第25話 あ、気付いちゃった…
前回までのおさらい。
会長の水泳練習の手伝いをした後、何故か真面目な発言をしたので茶化してみたら思った以上に怒ってしまったのだ。
まぁそれとは一切関係なく、生徒会とは難儀なモノで夏休みの期間は部活や同好会が学校で合宿をするため、事前に説明などをしないといけないのである。つまり、ほとんどの日はいつも通り、学校と家の往復だ。違うと言えば勉強しなくて済むのと早く帰れるぐらい。
「以上の事が合宿をする際の注意事項です。他に質問などはありませんか?」
「は~い、大丈夫で~す」
「それでは、有意義な合宿を楽しんでくださいね。でわ、失礼します」
僕の話なんて8割方聞いていないだろう。
しかし、これは説明をしたという事実が必要なわけで、今日この同好会が問題を起こした所で生徒会の出る場所では無い。警察か学校のどっちかが出てくるだけである。
何と言う名前かも忘れてしまった同好会の合宿場所、教室を出て誰も居ない生徒会室へと向かう。
今日はあの同好会だけが合宿予定なのでもう帰ってもいい。会長も居ないし。
会長はこの前の事があってから僕と会いたくない…というか、ちゃんと身体を拭かずに家へ帰ったらしく風邪を引いて自宅療養中。
ちなみに、お見舞いに行こうかと思ったが会長の家を知らないので何もしていない。
要くんや岩瀬先輩に聞けばわかるんだろうけど、そこまでして見舞いに行きたいとも思わなかったりする。
今夏からエアコンが付けられた生徒会室に戻ると、ちょうどいい具合の温度に保たれている。
やっぱり説明に行く前にエアコンを付けていると帰った時が天国だ。
会長がいるとこれをさせてもらえない。「エコだよ!エコ!」らしい。
確かにエコは大切だけど、太陽の光が容赦なく入り込むこの生徒会室は30分も置いておくだけで灼熱地獄となるのだ。
「ふぅ~、涼しい」
椅子にドサッと座り、少しだけ息抜きをする
静かな生徒会室の中はコォォォとエアコンの動く音と外でやっている野球部やサッカー部の活動の声や音がする。
最近、ずっと1人で説明やら確認やらで動き回っていたせいでこんな静かな時間を過ごせていないからとても落ち着く。これも会長がいないからできることだと思うとたまには風邪を引いてもらうのも良いかもしれない。
「ふぁぁぁぁ~………少しだけ眠ろう…」
大きな欠伸を合図に腕を枕にしながら机に突っ伏す。
こんな静かな日にはお昼寝に限るのだ。
夢を見た
それはいつもと変わらない日だった。
学校に登校して、授業を受けて、放課後に生徒会室へ向かう
そんないつもと変わらない景色なのにいつもと何かが違う。そう、いつもの席に会長が座っていないのだ
いつまで経っても会長は現れず、日が傾き、生徒会室が紅く染まる中、僕一人だけがボケーっと座っている。そんな僕は悲しさや寂しさなんてものは無い。もちろん喜びなども無い。
ただひたすら何も考えずにボーっと座って、徐々に心が冷たくなっていくような…。
「ん…んん…?」
どのぐらい眠ってしまっていたんだろう?
顔を上げると先ほど見ていた夢のように生徒会室が赤く染まっている。少しだけ眠るつもりが深く眠っていたらしい。
もしかするとまだ夢の続きなんだろうか?
夢かどうかを確かめるために辺りをキョロキョロと見渡すと夢とは1つ違う所がある。
夢では誰も座っていなかった所に会長が体育座りで椅子の上に座ってゲームをしていたのだ。
「あ、起きた?おはよう、ワンちゃん」
会長はゲーム機から視線を上げて優しく微笑む。
認めたくない…絶対に認めたくない…だけど、認めないといけないのかな…。
「え?わっ!ど、どうしたの?なんで泣いてるの??」
「…何でも無いです。欠伸したんですよ」
心がぽかぽかと温まる。さっきは凍りそうだったのにそれを解かし、温める。
そう、氷が太陽の光によって解けるように。
「すぅぅ~…ふぅぅぅ。改めておはようございます」
「ダメだよ、25℃の設定にして寝ちゃったら風邪引いちゃう」
「すみません。それより会長はどうしてここに?風邪だったんじゃ」
「部屋でじっと寝てるなんてできないよ。だってここが私の居場所だし、真也だって私がいないと寂しいでしょ?」
何の疑いも無く笑う会長に思わず正直になってしまいそうになりながら、自分を抑えていつも通り笑顔で否定する
すると、会長もいつも通り反論してきていつもと同じ日常に戻る。
これが良くも悪くも僕の日常なのだ。
だけど、まぁ……いっか。心の中で大きくなる物を感じながらも、しょうがないか…。と自分に言い聞かせて、会長のゲーム機を取り上げた。




