよ?」
「…君は綾乃には甘いのに私には厳しいような気がする」
「別に甘くしてるつもりはありませんけど」
「それが甘いっていうんだよね、まぁ良いけど。それよりもお金があまり無いから半分出してもらってもいいかな?」
「はぁぁ…考えて買いましょうよ」
「君も食べるんだから良いでしょう?」
レジの、たぶん大学生だろうか?
店員さんにカゴを差し出すが、店員さんは僕の横にいる岩瀬先輩に目が向かっている。
まぁ、普段、会長の横にいるから目立ちにくいけど、普通に綺麗な顔をしてるもんな。この人。
いつまで経っても岩瀬先輩の方を見ている店員さんに声を掛けると慌てたようにレジ打ちを始める。
「あ、フランクフルトも欲しい。あとおでんも」
これが迷惑な客っていうんだろうか…。
一生懸命レジ打ちをしている店員さんに新たな使命を与える岩瀬先輩。
そして、その結果、値段がさらに高くなる。
「えっと、2780円になります」
「あ、780円しか持ってない」
「…狙ってやってるでしょう?」
どうしてピッタリ780円しか持ってないんだよ…。
僕は横にいる岩瀬先輩を少し睨みながら2000円出す。
そして、袋を全部持ち、コンビニを出る。
「それで?これをどうするんですか?まさか、コンビニの前でパーティーでもするんですか?」
「それもそれで面白そうだね。だけど、今回はちょっとね。とりあえず付いてきて」
岩瀬先輩はさっき買ったおでんを片手に僕の前を歩きだす。
おでんと言えば、文化祭で要くんが作ったやつは美味しかったなぁ…と思いだしながら岩瀬先輩の後を付いていく。
しばらく、後ろを付いて歩いていると、岩瀬先輩が急にくるっとこちらを向き、ニコッと笑う。
「そういえば、修学旅行中の綾乃の事は聞かないの?気になるでしょ、どんな風だったか」
「気になると言えば気になりますけど…聞いたところで何かできるわけじゃないので別に良いです」
「そう。ちなみに修学旅行は本当に楽しかったよ」
「向こうでも会長はいつも通りだったんですか?」
「あれ?さっき聞かないって言ってなかった?」
「っ……もういいです」
「くくっ、そんな拗ねなくても良いじゃないか。生徒会長はどこに言っても生徒会長だよ。まぁ君の前では綾乃なんだけどね」
「意味深な言葉をありがとうございます。それでどこに向かってるんですか?」
「なんだか、修学旅行の間に犬塚くんが大人になってしまって面白くなくなったな。もうちょっとだよ。ほら、そこの角を曲がったアパートが目的地」
岩瀬先輩の言う、角を曲がると古ぼけた2階建のアパートが見える。
如何にも古いアパートと言った感じで、一見ドラマのために作られたセットのようだった。




