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第48話 やっちゃった・・・。

 

 疲れた……本当に疲れた…。


 キャンプファイヤーの準備も済み、後は文化祭を盛り上げた人達が盛り上がるだけ。

 ここまで来て、生徒会が何かするってのは無い。

 むしろ、ここで生徒会がイベントなどを開くのは野暮というものだろう。


 僕はキャンプファイヤーに火が灯されるのをボケ~と見ながら身体の疲れを取っていく。

 会長はいつもあんな大変なことをしていたのかと思うと本当に化け物だと思ってしまう。

 こりゃ僕には絶対に無理なことをしているな…。


 ようやくキャンプファイヤーの火が大きくなり始め、周りの生徒たちが盛り上がり始める。

 そして、アコースティックギター部が誰でも知っているような曲を弾いたり、それに釣られて色んな人が歌い始める。


「お疲れさま、真也くん」

「岩瀬先輩もお疲れ様です」


 岩瀬先輩はジュースの入っている紙コップを僕に渡し、横に座る。


「どうだった?」

「どうだったとは?」

「綾乃の仕事をしてみて、どう思ったのかな?」

「大変ですね、ほんと。あんなことを1人でしてたんだと思うと腹が立ちます。でも、尊敬もします」

「ふーん、尊敬ね。それで?これからはどうするのかな?」

「特に何もしないですよ。僕は僕のやることをするだけです」

「それは告白って言うこと?」

「ぶっ!?…けほっげほっ」

「あははは。まぁ、今日はそこまで期待してないから。それじゃ私は行くよ」

「へ?あぁ~」


 岩瀬先輩は立ちあがり、上の方を指さす。

 その指の先には真っ暗な校舎の中に1つだけポツンと灯りの付いた教室。あそこは生徒会室だ。

 たぶん、会長が戻ってきたんだろう。

 それにしても、寝過ぎじゃないか?疲れていたとはいえ、5時間近くも爆睡するか?

 そんな疑問がふと浮かび、岩瀬先輩の方を見る。

 すると、僕の言いたいことが分かったのか、ポケットの中から箱を取り出し僕に投げる。


「睡眠薬…よくこんなの持ってましたね」

「まぁね。思ったよりも効いてビックリしたよ」

「下手したら危険ですよ?」

「大丈夫、そこらへんはちゃんと理解しているつもりだからね。それじゃ、アフターケアは頼んだよ」


 ニコニコしながら手を振り、歩いていく岩瀬先輩の背中を見ながら、ため息を吐く。

 たぶん、確信犯だな。

 渡された薬をポケットの中に入れ、生徒会室へと向かう。

 そして、ドアの前で一度深呼吸をしてからドアに手を掛けた。


「あ…」


 ドアの開く音でこちらを確認した会長が、一瞬でバツの悪そうな顔をする。

 昼間の出来事であの顔をしているのか、それとも今まで寝てしまって仕事ができなかったからなのかは分からない。

 だけど、今は別に関係ないだろう。


「お疲れさまです、会長」

「…う、うん。えと…その」

「昼間はすみませんでした。別に副会長を辞めようとかそういうのは考えてないので心配しないでください。あと、会長の分はちゃんと僕がやりました」

「…うん」


 どうしてそんな困ったような顔をするかな…。

 なんか調子が狂う。まぁ、いつも通りにしろって方がおかしいのかもしれないけど、あの会長なら無理やりにでもテンションを上げてそうな気もしたんだけど。


「僕が副会長だと迷惑ですか?」


 凄く意地悪な質問だと自分でも思う。

 会長はビクっと身体を震わせて、遠慮がちに僕の方を見る。

 そして、僕は一直線に会長を見る。ここで目を離してしまえばこの人は僕が一番聞きたくないことを言ってしまう。

 もし、僕の聞きたくない言葉が会長の本音なら目を見ればわかる。


「…わ、わん……い、犬塚くんは…その辞めたいと」

「思ってませんよ。確かに喧嘩した後は辞めたいと思ってました。でも、こんな楽しい事辞めるなんでできないですよ」

「ほ、本当?」

「はい。辞めませんよ」

「ううん。その、楽しい事って」

「はい。普通の生徒じゃ経験できないことをこうやって経験できるのは楽しいですよ。それに、この世界に誘ってくれた会長には感謝してます。ありがとうございます」

「迷惑じゃなかった?」

「迷惑だったらとっくに辞めてますよ。それで?僕はまだ副会長として会長とやっていけますか?」

「あったりまえだよ!!!」


 会長は後ろに花畑が咲くような笑顔をする。

 そして、その咲くような笑顔のまま、親指を立てた。

 やっぱりこの人は笑顔が似合う。



「ワンちゃん、こっち来て。良いモノが見れるよ」

「なんですか?」


 すっかりいつも通りになった会長は僕の手を取り、窓の方へと連れていく。

 そして、窓を開けるとキャンプファイヤーがやっているグラウンドが見渡せた。


「ベストスポットですね」

「でしょ!去年も私、ここで見てたんだよ。奈央にも言ってない秘密の場所だけどワンちゃんだけ教えてあげる」

「それじゃ僕は皆に言っておきますよ」

「えぇっ!?」

「冗談ですよ。でも、これで岩瀬先輩にも生徒の皆にも自慢できますね」

「ん?自慢って?」

「僕と会長の2人だけの秘密があるんだって。これで皆より一歩リー、……………なんでもないです、今の忘れてください」


 あぶなっ………。

 頭の中で自分が言おうとしたフレーズがリピートされる。


「なんなの?私との秘密は嫌なの?ワンちゃんは」


 会長は何も気が付いてないのか…よかった……。

 

 ホッとしている僕に対して会長はムッとした顔をしながら僕との距離を詰めていく。

 そして、僕は後退りをする。今、会長の顔を見たら頭から湯気が出そうになるからだ。

 会長はそんなことなんて気が付かずに詰め寄っていき、ついに僕の逃げ場が無くなってしまった。


「え、えと…」

「どうなの?」

「いや、あの…ち、近い…」

「ん?聞こえないよ」


 ち、近すぎる…。

 会長の吐く息が僕に当たるぐらい近い。

 僕が本気でキスをしようとするなら抵抗する前に行きつく近さだ。


「おや、ごめん…。悪いタイミングで入ってしまったようだね。ついやってしまった」


 2人しか居ないはずの生徒会室の中に新たな声が聞こえる。

 もちろん、あの人は狙っていたんだろうと思う。

 しかし、僕も会長もこの事態を予測してなかったため、お互いが変な動きをしてしまった。


「「あっ」」


 一瞬、本当に一瞬だけ、僕と会長の唇が触れる。

 一瞬だったけど、確実に触れたのだ。

 そう感じたのは僕だけでなく、会長も感じたらしく、手で口を隠し顔を真っ赤にする。

 僕の顔は今どうなってるだろう?顔が熱過ぎる。

 お互い目を合わせることもできず、沈黙が続く。


「っ!!」


 最初に動いたのは会長だった。

 まるで猫のように俊敏に生徒会室から出ていく。


「くくっ、さすがの綾乃もあーいうハプニングは苦手みたいだね」


 ハプニングを起こした岩瀬先輩が肩を震わせながら口に手を当てる。

 そして、僕に向かって満面の笑みでこう言ったのだ


「おめでとう、綾乃のファーストキスは君だよ」と。



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