第14話 作戦失敗?
完全な僕のミス。それはもう認めるしかない。
学校に泊まれば予算はあまり使わなくて良いし、疲れ切った生徒たちはすぐに寝るという作戦だった。
もちろん、その作戦は完璧にハマったし、今さっき確認してきた所で起きているのは数人で暴れる元気は無いといった感じだった。
これだけ完璧にできているのにミスと言っている理由は、会長の事である。
怖い話が苦手と言っていたをすっかり忘れていたのだ…。
そもそも怖い話の定番と言えば墓地、心霊スポット、そして学校である。
「ちょ、ちょっと…わ、ワンちゃん?ワンちゃーん!!!」
「うっさいですよ、静かにしてください。もう1時半ですよ…」
横ではバシバシと僕の身体を叩き、寝かせないようにする会長。
そして、瞼が恐ろしく重い中、頑張って耐える僕。
今すぐにでも寝かせてくれるなら死んだように寝れるだろう。
「だ、だって…こ、怖いじゃない」
「怖いなら寝ればいいじゃないですか…ふぁぁぁぁぁ」
「怖いから寝れないんだよぉ」
そんな涙目で訴えられても…それもわりと本気で泣きそうだし…。
この人ズルイよな…この目で訴えてきたら断れないし…。
でも、今日のクラス対抗野球のせいで身体も精神もクッタクタだ…もちろん、会長も同じはずなんだけど…。
「はぁぁぁ~…それじゃ楽しい話をしましょうか。とりあえず布団入ってくれません?」
「へっ!?」
「いや、そういうのじゃないから…自分のに入ってください」
僕の布団に入るという厭らしい考えの持ち主の会長さん。
なんか少しだけ眠気が飛んでいった気がする。
会長が自分の布団に入った所を見届けてから僕も布団に入る。…会長の布団と僕の布団との距離が30cm無いのはどういうことだ…。
少し離してみてもいつの間にかこの距離になっている。つまり、僕と会長の境界線は30cmということなんだろう。なんか微妙な距離だなぁ…。
「何話しますか?会長」
「怖くなくなるやつ」
「そうですねぇ…ん~」
なるべく寝ないように適当な話を考える。
その間も会長は顔を僕の方に向けて見つめる。
この人やっぱり反則かも…。
「むかしむかし、ある所にお爺さんとおばあさんが」
「子供みたいな童話は止めて」
「………それじゃ昔あるところに1人の少年がいました。
その少年はいつも人の顔を窺う子供らしくない子供でした。でもある人と出会うことで人の顔を疑うことがバカらしくなり、その子はその日から子供らしい子供になりましたとさ。ちゃんちゃん」
「………それってワンちゃんの事?」
「僕は物凄い甘えん坊でしたよ。適当に考えてみました」
これは本当。ここだけの話、小学生になるまでは超が付くほど甘えん坊だった。
僕の定位置は母さんの足元か保母さんの足元だったような気がする。
とにかく誰かに触っていないと落ち着かない子だったらしい。
「そっか。ねぇ他にお話は?」
「お話ですか…ん~……それじゃこの本を音読しますね」
僕は布団から出て自分のカバンの中から今読んでいる小説を取り、再び布団の中に入る。
そして、最初からなるべく小さく優しい声で読み始める。
すると、最初の方は会長も相槌を打ちながら聞いていたが、10分ぐらい読み続けていると横から来る相槌が無くなった。
「…ふぅ、やっと寝た」
パタンと本を閉じて、多少乱れている会長の布団を掛け直す。
そして、生徒会室の電気を消して携帯のアラームを設定する。
明日は6時起きだ。今の時間が2時だからあと4時間しか寝れないけど…まぁなんとかするしかない。
大きなため息が出そうになるのを抑えて布団にもぐり、スゥスゥと気持ちよさそうに眠る会長に背を向けて自分も夢の世界へと旅立った。