第54話 藤堂要は敵にしちゃだめな人。
「真也、どうしてくれる!!」
生徒会室で抜き打ちテストの採点をしていると要くんが勢いよく生徒会室の中に入ってきた。
普段、優しそうな顔をしている顔は怒りを表している。
何かやったっけ…って、原因はこのマルとバツを付けているテストのせいだろう。
「急にテストしたせいで全然できなかったじゃんか!学年上位に入ってないと志乃に別れられちゃうんだぞ!」
「お、落ち着いて」
「落ち着いてなんてできない!くっそー、本気でヤバいじゃん……もう、あれだ、イカサマしよう。うん、イカサマしよう!」
勝手に赤ペンを取り、山のようになっているテスト用紙の中から藤堂要のテスト用紙を探す。
そういえば、テストの学年順位で上位に入らないと宮地さんが怒るとか言っていたっけ。
「大丈夫だよ、要くんのテストは採点したけど悪くは無かったし」
「いや、ダメだ。悪くなかったってことは良いってことでもないってことだろ?つまり、上位には入ってないってことだろ?」
「ん~…まぁ、まだ全部見てないから何とも言えないけど。40位ぐらいだと思うけど」
「40位だとダメじゃん!どうしてこんな時期にテストなんてするんだよ。綾ちゃんも居ないのに」
「あぁ、それは」
「やぁ、ちゃんと不正無く採点しているかな?」
ガラッと生徒会室のドアが開き、宮崎さんが入ってくる。
要くんは宮崎さんを見るとすべてを悟ったのか「あぁ~なるほど」と言うような顔をする。
そして、何か思いついたのかニヤッと笑った。
「どうも、綾ちゃんの弟である藤堂要です。って知ってますよね。俺のこと」
「ああ。君のことは良く知っているよ」
「それはよかった。それで?どうして真也と戦うことになったの?」
「君には関係ないだろう?」
「そうですか、まぁいいけど。それよりも真也はこのテスト受けたの?」
…要くん、全部分かってて僕に話を振ってきてるな。
しかし、まぁ…僕も一応受けたけど。結果は目に見えているのだ。
だって、問題を全部知っている状態で答えも知っているのだから。
「まぁまぁだったよ」
「へぇ~、宮崎先輩のはどれよ?3年生でも優秀な宮崎先輩のは」
「えっと、それはまだかな。3年生の物はその山だから」
「あっそ。先輩、一緒にマル付けしましょうか?真也が勝手にマルを付けるより俺が先輩の目の前でマルを付けた方が安心するでしょう?」
「ああ。やってもらおうか」
本当にやるのかな…。
もし、先輩が満点を取らない限り、僕には勝つことができない。
僕は3年生のテスト用紙の山から宮崎さんの用紙を探し見つけると答えと一緒に要くんに渡す。
一瞬見た感じでは全部項目を埋めているけど、満点ってのはなさそうな雰囲気だ。
「んじゃ採点しますよ」
「ああ。始めてくれ」
要くんは1問1問、丁寧に採点をしていく。
赤ペンでマルを付けられていく中、ついに計算間違いなのかバツが付けられる。
そういえば、1問だけ無駄に面倒くさい問題があったっけ…。
僕が生徒会に入ってしばらくした頃、会長は暇だったのか計算が無駄に面倒臭い問題を僕に出したのをそのままテストに加えたのだ。
宮崎さんは予想していたのか、顔色1つ変えずにテスト用紙を見つめる。
そして、要くんはニヤニヤしながら採点を続ける。
「えっと、点数は100点満点中97点。1問間違いかな?先輩は何か言うことあります?」
「いや、私もその点数だと思っていた」
「なるほど。で?真也は?」
「………僕のはこれだよ」
採点を付けるまでも無いから端に寄せていた。
凡ミスをしているんじゃないの?と思われがちだけど、何度も確認した。
それに、何度も言うようにこのテストは僕が作ったし、答えも僕が間違いが無いように何度も先生に見てもらい解き方まで教えてもらったのだ。
凡ミスをする方が難しい。
要くんに渡したテスト用紙は公平を期すように宮崎さんが採点することになる。
「ほぅ、全部埋めたみたいだな」
人をバカにしたような言い方で採点を付けていく宮崎さんだが、採点が進んでいくに連れて顔が少しずつ暗くなっていく。
