第43話 やきそばと寝顔と。
「ああぁぁぁ…疲れたぁ…」
ようやく夕方の5時。
文化祭1日目が終わりを告げる。
会長はさっきから「どこからそんなおっさんみたいな声が出てるの?」と言いたくなるぐらいの声を出して、机に突っ伏しながら脱力中だ。
「ワンちゃんは元気だねぇ…どうして?」
「別に元気なわけじゃないですけど、そこまで力を抜く気にもなれないんですよ」
「そう?もう生徒会室なんだから良いじゃん」
ヒラヒラと手を振りながら笑う会長を見て呆れながら、今日のレポートを作成していく。
これも本当は僕の仕事では無いんだけど…まぁ会長はあれだけ力が抜けているし、しょうがない。
「わんちゃーん、お腹すいたよ~」
「そうですか」
「冷たいよ~、わんちゃんが冷たいよ~」
「………」
「ペコペコだよ~…、死んじゃうよ~…うぅ…無視…」
「…はぁぁ、なんなんですか。さっきから」
「お腹減った~。私、朝から何も食べてないんだよ!ずっと体育館でスケジュール通りに進むように指示してさ、間ができちゃったらMCで繋いだりとか、手伝ったりとか。ず~~~っと仕事仕事仕事」
あぁ、なるほど。
ずっと仕事をしていたから何か労えということか…。
「凄いですね」
「そうなんだよ。君の生徒会長さんは凄いんだよ」
「それは知ってました」
「……なんか面白くない」
「はぁぁ…面白くないって言われても…。あ、そういえばさっき3年生のやきそば屋さんから残り物を貰ったのがあったっけ。食べます?」
「食べる!早く早く!」
目をキラキラを輝かせて、パブロフの犬のように涎を垂らす勢いの会長を見て、本気でお腹が減っていたんだなぁと思いながら、さっきもらったやきそばを取り出す。
若干冷えてはいるけど食べられるだろう。
会長に1つやきそばと割り箸を渡すと、不思議そうな顔で僕の方を見てきた
「1つだけ?」
「そうですけど?」
「ワンちゃんのは?」
「別にこのレポートが終わればコンビニに行ってご飯を買ってくるので良いですよ」
「ん~、なんだか悪い気が…」
「何今更言ってるんですか…良いですよ。元々会長に渡そうと思ってもらったモノですから」
「そうなの?それじゃ遠慮なく。いただきます」
本当の所は僕の晩御飯のために安くなった残り物を買ったんだけど…、今は言わなくていいだろう。
会長は幸せそうな顔をしながら、少し冷えたやきそばを口の中に入れていく。
「おいしー」
「それは良かった」
「やっぱり、空腹は最高のスパイスだね。こんな美味しいやきそばを食べたの初めてだよ」
「そうですか。明日3年生の所へ行って、会長が喜んでたって言っておきます」
「あ、その時は私も一緒に行くよ。これも美味しいけど焼き立てはもっと美味しいだろうしね」
「いや、明日は生徒会主催のイベントがあるから無理だと思いますよ。今日以上に忙しくなるだろうし」
「大丈夫大丈夫。それよりもやきそば食べたら眠くなってきたかも…」
「食べてすぐ寝ると牛になりますよ」
「うぅぅ~、もうダメ…ワンちゃん、先に寝るね。消灯時間になったら起こして」
会長はモソモソと寝袋に入ると、1分も経たないうちに規則正しい呼吸をし始める。
最近になって思うことがある。
どうして僕はこんな人を好きになってしまったんだろうと言うことだ。本当に切実に思う。
幸せそうな寝顔をする会長を見ながら、大きくため息を吐いて、残りのレポートを一気に終わらせることにした。




