第56話 休日登校。
「あ~さむさむ…」
今は土曜日のお昼。
昨日、岩瀬先輩が手伝ってくれたとはいえ、まだ仕事が残っているため、こうして休日登校をしている。
今日やるべきことは、「答え合わせが完了したテスト用紙をクラスごとに分ける作業」「順位を付ける」「今回のイベントのレポート」などなど。
まぁ普通に計画通りに動ければ夕方には終わるだろうってところだ。
生徒会室のカギを開け、すぐに暖房を付ける。
「…あれ?なんか綺麗になってる?」
昨日、岩瀬先輩と生徒会室を出た時はテスト用紙が散乱してたはずだ。
「ん~、あっ、宿直さんか」
そういえば、カギを返す時に「中が汚いですけど、大丈夫ですから」って言ったっけ。
綺麗好きの宿直さんの事だから、あの現状を見て片付けてくれたんだろう。
「さて…何から手を付けようかな…」
ぷしゅーとお湯が湧いた音を聞き、インスタントコーヒーを作る。
順位の方はパソコンで名前とテストの点数を打っていけば、順位が付けられる。
もちろん、僕のテストの点数はその中には含まない。こんなの出したらそれこそ「ズルイ!」と言われてしまうからだ。
「よし、ちゃっちゃと打っていくか…」
パソコンの電源を入れ、テスト用紙をパソコンの横に運ぶ。
一枚一枚、名前とテストの点数を打っていく作業を続けながら、同時にクラス毎に分ける作業を続けていると外の方から野球部の元気な声が聞こえてくる。
「そういえば、他校との練習試合をやっているんだっけ」
大きな歓声をBGMにしながら作業を続けていると、ひときわ大きな歓声が湧く。
その歓声は女の子の歓声なので、おそらく要くん辺りが何かしたんだろう。
要くんの女子人気は恐ろしいものがある。
あの笑顔も虜にさせられる原因なんだろうけど、どうして藤堂姉弟はあそこまで人気があるんだろう?
正直言って、あの姉弟はチートだと思う。
会長は勉強も運動もできて、人を楽しませることもできる。それに顔も良い。
要くんも会長と同じで勉強もできるし、野球に関してはプロも注目するほどの人だ。
あの姉弟を生んだ親を一度見てみた気もする…。
どんな人なんだろう?
高学歴の超エリート夫婦なんだろうか?
会長も要くんも家庭の事を口にしている所を見たことが無い。
まぁ、高校生で「家庭ってどんなの?」と聞くような会話が無いと言うものあるんだろうけど、あの芸能人のように人気のある姉弟だ。
周りがそういう会話をしててもおかしくは無い。だけど、そういう話を聞かない。
そもそも、あの姉弟に関しては変な部分があるような気がする。
まず、今まで要くんの口から「姉」という言葉が出ていない事だ。
「自分は弟」だと言うのは聞いたことがあるけど、「姉」だと言ってるのは聞いたことが無い。
まぁこれに関しては、そういう姉弟もあるのかなぁってレベルで済ませられる。
だけど、会長が要くんの事を「弟」と言うのは一切聞いたことが無い。
僕自身が覚えていないだけなのかもしれないけど、記憶の中では聞いたことが無いはずだ。
そもそも、会長の口から要くんの名前を聞いたことが無い気がする。
普通、姉弟であれだけカッコいい弟がいるなら自慢の1つや2つぐらいあっても良いはず。
ましてや、プロ野球も注目するほどの選手なのだから自慢もしたくなる。
だけど、会長は一切していない。 もしかして、仲が悪いんだろうか?
でも…要くんの様子を見ていると仲が悪いようには見えないし、会長の事で動く事もあるから、嫌っているとは思えない。
つまり、会長が要くんを嫌っているということ?
キーボードを叩きながら、不思議いっぱいの藤堂姉弟の事を考えていると、少しだけ小腹が空いてくる。
少し作業を中断させ、時計を見ると時間はすでに3時になっており、今の作業を2時間近く続けていた。
そして、テスト用紙の方は最後の山1つ。たぶんだけど残り60人分ぐらいだろう。
「ふぅ…、少し休憩しよう」
空になったコップにインスタントコーヒーを入れ、会長が持ちこんでいるお菓子BOXの中からスナック菓子を取る。
「岩瀬先輩が食べた事にすればいっか…」
そんなことを呟きながら、お菓子に手を伸ばし、静かな生徒会室を堪能した。