そして、最後の問題をゆっくりと悔しそうにマルを付けるとバンっと机を叩き、物凄い怖い目で僕を睨んでくる。
結果は僕の満点、宮崎さんの97点。僕の勝ちだ。
まぁ当然と言ったら当然だけど。
「不正だ…こんなのは不正だ!!!」
「くくっ、3年生の中でも優等生な先輩が1年に負けてる。くく…くくくっ」
「ちょ、要くん」
「てめぇ!何笑ってんだよ!」
「くく、ご、ごめんなさい。でも、ぷぷぷっ。面白過ぎ。すぅ…はぁぁ、よし。落ち着いた。
で?2人は何の勝負してたの?なんとなくわかるけど」
「宮崎さんが勝ったら僕は会長から離れる、だったかな?」
「ふ~ん、それで先輩が負けるって」
「負けていない!お前、どんなことを使った!!!不正だろ!!!」
宮崎さんは僕に詰め寄り、胸倉を掴む。
その表情はプライドを完全に潰された人の顔をしている。この人は今まで他人に負けたことが無いのかもしれない。
だから、自分が仕掛けた最も勝てると思っていた学力で負けたのだから、ショックは大きいだろう。
だけど、そんなこと僕に知ったことじゃない。
「不正かどうかは知りません。でも、勝負に勝ったのは僕です」
「この私がお前みたいな奴に学力で負けるわけがない!」
「あのテストは貴方が企画して、僕に提出した用紙通りに実行したモノです」
ファイルの中から宮崎さんの渡された用紙を返す。
要くんはその紙を横から見て「あ~…」と小さく声を漏らした。
「えっと、真也。これは宮崎先輩が作ったんだよね?」
「そうだよ」
「なるほどね。宮崎先輩もこれは自分で作ったんですよね?」
「ああ。それがどうした」
「いや、これだと生徒会主催のイベントになるなぁって」
「当然だろう」
「……真也、もしかしてこの人」
「うん。たぶん知らないと思う。今の3年生の時の新入生抜き打ちテストは生徒会長が成り立てて準備ができてなかったから学校が主催だったから」
「なるほどね。まぁ勝負はこの人から仕掛けたことだし、負けは負けだろ。それに、こんな学校全体を巻き込んだ抜き打ちテストなんてしたら綾ちゃんの目に留まらないわけが無い」
「っ」
「たぶん、先輩は今回のこのテストで真也が独断でやったみたいな形にして、真也だけの支持率を落として、その隙を狙って真也を副会長から落とす。みたいな構想でも練ってたんだろうけど、普通に考えて真也の支持率が落ちる=生徒会の支持率が落ちるってことだろ。先輩たちは綾ちゃんしか見てないから知らないだろうけど、真也も結構人気あるんだよ?」
「そんなわけないだろう。こんな奴に」
「それがあったりするんだよ。暴走する綾ちゃんの女房役として結構人気があるの知らないの?特に2年生の女子からは高い支持率を得ている」
そんな話、初めて聞いた気がする…。
「ふん、今の生徒会長は藤堂綾乃という人物で成り立っている。そこの男が居なくなろうが関係のない事だ。それに私が副会長になれば更に支持率は上がる」
「くくっ、そうだろうね。でもさ、先輩もバカじゃないんだから考えようよ。綾ちゃんが生徒会長になったのは1年の1学期、そこから2年になって真也が入るまで1人でやってきたんだ。どうしてだと思う?」
「それは彼女に似合う者がいなかったからだろ」
「くくっ、あんた自分の言葉の意味分かってて言ってる?」
「っ…」
「気が付いてくれた?自分の言葉の意味」
要くんは本当に楽しそうな笑顔で目の前に居る宮崎先輩を見る。
宮崎先輩は僕を否定したつもりが、自分の言葉で僕を認めてしまった。
藤堂綾乃が唯一、近くに置くことを許した人物。それは岩瀬先輩でも要くんでも宮崎先輩でも無い、犬塚真也という僕だけだ。
「宮崎先輩、最初っから真也とは勝負にならないんだよ。勝負をする相手を間違いましたね。お疲れ様」
やっぱり要くんを味方につけておいてよかった気がする…。
先輩だろうとなんだろうと容赦なく言葉にする要くんを見て、改めて僕は心の中で誓った。
藤堂要を敵に回すのは止めよう。と。




