第18話 中間テスト。
中間テスト。
それは1学期の範囲が広すぎるために、1回のテストでは浅く広くなってしまうという事態を防ぐために教育委員会が「2回に分けちゃえばいいんじゃない?ほら、中間と期末って感じにすれば響きも良いし」的な感じで作ったものである。たぶん。
そんな教育委員会に粋なことをするじゃないか。と少しだけ褒めながら僕は中間テストを受けている。
今受けているのは苦手教科である数学。
残り時間は約15分。いつもの僕ならここで寝ている所なんだけど今回ばかりは会長にあれだけ言われてきたため、何度も確認する。
するとビックリするぐらい計算間違いが出てきたりして、今まで自分はどれだけ凡ミスで点数を失ってきたんだろう…と落ち込んでしまうぐらいだ。
よし、これだけ確認すれば良いだろう。
結局、再計算したところは回答欄の3割を超えていた。ざっと20点ぐらいの凡ミスである。
これで解けていない所を入れても80点後半は堅いだろう。
あの会長ノートがかなり効いている。
「はい、時間です。後ろの方から回していってください」
前でメガネを掛けた先生が素早くテスト用紙を回収していく。
中には悪あがきをしようとする生徒に対して「点数減らすぞ」と脅しも加えてたりするけど、それはお約束。
テスト用紙を回収し終えた先生が教室から出ていくと、教室の中から安堵のため息が漏れる。
今日はこれでお終い。あと残る教科は4つ。
英語、古文、化学、現代国語。
僕的には化学が苦手な所だけど、会長に「ここが出てるよ。あの先生はもうボケてるから毎年同じテストなんだよ」と知ってはいけない情報を知ってしまうというハッピーなアクシデントが起きた。あと、部活などで先輩からその情報を聞き出した者が高得点を出すというのが恒例らしい。
それでいいのか…四條学園の化学教師…。
ちなみに僕は去年のテスト用紙を保有していたのでほぼ満点確実である。
この辺りが生徒会のメリットなのかもしれない。一般生徒には内緒だけど余ってしまったテスト用紙がファイリングされているのだ。
「犬塚~、これから皆で明日のテスト対策しようぜ」
「あ、ごめん。これから生徒会の仕事があるんだ」
「うわ、テスト期間でもあるのかよ…本当に大変なんだな。生徒会って」
「まぁ簡単な仕事だけだけどね。ごめんね、一緒にテスト勉強できなくて」
「いや、しょうがないだろ。仕事があるんだったら。それに楽しいイベントもたくさんしてほしいし」
「会長が聞いたら喜ぶと思うよ。それじゃ僕は行くよ」
「ああ、頑張れよ」
なんだか悪い事をしてしまった気がする。
しかし、仕事があるのは本当なのだ。
クラスメイトと別れて、生徒会室に向かう。
そして、合鍵でドアを開けて部屋の窓を開けると生温かい風が通り抜ける。
梅雨真っ盛りな日が続いてるけど今日は晴れていて気持ちがいい。
部屋の空気を入れ変えながらお湯を沸かし、インスタントコーヒーを入れる。
そして、カバンの中から明日のためにテスト勉強を始めた。
どのぐらい勉強していたか分からないけど、お腹が空き始めた頃にガラッと生徒会室のドアが開く。
「あ、もう来てたんだ。ごめんね、ちょ~っと友達と話し混んじゃった」
「別に会長を待ってたわけじゃないですよ?」
「またまたぁ~照れちゃって」
「照れては無いですけど…あ、これありがとうございました。凄く役に立ちました」
カバンの中から会長ノートを取り出して会長に差しだす。
このノートのおかげでテストが簡単に解けて本当に役に立った。
それに詳しく分かりやすく書かれているから本当に理解できる。
特に難しい所は可愛い絵と共に解説されていて勉強を飽きさせない。もしこれを販売すれは3000円を出してでも買う人が本気でいるだろう。
「よかったぁ。ほらノートって人の見てもいまいち分からなかったりするでしょ?だから、私は分かっても真也に分かるかなぁって思ってたんだよね」
「いや、あれだけ丁寧に書かれてたら誰だって分かりますよ。本当に分かりやすかったです」
「そっか。なら書いた甲斐あったかも」
嬉しそうな笑顔をしながら定位置に座り、カバンの中から携帯ゲーム機を取り出し、電源を入れる。
この人のメンタリティは凄いな…人がテスト勉強しているのにこうやってゲームできるんだから。
「会長はテストどうだったんですか?」
「ん?まぁまぁかな。いつも通り」
「つまり、満点に近いと」
「さぁどうなんだろ?そのテストでこれはできたっ!っての一回も無いから」
「そりゃ毎回満点近い点数出せれば」
「ううん、そうじゃなくて不安なんだと思う。うん」
「不安?」
「ん~、ううん。何でも無い。ほらほら、テスト勉強しないと明日の化学で点数落ちちゃうよ。せっかくの暗記問題なのに」
一瞬暗い顔になったような気がしたけど気のせいだろう。
会長はニコッと笑って、ゲームの電源を入れる。
それからは静かにカチカチっというボタンを押す音が生徒会室に響いた。