第17話 Kleine Glück
そろそろ良い時間帯じゃないだろうか。
本屋さんで立ち読みをして軽く時間つぶしをした後、近くのカフェでコーヒーを飲みながら携帯電話の時間を見る。
僕が時間を潰してから約1時間は過ぎている。
「よし、帰ろう」
カバンを持ってお金を払い、自分の家へと向かう。
さっき会長と歩いてきた道だ。そして、会長が歩いて行った道でもある。
しばらく歩いていくと住宅地の中に一見、普通の家に見えるがちゃんと小さな看板が付けられている店がある。その店の名前は「Kleine Glück」。ドイツ語で小さな幸せという意味の店だ。
この店のおススメはチーズケーキで、濃厚なチーズケーキと低脂肪のヨーグルトや軽い生クリームを混ぜた比較的軽いチーズケーキもある。あと、予約でバウムクーヘンが作られたりもする。
ただし、バウムクーヘンの方は滅多に作られることは無く、店長の知り合いの誕生日にしか作られないという超一見さんの断り店でもあり、この店に立ち寄る際はその知り合いさんと来ることが必須条件でもある。
というか、知ってる人じゃないとこの店は見つけられない。だって、本当に普通の家で僕が毎日暮らしているんだから。
「ただいま~っと」
店の入り口、または家の玄関であるドアを開けて中の様子を窺う。
会長はもう帰ったみたいだな。
靴を脱いですぐに自分の部屋へと向かう。
この時間帯はたぶんだけどご近所の主婦相手にお料理教室という名のお茶会をしている時間だろう。
ここで、僕の家の詳しい情報を言ってみようと思う。
僕の家は2階建て。そして、大きさは知らないけど比較的大きい方だと思う。
キッチンの部分が大きく、色んなケーキを焼く機材も揃っている。正直、そこらへんは詳しくないから分からないけど、それこそ普通の家には無いものがたくさんあると思ってて良い。
簡単に言えば、1階はバカみたいに広いリビングとハイスペックなキッチン、あと風呂、トイレだ。
つまり、「Kleine Glück」専用スペースでもある。
そして、2階は普通の住宅と一緒。僕の部屋があり、母さんの部屋がある。
ちなみに母さんの本業はケーキ屋さんじゃなくて洋菓子教室の先生。
「Kleine Glück」というケーキ屋さんは趣味の一環。元々パティシエーナだった母さんがご近所の主婦仲間に振舞ったケーキが恐ろしく美味しいと評判になり、その奥さま方が「ぜひお金を払わせてほしい」と言ったからやっているだけである。
こんな経緯があったからなのか、一見さんお断り雰囲気が半端なく高い。母さんも週に1回開くか開かないかのペースだから、店が開いている日はほぼ満員。
だから、会長がこの店を見つけて入れたのは奇跡に近いだろう。もしくはあの会長がそういう空気を読むのができない人かのどっちかだ。
まぁ、会長がこの店の事を知っていたのはビックリしたけど僕が住んでいる家だとは思わないだろう。
だって、ただでさえ珍しい犬塚という名字がこの地区には他に2つあるんだから。
僕はカバンの中からノートと会長に貰った去年のノートを取り出して、中間テストの対策に入る
会長のお気に入りの店が僕の家だろうが、なんだろうが中間テストはすぐそこなのだ。
携帯から見てくださってる方へ。
お店の名前が文字化けしているとのご報告を頂きましたので、こちらに書かせてもらいます。
お店の名前は「Kleine Glueck」です。「ue」の部分は「u」の上に点が2つ付いているモノで、主にドイツ語などに使われてる文字です。




