第2話 やればできる副会長さん?
僕の名前は犬塚真也。通称ワンちゃんだ。まぁワンちゃんなんて馬鹿げた呼び方をする人は会長以外いないんだけど…。
僕は四條学園の1年生で高校生活に夢を咲かせている新入学生だった。
しかし、入学から1週間後にその夢は儚く崩れて去る。
「君、うちの生徒会副会長に任命」
いつも通りの通学時間に校門をくぐり抜けるとそこには恐ろしく美人な先輩が満面の笑みで僕を指差し、そう言ったのだ。
もし、今この時に戻れるなら答えは当然「すみません、拒否します」と言うだろう。それだけ彼女に対する免疫ができているから。
しかし、当時の僕はこの藤堂綾乃のスーパーエンジェルスマイルに対する免疫は一切無く、彼女の笑顔に冷静な判断を奪われていたのだ。
「よ、よろしくお願いします」
思わず頭を下げて言ってしまったこの言葉は後悔している。
彼女は僕の言葉を聞くと更に嬉しそうに笑い、僕の手を取って自己紹介したのだ。
「私は生徒会長の藤堂綾乃だよ、今日からよろしくね。ワンちゃん」
この時、僕は気付くべきだったんだ…この人の本性に…。
「ワンちゃん、何を回想しているの?」
「僕の過去の過ちを誰かに知ってほしかったんです。というか、さっさと書類に目を通してくれませんか?早く帰りたいのですが」
「ん~……えへっ、手伝ってくれたらもっと」
「貴方のハンコが必要なんですよ。僕の仕事はすでに終わっています」
あんたがバカみたいに携帯ゲームで遊んでいる時に必死にやってた僕を知っているはずだろ…とは言えず、会長が遊ばないように見張る役目を徹する。
「あぁ~ぁ…めんどくさいなぁ~、……そうだ、ワンちゃん。今日クレープ食べに行こうっか」
「はい、喋らずにやってください。いくら生徒と教師側から支持があろうが甘やかすつもりはありませんよ」
「ぶぅ~ぶぅ~。私だって必死にやってるんだよ」
「必死にやってるのはゲームですよね?次やったらセーブデータ消しますよ?」
「だ、ダメだよ!プレイ時間2987時間という努力の結晶を消すなんて鬼以外の何物でも無いよ!」
あんた…1年のうちの34%をなんでゲームに注ぎ込んでるんだよ…無駄にしすぎだろ…。
思いもしない会長の無駄を発見してしまったので次の会議で仕分けしてもらおう。
会長から携帯ゲーム機を奪い取り、「早くしないとこれのデータが飛びますよ」と脅すと会長はそれはそれは素晴らしい速度で書類に目を通していき、次々と書類の山が崩されていく。
やっぱりこの人は超人だな…普通にしてれば…。
1時間ぐらい経っただろうか?
空が暗くなり始め、部活動も終わり、皆が帰り始めるころにようやく種類の山がすべて無くなった。
「ふぃぃぃ~…疲れたぁ~…」
会長はべたぁと机に突っ伏す。
僕はその間に本当にすべてやっているのかという確認をパラパラと確認していく。
まぁ本当にしっかりとしているとは思うのだけど確認は必要なのだ。
とりあえず、ダミーで入れた間違いだらけの書類にはハンコを押してない。
この短時間で良くあれだけの書類にすべて目を通すもんだ…。
「はい、確認しました。お疲れ様です、会長」
「ワンちゃん~、疲れたから肩揉んでぇ」
「でわ、僕はこれを職員室に持っていきますね。会長、お疲れさまでした」
「あぁぁ…裏切られたぁ~~…」
がらっと生徒会室のドアを開けて、会長に頭を下げて出ていく。
もし、会長とクレープなんて食べに行ったら奢らされるに決まっているし、それこそ「お前、それは職権乱用だぞ!!!」と藤堂綾乃を支持する会の者がクレームを言いかねない。
あの藤堂綾乃を支持する会のメンバーは正直言って怖いのだ…目が血走ってる上に会長に手を出した者への制裁は聞くだけでも恐ろしいのだ。
もし、あの会が無ければ会長の申し出は喜んで受けるんだけど…まっ、戦争のど真ん中に走っていくような自殺行為はしないのだ、僕は。