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第24話 右頬と左頬に赤いもみじができました。

 

「ワンちゃんが悪いんだからねっ!!!」


 本気で怒っている様子の会長様。

 これ以上無いぐらい怒っている会長様はただ今、苦手な水の中を立っている。

 しかし、そんなことなんて関係ないのか、僕に向かって真剣に怒っていた。


「だいたい、ワンちゃんは人が信用してあげたのになんで裏切る行為をするのさ!!!」

「そのことには謝りますよ。本当にごめんなさい」

「謝って許されない問題だよ!!私、死ぬかと思ったんだから!」

「大丈夫ですよ。本当に危なかったらプールサイドにあげるつもりでしたから」

「そんなのできないよ!人が暴れてる時は無理なんだから!」

「…そういえばそうですよね」


 会長が動かなくなった状態の事しか考えてなかったから、暴れるという所は盲点だった。

 改めて、考えてみると本当に危険なことをしたんだなぁと思ってしまう。

 しかし、今回はなんとか僕の考えは成功したので良しとしよう。今後は使わないと誓って。


「まぁまぁ、落ち着いてください。それよりも大丈夫ですか?苦手な水の中ですけど」

「そうやって話を反らそうとしてもむ……………きゃぁっ!?」

「ちょっ!?抱きつかないでください!!!」


 ようやく今の状況を理解できたのか、溺れまいと僕の身体にひっつく。

 そのせいで僕の鳩尾辺りにムニュとした柔らかいものが押し付けられる形になる。

 正直に言おう。期待していた展開であったけど、実際にこういう場面になると困る。色んな意味で困る。


「か、会長…は、離れてください…」

「や、やだ…溺れる…」

「足着いてるのにどうやったら溺れるんですか…ちょっ!更に強く」

「溺れる溺れる溺れる溺れるっ」


 肋骨辺りがミシミシと音を立てているような気がする。

 確かに会長の言う通りかもしれない…足を着いていても溺れることはありそうだ…今の状況が続けば確実に僕が溺れる。

 一刻も早く、この徐々にきつくなっていく抱きつきから解放されないと僕の命が危ない。


「か、かいちょ……む、むね…」

「おぼれるおぼれるぅ!!!」

「会長!!!胸当たってます!!!」

「ひっ!?え、エッチっ!!!!!!」


 理不尽だとは思う。だけど命には替えられない。

 会長の左手が宙に浮くと全力で僕の右頬に向かって振りおろされる。

 そして、無抵抗の僕の右頬にダイレクトアタックし、そのまま振り抜かれた。


「痛ったァァぁああぁぁァァ!!!!」


 ビターーーンと外にも聞こえるんじゃないかってぐらいの音と共に僕が叫ぶ。

 これはもう完全に跡ができた…両頬に…。

 痛さのあまりヒリヒリとする頬を擦りながら、僕から少し距離を取り、手で胸を隠している会長を睨む。

 さすがに叩かれるのは覚悟していたが、ここまで強く叩くのは納得できない。


「な、なにさ…」


 少しだけ罪悪感があるのか、会長は後悔しているような、でも怒っているような顔で僕を見る。

 ここはもう僕が大人になろう…原因を作ったのは僕なのだから…。

 気持ちを落ち着かせるために深呼吸をして、頭を下げる。


「ごめんなさい。僕が全部悪かったです」

「うん」


 あ、そこは肯定なんだ…。


「でも、会長はプールに入れるようになったんで次のステップに進みましょう。次のステップは顔を付ける」

「嫌、怖い。無理だよ」

「大丈夫ですって。ほら、こうやって」

「それができたら泳げてるもん」

「……いやぁそれはどうか分からないですけど…これができないと泳げないのは確かです」

「できない。怖いもん、休憩!もう休憩する!」


 じゃばじゃばと会長はプールサイドまで歩いて行き、ひょいっとプールからあがると体育座りをして拗ねる。

 泳げるようになりたい、だけど怖いから顔を付けたくない。という矛盾した考えが会長を少しイラつかせているのかもしれない。

 僕には分からないけど、だいたいそんな感じだと思う。

 僕もプールから上がり、近くに置いておいたタオルで体を拭き、会長にもタオルを渡す。


「身体が冷えるとダメですからどうぞ」

「ありがと」

「…横座ってもいいですか?」

「うん。ごめんね、私が臆病なせいで迷惑かけて」

「いいえ、別に良いですよ。プールにタダで入れるので」

「…ワンちゃんって優しいね」

「はい?」

「優しいよ、本当に。私なんかのためにプールを用意してくれたりさ、本当に優しい」

「…まぁあれだけ泣かれて泳げるようになりたいって言われれば誰でも」

「……ありがとうね。私のために」


 なんだ…なんなんだ?今日の会長は本当におかしい気がする…。

 あれか?死にかけた体験をしたからおかしくなったんだろうか?

 さっきから会長の視線は変わらず、遠くの方を見ているし、これはヤバい状態なんじゃないだろうか…。


「だ、大丈夫ですか?会長。ショックが大きすぎておかしくなったんじゃ」

「…叩くよ」

「やっぱりおかしく…イタっ!」

「せっかく人が素直になって感謝しているのにどうしてワンちゃんはそうやっておかしな方向に持っていくのさ!!!もう良い!帰る!水泳大会なんて絶対許可してやんないんだから!あっかんべー!!!」


 下をベーッと出して、走り去っていく会長の後ろ姿を見届ける。

 あの年でアッカンベーをする人なんて初めて見る気がする…というか、まだ水泳大会をしたいと思っていたのか、会長は。

 ペタペタと音を立てながら女子更衣室へと向かっていく会長の後ろ姿に向かって僕は最後にこう言った。


「会長!プールサイドを走ると危ないですよ!!」


 僕の叫びは会長に届いたのか、ピタッと走るのを止めて、背筋を伸ばして歩きながら女子更衣室へと姿を消した。

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