第55話 会長帰還!
「お帰りなさい、皆さん。良い思い出ができましたか?」
体育館に集まった2年生達に向け、できる限りの笑顔で話かける。
壇上から見える2年生の顔は皆、楽しかった思い出があるんだろうけど、疲れた顔が目立っている。
しかし、そんな疲れた顔が目立つ中でも会長は変な意味で目立っていた。
ちゃんと約束を覚えていてくれたみたいだな…。
壇上の上で予め考えておいた言葉を口に出しながら、目を反らし続ける会長を見て思う。
「皆さん、お疲れだと思いますが家に帰るまでが修学旅行です。それではお疲れさまでした」
僕の言葉で体育館にいる2年生達が一斉に動き出す。
さて…どうしようか…、会長も絶対に疲れているだろう。
僕的には今すぐにでも告白の返事が欲しい所なのだけど、来週に回したい気持ちもある。
早く結果を知りたい反面、「ごめんなさい」と言われるのが怖いのだ。
もし、ごめんなさいと言われたら…。告白してしまった時点でYESかNOかの2択なんだけど…、怖い物は怖い。
そして、修学旅行から帰って来てから会長は一切、僕と目を合わせていないという現実もある。
僕は壇上から降り、2年の学年主任の先生に簡単な連絡をする。
「以上が先生方がいない間に行った事です」
「OK。それにしても藤堂がいない間にテストをするなんてな」
「あぁ、それに関しては少し色々ありまして」
「まぁこの辺りは他の先生から嫌でも聞かされるだろうから、犬塚からは聞かないことにしておくか」
「そう言っていただけるとありがたいですね。それじゃ修学旅行、お疲れさまでした」
「ああ」
学年主任の先生との会話が終わる頃には、体育館の中には僕と先生ぐらいしか残っていない。
会長は帰ってしまったのか?
少しだけホッとしたような悲しいような気持ちが湧きあがるのを感じながら体育館から出て、生徒会室へと向かう。
まだまだテストの用紙の山が残っているのだ。
できれば、会長が生徒会室に訪れる来週の月曜日までに消化をしてしまいたい。
あれは僕が勝手に企画した。ということになっているのだから会長に手伝ってもらうことは無い。
生徒会に繋がる階段を上りながら、来週に控えたクリスマスパーティーの最終スケジュールに目を通す。
さすが学校が主催とあって、お金が多く使われている。
スケジュールに目を通しながら、階段を上がり、生徒会室の前に立つ。
「………」
もしかしてって可能性もあるよな…。
生徒会室のドアに手を掛ける。もし、このドアを開けて、会長が居たら…。間違いなく告白の返事が待っているだろう。
返事をする覚悟が無いのに生徒会室に居るとは思えない。
昨日まで「どんな返事だろうと受け入れる」と思っていたのに、手が少し震える。
大きな深呼吸をして、乱れている心を落ち着かせる。
今更、僕が逃げた所で何も変わらない。
「よしっ」
気合を入れ直し、目を閉じたまま生徒会室のドアを開ける。
そして、ゆっくりと瞼を開ける。
「……ふぅ。まぁいないよね」
目を開けるとそこには体育館に向かう前のテスト用紙が山になったままの状況。
何も変わっていない。
あれだけ気合を入れたのに拍子抜けかも…。
そんなことが頭に浮かび、どれだけ自分が緊張していたのかを知らされる。
「はぁぁ…。よし、さっさと片付」
「やぁ。元気かな?」
「どわっ!?!?」
「くくくっ、そんなにビックリすることは無いだろう?」
「な、なんでそんな所にいるんですか!岩瀬先輩!」
誰も居ないはずの生徒会室。それも横から声がしたから心臓が止まるぐらいビックリしてしまった。
岩瀬先輩はドアの近くに小さくしゃがみながら肩を震わせる。
よっぽど僕の驚いた姿が面白かったらしい。
「緊張した?綾乃がもしかしたらいるんじゃないか?って」
「っ」
「その顔は肯定かな。それで?綾乃を取りあった死闘の決着はどうなったのかな?」
「…なんでそのこと知ってるんですか」
「そりゃ簡単だよ。私がコッソリ、綾乃は頭が良い人が好きなんだと彼に教えてあげたからさ」
「そんなことであの人が」
「綾乃の近くにいるのは犬塚真也。つまり、今、この学校で2番目に賢いのは彼だよ。同じテストをしたら貴方は勝てるかな?って言ってあげたんだよ」
「……そんな下らないことでこんなことをさせられてる僕の身にもなってください」
「だから、残ってあげたんでしょ。どうせ、君の事だから綾乃に迷惑を…とか考えて休日もやろうとしてるんでしょう?自分のやると決めたことは自分でやる。人に迷惑を掛けない。そういう所はそっくりだね、君たちは」
「そうでも無いですよ。こうして手伝ってくれるって言ってくれるなら全然お願いします」
僕は小さくしゃがむ岩瀬先輩に赤ペンと答案用紙を渡す。
岩瀬先輩は、本当に手伝わされるとは思っていなかったのか意外そうな顔をして、すぐに大きなため息を吐く。
しかし、もう手伝ってくれると言ったのだ。最後まで手伝ってもらおう。
1つの山を岩瀬先輩の前に置いてから、僕と岩瀬先輩はマル付けという単純作業に入った。




