第28話 夏休みもおわり
「えぇーーー!!ずるーい!!!」
今日で夏休みも終わり。
まだまだ体育祭の事が終わっていないけど、今日ぐらいはゆっくりしたい。
だから、生徒会の仕事はお昼までという話だった。
しかし、僕と要くんが海に行ったという情報がどこからか漏れたせいで会長が猛抗議中なのだ。
「ズルイも何も会長泳げないじゃないですか」
「海=泳ぐことということは間違いだよ。それよりも…いいなぁ…私も行きたかったなぁ」
「まぁもう終わったことですから。それでは会長、また始業式に会いましょう。おつかれさまで」
「納得いかない!」
「……あの、離してくれませんか?」
会長は僕のカバンを握り、奪おうとしてくるのだ。
何が納得できないのか知らないけど僕にとっちゃ知ったこっちゃない話。
しばらく会長と僕の間での勝負が行われ、本気になれなかった弱い僕が負けてしまった。
「どうすればいいんですか…」
「そうだね~…そうだ!ケーキ屋さんに行こう!」
「あ~あのおススメのケーキ屋ですか」
「うん、一度はワンちゃんも食べるべきだよ。絶品」
いつも食べてます…とは言えず苦笑いをする。
しかしまぁ…母さんにはすでに会長の事は知っているし、あの人ならなんとなく流してくれそうな気がする。
ただ、会長があの人の事を僕の母さんだと見破る可能性があるのだ。
普段はあまり似ていないと言われているが並んでみると意外と小さい所で似ている所が多いのだ。
「僕、今はダイエット中なのでケーキは勘弁してください」
「ダイエット?必要なの?」
「はい、意外と太ってたりするんです」
もちろん嘘だけど。
「それにケーキを食べ過ぎると病気になるんですよ」
「それじゃお昼奢って」
「あはは、意味が分からないので帰らせてもらいますね」
「あぁ~…わかった、わかったから!」
「はぁぁ…何が分かったんですか…」
「わ、私の秘密を教えてあげるから!」
「いりません、そんなの。重いです」
別に知りたいとは思っていない。いや、ちょっとは知りたいけど…。
「なんでワンちゃんはそんなに私に冷たいの?私悲しくなってきちゃうよ…うるるる」
「そうですねぇ…人の事をペットのように呼ぶ所とか、ゲームばっかりして仕事をしてくれない所とか、お菓子ばっかり食べてしまう所とか」
「あ、あの…それはあと何個あるのかな?」
「言いだしたら止まらないですけど…でもまぁ、気にしないでください」
「うっ…そんな笑顔で言われるとダメージが…」
「では、ダメージを癒すために1人にさせてあげますね。すみません、失礼します」
「ちょっと待って、どうやっても帰ろうとするなら私にも手がある」
「そうですか。それはすごいですね。では失礼します」
ペコっと頭を下げて生徒会室のドアを開ける。
そして、会長の手が僕のカバンにのびる前にピシャッとドアを締めると、どこかのホラー映画のようにドンッ!!!と大きな音が鳴り、ゆっくりとドアが開いていく。
本当に諦めの悪い人だ…。
半分呆れたようにため息を吐き、ドアの向こう側から覗いている会長の顔を見てみると涙目でこっちを見ていた。
また泣けば僕が負けるとでも思っているんだろうか…。
「いだぃ…指ぶつけた…」
「………」
「ほんとに痛い…」
もしここで「会長、演技が上手くなりましたね」とカッコよくスルーできる人は何人ぐらいいるんだろうか…。
いつもと違い本気で痛いらしく、赤くなっている指を擦っている。
「痛い…」
「ちょっとすみません。…これはどうですか?」
痛いと言う指を持ち何か所か少し力を加えて抑えてみる。
すると痛い痛いと喚くけど、骨には異常は無いらしい。単なる突き指だろう。
というか…勢いで手を握ってしまっているじゃないか…やばい…ちょっと手汗やばいかも…。
パッと手を放すと会長は、どうしたの?と言いたげな顔で僕を見る。
「っと…えっと~、大丈夫です!ただの突き指です。冷やす物作りますね」
会長の視線に耐えきれなくなった僕は逃げるように生徒会室に置かれている冷蔵庫の中から氷を取り出し、ビニール袋の中に入れて水を入れる。
そして、直接指に付けると冷た過ぎるので自分のハンカチを間に乗せる。
「冷た過ぎたりしませんか?」
「うん」
「しばらく冷やして痛みが増していくようなら病院に行ってくださいね。骨には異常は無いと思うけど…」
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
「僕に非がありましたから。それじゃ痛みが酷くなったら病院行ってくださいね?」
「うん、おつかれさま」
「はい、おつかれさまでした」
今度は静かにドアを締めてから学校を出る。
さっきから心臓がドキドキしているのだ。たぶん会長の手を握ってしまったせいだろう。
僕のよりも全然柔らかくってすべすべしていた…ってなんて変態なことを考えてるんだ僕は…。
何度か頭を振り、不純な考えを取り払うようにして家へと向かった。




