第29話 2学期。
世界ってのはどうしてこうも僕に対して厳しいんだろう?
2学期の初日、会長は昨日ぶつけた指を包帯でぐるぐる巻きにしてやってきた。
その情報はすぐさま学校中に知れ渡り、30分もすれば犯人捜索隊が結成された。
つまり、僕の命は残すところ数秒である…。
僕は生徒会室へと逃げるように向かい、少しでも命を伸ばそうとする。
しばらく、体育祭のタイムラインを考えながら始業式が始まるまで時間を潰す。
今頃、会長は指が動かないとか言って会長を神を崇めている男共を操っている頃だろう。
それにしても、会長が口を割らないと確証はあるが僕が関係していると予測できるのは誰だってできることじゃないんだろうか?
それなのにこうして生徒会室に入れると言うことは別の犯人が出たのかもしれない。誤認逮捕ってやつ。
それはそれでその人が可哀そうだけど…僕にできることは一切ないのだ。なぜなら「僕がやりました」と言った所でその人が助かるわけでもなく、僕と一緒に拷問を受けるだけ。
なぜなら、疑われる=何かしらの罪があるということなんだから。
「ふぃぃ~…疲れたぁ~って、あれ?ワンちゃん」
「会長、お疲れ様です」
「うん。ワンちゃんどうしたの?」
「ちょっと体育祭の事を考えたかったので」
「体育祭の事?ふ~ん…あ、そうだ!これ、見てくれない?」
会長はグルグル巻きに巻かれた指を僕に向ける。
これは巻き過ぎでグーもできない状態じゃないか…そんなに酷くなかったはずだけど…。
「違うと思いますけど、これ病院で?」
「ううん、あまり痛くならなかったから自分で巻いてみたんだけど…こんなになって、解くのもめんどくさかったからこのまま来たの」
「それで?」
「巻いてほしいなぁって思って」
「…はい?」
「ほら、こんなのになったのもワンちゃんが原因だから」
「それ言いますか…わかりました。巻かせていただきます」
昨日といい、今日といい、会長の手を触るのはあまり心臓によろしくないんだけどこれはしょうがない。
自分にこれは会長の手では無いと言い聞かせながら、指に何重にも巻かれた包帯を解いていく。
「これ長すぎますよ」
「うん、私もやってるときにそう思ってた」
「とりあえず、今ぐらいでこうやって………はい、できました」
「おぉぉ~、ワンちゃんは器用だね~」
「こんなの誰でも出来ますよ」
自分でもテレ隠しだとは分かっていながらも視線を会長から外す。
そして、さっきまで見ていた資料に目を移す。
本当に心臓に悪い…。
「ワンちゃんワンちゃん」
「なんですか」
「昨日渡そうと思って忘れてたんだけど、これ返すね」
会長はカバンの中を漁り、一枚のDVDを僕に差しだす。
そういえば、夏休みに入って少しの時に洋画のDVDを貸したんだっけ。
「どうでした?これ」
「面白かったよ~。ハラハラドキドキで最後はちょっと泣けて、男のカッコよさを見たって感じ」
「それは良かったです」
「ワンちゃんはあーいうのが好きなの?GWの時も見てたけど」
「ん~、まぁ好きですね。特別好きというわけじゃないですけど」
「そっか。これはお返しと言っちゃなんだけど、私のお気に入りの本なの。読んでみてね」
会長は僕に1冊の本を渡す。
表紙からして僕が読めそうにない。なぜなら思いっきり英語で書かれているからだ。
ただまぁ、表紙だけ英語ってことも無くは無いので中をパラパラとめくってみるとそこには英語がずらーと並んでいる。
会長ってこんなの読めるのか…。
「あの読めないんですけど…」
「そうなの?ワンちゃんなら読めると思うけど」
「辞書を片手に読むほど根気強くないので…」
「ダメだよ、こういうのから英語力が身につくんだから」
会長の言うことはごもっともだけど、めんどくささの方が勝つのは目に見えている。
僕は丁重にこの本を会長に突き返してDVDだけカバンの中に入れる。
その間も会長は「面白いのになぁ」と愚痴垂れながらパラパラとページを捲っていく。
「もしかしてそういう本って何冊も持ってるんですか?」
「そうでもないよ、これとあと2冊ぐらいかな」
「翻訳されたものとかあるんじゃないんですか?」
「翻訳したのも持ってるけど、やっぱりその翻訳家さんのイメージを通ってくるからね。原作で読むとまた違った感じが読みとれて面白いの」
「へぇ~、なんだか会長が物凄い賢い人に見えました」
「ふふ~ん、私って結構賢かったりするんだよ。見直した?」
「まぁ一応。それよりもそろそろ行かないとヤバいんじゃないですか?」
「あっ!そうだった!ワンちゃん行こう!」
会長は生徒会室のカギを持ち、僕を部屋から押し出す。
そして、僕は会長と一緒に始業式が行われるグラウンドへと向かった。




