第52話 全部、会長の物です・・・。
「君たちは何をしているんだ?ここは生徒会室だろう。お菓子などは校則違反では?」
もちろん、指摘はしてくると思っていた。
生徒会室に入ってすぐに宮崎さんは僕と岩瀬先輩の間にあるポテトチップスを指摘してくる。
だけど、岩瀬先輩はそんなの気にせずに漫画雑誌に目を通し、お菓子に手を伸ばす。
完全無視を通すらしい。
「犬塚くん、これ読む?」
「良いんですか?」
「うん、読みたいのは読んだからね」
「それじゃありがたく」
まるで宮崎さんなんか居ないかのような岩瀬先輩の態度に僕も付き合う。
しかし、宮崎さんは僕にまで無視されたのが癪に障ったのか、漫画雑誌が僕の手の中に収まる前に奪い取る。
そして、一応後輩である僕たちに説教をし始めた。
「君たちは生徒会室で何をしているんだ!!!
ここは仮にも生徒たちの模範となる人が入る場所だ!それを漫画だの、お菓子だの…綾乃くんを侮辱するのは止めろ!」
お菓子も漫画も、それにゲームも会長が持ってきてるモノだし…。
たぶん、この雑誌も会長と岩瀬先輩が割り勘して買った奴だろうし……。
「別に私も犬塚くんも綾乃を侮辱するつもりもないけど?」
「ふん。確か君は綾乃くんと知り合いの岩瀬奈央だったか?」
「そうだけど?」
「いつも綾乃くんの近くに居て優越感にでも浸っているのか?君は生徒会のメンバーでもないだろう」
「犬塚くん、なんだか物凄くムカムカしてきたよ」
「そのムカムカは会長に向けないでくださいね。…あ、でも今なら八つ当たりされないか」
今、会長と僕はあまり会話していないし。
目を合わすと向こうが顔を赤くして逃げるか、キョロキョロする。
そんな状態の会長が僕に八つ当たりをしてくるとは思えない。
「そうか。どうしよう、このムカムカは綾乃をいじらないと…」
「良いじゃないですか。僕は関係ないですし」
「君が綾乃に振りまわされるのが見てて楽しいんだ」
「分かってましたけど、改めて言われると嫌ですね…」
「まぁいいか。えっと、宮崎先輩でしたっけ?綾乃の親友という立場から言わせてもらいます。綾乃は貴方とは絶対に合わない。貴方がここに来るたび、綾乃が無理している事に気が付かない時点で論外ですよ」
ほんと…僕の周りってどうしてこんなイケメンが多いんだろ…。
怒りを露わにしている宮崎さんを前に岩瀬先輩はビシッと言い放つ。
もし、ぼくが岩瀬先輩の立場でも言えないだろう。
「この私が綾乃君の事を分かっていないだと?」
会長の親友である岩瀬先輩から言われたことに反応する宮崎さんを余所に岩瀬先輩はロッカーの中から新しいお菓子を取り出す。
あのロッカーって会長が一応隠しているつもりのお菓子じゃなかったっけ…。
「犬塚くん、食べる?」
「それは結構です」
「あ、そう。まぁ君も食べたって言うけどね」
「………」
これは相当ムカムカ来ているらしい…。
しかし、宮崎さんはそのことに気が付かず、まだ岩瀬先輩に突っ掛かろうとしている。
正直、僕から見てもこの人は会長の事を何一つ知らないだろう。
もちろん、生徒会長としての会長は知っているだろうけど、自ら校則を破り、ゲームや漫画を学校に持ってきて、生徒会室に隠している会長は知らない。
ただ、僕もその程度の会長しか知らない。本当の藤堂綾乃という人物は知らない。
僕は宮崎さんが持っている漫画雑誌を返してもらえないだろうか?と考えながらも、それは無いなと答えを出して、会長が生徒会室に戻ってくるのを待つ。
どのぐらいの時間が経っただろう?
岩瀬先輩はファッション雑誌のページを捲りながら、コーヒーを飲んでいる。
その後ろでは宮崎さんが散々、会長の良い所を言っては「君は知らないだろうが」と口癖かのように言うのだ。
もう止めて欲しいの一言。だって、これ以上、この人を怒らせると後で会長が大変なことになるのは間違いないのだから。
そんな心配をしていると、元気よくガラッと生徒会室のドアが開く。
僕は頭を下げて挨拶をし、宮崎さんは僕たちに向けていた顔とは全く別の顔で挨拶をする。
そして、岩瀬先輩は…まるで、空腹状態のライオンが弱ったシマウマを見つけたかのような歓喜する目で会長を迎えた。




