第27話 要くんは超イケメン。
「いやぁぁ~~、気持ちいいなぁー、ほんっと!」
ざざ~と波の音がするここは浜辺。
そして、僕の横には水着を着た会長では無く、その弟の要くんが今にも泳ぎだそうかと言わんばかりに準備体操をしていた。
今日は要くんと僕との男二人で何故か海に来ている。
何が悲しくて男2人で海にいるのかは不明だ。昨日、要くんから急に「明日、海いかない?」という電話を貰ったのだ。
その時は何人かのグループで行くものだとばかり思っていたから快くOKを出して、着てみれば男2人だけ。
本当にお姉さん同様、藤堂家の頭の中を調べてみたいものだ。
「真也は泳がないの?もしかして泳げない系?」
「ううん。泳げるけど…どうして男2人だけなのかなぁって」
「ん?あぁ~…真也もそういう歳頃なんだ。いいじゃんいいじゃん、たまには男だけで遊ぼうぜ。女と一緒に居ても気が詰まるだけだろ?」
「いや…そんな女の人と一緒に居て気が詰まるような環境に居た事がないので…」
「あぁ~…あっ、ほら!綾ちゃんいるじゃん!」
「あぁ…会長ね」
あの人はなんだろ…気が詰まるというか、そう言うのじゃない気がする。
確かに一緒に居たら疲れるけど、後を引くような疲れじゃない。
それに…。
「っぷ、もしかして惚れた?あの人に」
「なっ!?」
「もしかして~とは思ってたけど…やっぱりかぁ。まぁ今まであの人の近くに居た男で惚れなかった人はいなかったけど」
「それは要くんも?」
「おれ?ないない。一応、俺の姉だし」
「一応って…」
「とにかく綾ちゃんの近くにいた男であの人に惚れてない人はいないな。それも見ててすぐわかるレベルだった。ほら、顔がほわ~~んとしてて時々ニヤニヤしてるんだよ、あれはもう傍から見ればキモイレベル」
要くんは前を通る女性を目で追いながら話す。
もしかして、僕もあんな風に会長を目で追っていたんだろうか…そうだとしたら死にたい。
「あ、でも真也はいまいち分からなかったなぁ。最近になってちょっとあるかなぁって思ったからカマかけてみたら」
「はぁぁぁ…やっちゃった」
「まぁまぁ、俺から見ても綾ちゃんは確かに美少女だし、しょうがないって」
「あはははは」と要くんは笑いながら準備運動を終える。
そして、ようやく海の中へと走っていく。
僕もこの暑い日差しの下にいつまでもいるもの何なので要くんの後を追った。
太陽が傾き、辺りは赤色に染まる。
海に入り続けたせいであの独特のだるさがあるけど、これから電車に乗って1時間半の道をたどらないと行けないのだ。
そして、僕の後ろにいる要くんの周りには女の子が2人。
約20分前に逆ナンされたらしい。
「真也、俺これからこの子たちと行くけど来る?」
「ごめん、勘弁して」
「だよな。うん、ごめんね、今日は帰るよ」
「えぇーいいじゃん遊ぼうよ!」
「無理、帰る。じゃね」
ブーブーと文句を言う女の子2人を軽くあしらって僕が持っていた要くんの荷物を持つ。
イケメンって何しても絵になるけど、こんな風に女の子に遠慮せずに言う姿は更に輝いて見える。
「いいの?」
「あぁ、うん。逆ナンする子って好きじゃないし」
「ならどうして?」
「一度はあーいうチャラ男っぽいことやってみたかったんだ」
「僕には分からないや…」
「あはは。というか俺、彼女いるよ?ほら」
要くんがパカっと携帯を広げて、待ち受けを見せてくる。
その待ち受けには僕のクラスの地味子と言われている宮地さんと要くんが楽しそうに移っている写真が載っていた。
「え?え?うちのクラスの宮地さん?」
「そそ。噂の地味子ちゃん。メガネ取るとこんな可愛いんだ」
「え、でも…」
もし、クラスメイトに宮地さんの事を聞いたら、ダサい。根暗。何考えてるか分からないから怖い。なんか気持ち悪い。と言ったイジメに近い言葉が並べられるほどクラスでは浮いている存在だ。
思わずそんな言葉を彼女の彼氏さんの前で言いそうになるが、要くんは何とも思わずに話し始める。
「ほら、真也のクラスで最近イジメあるって聞いてさ。俺もどんな奴が苛められてんだろ?って思って見に行ったんだよ。んで、なんか女子の修羅場っぽい所に出くわしたんだけど、そこで助けに入ったわけ。そーいうの見逃せない性質だし」
性格もイケメン…。
「んで、その場は何とか収めて、倒れてる志乃の方を見たら俺の心を奪われたってわけ」
「…凄いね…なんか」
「でも、実際にこの顔は可愛くない?いつも学校じゃメガネかけて前髪長くして~って地味なイメージしかないけど、ちょっとメガネ外して前髪を分けたらこんなに変わるんだぜ?」
「確かに…これは可愛いかも…」
待ち受けの宮地さんは普段では想像できないような笑顔で写っている。
会長のあの顔を100としたら、この宮地さんは70は行く。
もちろん、普段とのギャップがそう感じさせるのかもしれないけど、これは贔屓無しで可愛いと言えるレベルだ。
もしかしたら、女子からいじめを受ける理由は地味だからとかそういう理由じゃないのかもしれない。
「あ、言っとくけど譲らないぞ?志乃は俺の彼女なんだから」
「取ろうとは思ってないよ。でも、どうやって告白したの?」
「普通に手紙書いて志乃の机の中に入れたりしたかなぁ」
「こ、古風なやり方なんだね…」
「メルアドと電話番号を知ってからは毎日メールしたし、電話で告白もした。志乃ってば直接告白させてって言ってもさせてくれないんだもん。たぶん、なんかの罰ゲームかイタズラだと思ってたんだぜ」
「そりゃ、一番のイケメンに迫られたら…」
「ったく、志乃だって十分可愛いのに。それで、メールで今度のテストで上位に入ったら直接告白させてもらって、答えを直接聞かせてほしいって言ってやったんだよ。もう本気で勉強したって…たぶん一生分、勉強したかも」
「それで1位…ホント藤堂家のDNAが欲しいよ…。その後はどうなった…って、付き合うことにしたんだよね」
「まぁね。一応、本気だったってことは通じたみたい。まっ、志乃が皆には黙ってて欲しいって言ってたから誰にも言ってないけど。あ、真也は別だよ?言いふらす人じゃないし」
「信頼されてるのは嬉しいけど…、でもあの宮地さんと要くんがねぇ」
「ちなみにこれからずっとテストでトップ20までに入らないと志乃が怒るのでよろしく」
「…大変だね。付き合うのも」
「ああ…、でも志乃と一緒に勉強できるし、この前なんて俺が試合で勝ったら志乃なにしたと思う?すっごい顔を赤くしながら恥ずかしそうに黙ってキスだぞ?あれはもう…思い出しただけで死んじゃいそう」
あぁ…普段の要くんのイメージが崩れていく…。
クールな要くんはもう僕の前には居らず、身体をくねくねとくねらせながら悶えている。
「本当に宮地さんが好きなんだね」
「そりゃな。あいつに何かあったら俺の身体がどうなろうと助ける。そうじゃなきゃ惚れてる意味ねぇもん」
少し恥ずかしそうにハニカミながら笑う要くんの顔は元からイケメンな顔なのに更にカッコよく見えた。




