第41話 一緒なのに・・・変なくしゃみ・・・
「ふぇっくちょん!」
今すぐにでも家に帰したい所なんだけど、生憎、僕は会長の家を知らない。
そして、調べようとも思わない。
会長は僕の持っている中で一番高い寝袋の中に潜り、さらに布団の中に入るという格好で寝ている。
そんなに寒いならさっさと家に帰って温かくすればいいのに。と思うんだけど、それはもう口にしても意味は無いため、無視をする。
今は夜の11時。
ようやく学校の中も静かになり、ポツポツと教室の電気が付いている程度である。
大きな音を出すような作業はそろそろ控えてもらわないと。
僕はさっき入れたばかりのコーヒーを飲んで、気合を入れ直す。
「会長、起きてます?」
「なに?」
「見回り行ってきます。あとついでに近くのコンビニまで行きますけど何か要りますか?」
「うぅ~…ティッシュ」
「箱ならありますよ。飲み物とかは?」
「いい」
「そうですか、それじゃ行ってきます。電気、消しときましょうか?」
「だ、ダメ!!!」
「はい。それじゃじっと寝といてください。早めに帰ってきますから」
そういえば、会長って怖いの苦手だったっけ。
生徒会室を出て、真っ暗な廊下を懐中電灯を持ちながら歩く。
ホント、廊下は一応怖いんだけど階段が一番怖いな…。
ターンターンと自分の歩く音が響いて、誰かが後ろを付いてきてるかのように感じる。
僕は少しビクビクしながらも、仕事だと自分に言い聞かせながら今日、夜に残っているクラスを回る。
そして、最後に要くんがいる調理室へと向かう。
「お疲れ様です~、生徒会です」
「お、真也。遅くまでお疲れ様」
「要くん、会長が死んじゃいそうだよ。変なくしゃみして」
「あははは、綾ちゃんはそう簡単に死なないって。それよりもこれ、味見してみてよ」
要くんは紙コップに美味しそうなちくわを入れてくれ、僕に差しだす。
あんな笑顔でこんなことをされると怒る気にもなれない。そういうところは会長そっくりだな…。
もしかして、そういう遺伝的なモノがあるんだろうか?何をしても笑顔を見せられると許してしまうような遺伝子…。
「まぁ顔だよね…」
「ん?どうかした?」
「ううん。あ、美味しい」
「もうちょい煮詰めて、一旦冷やせば更に美味しくなるらしいよ」
「へぇ。あ、そうだ、これ会長の分も貰っていい?」
「ん?あ~、いいよ。ほれ」
「ありがとう。それじゃ大丈夫だとは思うけど、火は気を付けて」
「ああ。綾ちゃんによろしく~」
楽しそうな笑顔を僕に振りまく。そして、その要くんに見惚れる女の子たちを見ながら調理室を出る。
ほんとこの姉弟は人気が凄いな…。
会長は男女問わずに人気があるし、要くんは女の子から圧倒的な人気を得ている。
まぁ2人とも顔は良いし、性格も悪くない。
会長は人を楽しませようとするのが上手い人だし、あの人に任せていれば自然と面白くないモノも面白くなりそうな空気を持っている。
要くんは、チャラチャラしているように見えて芯はしっかりしているし、どんな人にも平等に話す。まぁ、彼女である宮地さんは一線引いて超特別扱いをしているけど。
でもまぁ、要くんが人気を得ている理由は野球をやっている時と普段の時のギャップだろう。
全く別人のように野球は真剣に取り組んでいるし、その取り組んでいる時の顔は男でも軽く惚れてしまいそうなぐらいカッコいい。
「………あれ?」
なんだろう?
あの姉弟の事を考えていると何かが引っかかるような気がする…。
2人とも凄い人気なんだけど……何が引っかかってるんだろう?
「ふぇっくちょん!」
ガラガラと生徒会室のドアを開けるとちょうど会長がくしゃみをする。
……鼻水、凄いな…。
どんな綺麗な顔でも鼻から鼻水が垂れていると台無しになるいい見本だと思う。
「良い匂い」
「とりあえず鼻水、拭いてくれません?あと要くんからおでん貰って来ましたけど、食べますか?」
「食べる食べる」
モゴモゴと器用に寝袋の中に入ったまま、テーブルの付近まで這ってくる。
そして、チャックを腕が出る程度まで出して、おでんの入っている紙コップを受け取った。
「本当に風邪引いてるんですか?」
「ふぇっくちょん! ふぅ~ふぅ~…はふはふ」
全く人の話を聞かない人だな…。
はふはふとアホっぽくおでんを食べる会長を見ていると不思議そうな顔でこっちを見てくる。
「どうしたの?ワンちゃん」
「いえ。薬は飲みましたか?」
「ううん。寝てれば治るよ」
「それ食べたらこれ飲んで寝てください。僕ももう寝るので」
「えぇーこれからでしょ? ふぇっくちょん!」
「そんな変なくしゃみをしてる人が何言ってるんですか…。はい、もう寝る!」
「あぁぁ~…意地悪~…ふぇっくちょん!」
本当にどうして僕はこんな人を好きになったんだろう…。
謎すぎて今夜は寝れそうに無いかもしれない…。




