第53話 勝負!!方法は…抜き打ちテスト???
「会長、岩瀬先輩、楽しんで来てくださいね」
「お土産は綾乃が買ってきてくれるから」
「う、うん!楽しんできます!」
早朝、2年生を乗せた大型バスを見送る。
今日から1週間は修学旅行で会長は居ない。
つまり、僕が代理の生徒会長なのだ。
最後のバスが出て行くまで手を振り、見えなくなると残った先生たちと校舎に入る。
そして、僕は生徒会室へと向かい、これからの準備をする。
準備と言っても特にイベントするわけでも無く、クリスマスに行われるイベントのスケジュールを確認するだけだ。
ちなみにクリスマスに行われるイベントとは、学校が主催するイベントであり、生徒会も当日の仕事は一切ないらしい。
らしい。と言うのは去年の資料を見ると会長が色んなことをしていたから。
だけど、今年は業者さんが企画してくれるらしく、僕たちの出る幕は一切無い。
おそらく学校側からの僕たちへのクリスマスプレゼントなんだろう。
だから、僕たち生徒会は業者さんと学校が提出してくれたスケジュールを確認するだけ。
それは僕だけで十分できることだ。邪魔さえ無ければ…
「やぁ、今日は早いんだな。犬塚真也くん」
「ふぅ…、おはようございます。何のご用でしょうか?宮崎さん」
やっぱり来ると思った…。
生徒会長を守る会 現会長の宮崎さん。
唯一、会長からの目が無くなるこの時期。そして要くんの目も無いこの時間帯に来ると思っていた。
だけど、予想外だったのは1人で来た事だ。
数人は連れてここに入ってくると思ったんだけど。
「勝負をしないか?」
「勝負?」
「ああ。さっき、私は先生たちにテストをしてもらうように言ってきた。そのテストで勝負をしようじゃないか」
「はい?」
「ふっ、一度では頭に入らないほど君の脳は衰えているのか?」
「いや、まぁ衰えてはないですけど。えっと勝負というのは?僕と宮崎さんじゃ問題の違いがあると思うんですけど」
「その辺りは私も考慮している。問題は君が今習っている所で提出してもらうように頼んでおいた。
私は受験前だ。1年の基礎問題をやるもの良い」
「えっと…、テスト自体は全然OKなんですけど、それは僕と貴方だけの勝負なんですか?それなら先生に迷惑なので嫌なんですけど」
「そんなわけないだろう。そんなことをすれば私が綾乃くんを独占すると思われてしまう。これは全学生対象だ。すでに校長の許可も得ている」
よくもまぁ…そこまでやるもんだ……。
宮崎さんは勝つ気満々らしく、校長の許可を得てテストを実施させた事が凄い事だと思っているのか、ドヤ顔で僕を見てくる。
そういえば、この人が1年生の時は生徒会長が決まったばかりで恒例の新入生抜き打ちテストは学校がやってたんだっけ…。
宮崎さんは僕に一枚の紙を見せ、ハンコを押すように言う。
僕は紙の内容に目を通してから、言われた通りにハンコを押す。
「それじゃテストの実施は会長たちが帰ってくる1日前で良いですか?その日のうちに、採点をしていくと思うのでその時にどちらの点数が上なのか見ましょう」
「ああ。良いだろう。それじゃ君もせいぜい頑張ればいい」
宮崎さんは負けるなんて一切思っていないのか、僕を睨みつけてから生徒会室を出て行く。
僕は彼の勝利を確信した背中を見ながら、ため息を吐く。
「はぁぁ…バカなのか、それとも分かっててあれだけ自信があるのかなぁ…」
手元にある用紙に目を通すと、校長と各先生のハンコはちゃんと押されている。
だけど、この用紙にはある文が足りないのだ。
用紙に書かれている内容を簡単に説明すると…
・今回、修学旅行に出ている2年生以外を対象に抜き打ちテストをする。
・テストの内容は1年生が習っている部分まで。
・実施日は修学旅行が終わる1日前。
となっている。これだと新入生対象の抜き打ちテストと全く同じなのだ。
普通に考えて、超優等生とはいえ所詮一般生徒である宮崎さんが先生たちに「テストをしてほしい!」と頼んだところで実施するわけがない。
だけど、こうして先生たちのハンコは押されている。校長も押されている。
そして、用紙の内容は新入生対象の抜き打ちテストと同じ。
これらの事を考えると、先生たちは明らかにテストの内容を生徒会に押し付ける気満々と言うことだ。
「すみません、宮本先生をお願いします」
生徒会室に置かれている電話で1年生の学年主任へ電話を掛ける。
「なんだ?犬塚」
「あの、さっき抜き打ちテストの用紙が回ってきたんですけど、これは」
「ああ。3年の進学コースの宮崎って知ってるだろ?」
「はい」
「あいつが急にやりたいとか言い出してな。基礎の部分を復習したいらしい。そのついでに全生徒にやったらどうか?と言ってきたんだ。別に俺としてはやる気は無いんだが、まぁこれも勉強だろうって意見で一致してな。テストの内容はいつも通りそっちに任せる。どんなことをやってきたかという資料は来たら渡すから。それじゃ忙しいけど頼むな」
「はい、分かりました。失礼します」
やっぱり…。
というか、抜き打ちテストの内容を考えているのは生徒会という情報は周知の事実だと思ってたんだけど……。
もしかしたら宮崎さんはそういう情報を得ていないのかもしれない。
電話を置いて、大きくため息を吐きながら僕は勝利を確信した。




