第11話 怖いよ、会長さん!
この鬼神のようなオーラは僕が生きてきた中でも初めて…いや、これで2回目か?
1回目は生徒会室に置いてある冷蔵庫に入っていたチーズケーキを食べてしまった時。
そして、今回だ。
1回目は僕が完全に悪かったから何度も謝り、次の日に「1年で限定150個」という巷では「神が愛したチーズケーキ」と言われている伝説的パティシエ 光一郎が作ったチーズケーキを会長にプレゼントしたのだ。
それはもう喜んでくれて、チーズケーキの件はすっかり忘れてくれた。むしろ大感謝され、バカみたいにニコニコと僕のご機嫌を取るような行為をしてきた時には、もう会長には物を与えないでおこうと思ったぐらいだ。そのぐらいウザかった。
ちなみに、伝説的カリスマパティシエ 光一郎の本名は加島 光一郎である。
実はこの加島光一郎は僕の実父でもある。どうして名字が違うかというと僕の母さん 尚美とは籍を入れていないためである。
詳しい所はあまり聞いていないが母さん曰く「あの人の子供は産みたかったけど結婚しようとは思わない。でも、愛していないわけじゃないから安心しなさい」らしい。
そして父さん曰く「俺と尚美の結婚?ん~…無いかなぁ。俺も尚美も結婚に興味無いし、自分の仕事が楽しいからなぁ。あ、でも尚美の事は愛してるぞ?」らしい。
ちょっとは僕を安心させるためにお互い「愛している」なんて言っているのかなぁと思っていた時期もあったがそんな誤解もすぐ解けた。
なぜならたまに父さんが日本に帰ってきた時に家の中でイチャイチャしまくるからである。もちろん僕の前だけでは無い。そう、分かりやすく言うなら付き合いだしたバカカップルのような関係だ。
未だに母さん側のお婆ちゃんなんかは「結婚しろ結婚しろ」と言っているらしいけど、まぁ僕から見ればどーでもいいことでもある。
父さんが日本に帰ってくるのは年に数回程度であり、1年のほとんどをフランスで過ごしているから。
会長の件もちょうど父さんが帰って来てたからお願いして作ってもらったのだ。
しかし…今回のこの会長のキレは僕が作ったものではない。
岩瀬先輩がポロっとこぼしていった言葉のせいであり、僕がどう収めようとしても彼女の怒りは収まることは無い。
「ワンちゃ~~~~~ん」
「ちょ、なんで僕なんですか」
「ちょ~~っと、ここに来てくれないかしら?」
ぴくぴくと頬の辺りを震わせながら笑う会長。
さっきまでの子供っぽい会長はどこに行ったんだろう…あの会長の方がまだ良い。
僕は逆らうことが許されない視線を身体全身に受けながら会長の言う通り、近くの椅子に座る。
「えっと…その、僕何も聞いてませんよ?」
「ワンちゃん?どうして身体が震えているのかしら?私に何か言うことは無いの?」
「…あ、大丈夫です。僕も小2ぐらいまではたまにおねしょしてたりしましたから!寝る前にジュースとか飲みすぎちゃうとありますよね」
「ウフフフフフフ、私は小学校3年生までしてたわよ」
「うっ…そ、それは誤差の範囲で」
「周りは誰一人してなかったわね~。うふふふふふ」
だ、ダメだ…これは逃げられない…。
完全に目がイッてる…。
「それに私は怖い話を聞かされた日は今も1人で寝れないわ。子供でしょう?ねぇワンちゃん」
すすす~っと僕の背後に立ち、肩に手を乗せられる。
そして、僕の顔の横に会長の顔が近づき、耳に生温かい風が入る。こそばゆいが、それ以上に会長の目が怖いのだ。この肩に置かれている手が徐々に首に近づいてるし!
というか、なんか会長は自ら暴露してるし!
「奈央はそんなことを知っていてわざと私に怖い話をするの。本当にあの子は面白いよね、この私で遊ぼうとするんだもん、うふふふふ。でも、ワンちゃんも私の秘密を知っちゃったんだから…わかるよねぇ~」
「………」
「うふふふふふふふふふふふ」
こ、こえぇぇぇぇ~…。
さっきまで怒っていた時の会長の方が可愛いと思える。
。笑っているけど笑っていない。今の会長は顔から表情が無くなっている。
目の奥が闇より深い…まさに病みだ…。
この目はもう人を人と思っていない、だから僕を殺すことに躊躇なんてすることは無い。まるで地面を歩いている蟻を気付かずに踏み殺しているかのような感じで僕を殺してしまいそうな感じ。
「か、会長?」
「な~にかな?うふふ」
「え、えっと……そ、その………ご、ごめんなさい!!!!」
僕は机におでこが当たるぐらい頭を下げて、すぐさま会長の耳に手を伸ばす。
そして、優しく、まるで赤ちゃんの手を握るかのように優しく会長の耳を掴んだ。
「っっっ!?!?!?!?」
声にならない声が生徒会室に響く。
会長は天井を貫くのではないか?という勢いでピョンっと跳ねる。
そして、へなぁ~と風船で作られた人形の中に入っている空気が抜けて力無く倒れていくかのように力無く座りこむ。
力無く女の子座りをする会長の顔は林檎のように真っ赤になり、目に生気が宿る。
そして、力無く僕を睨み、可愛く呟いた。
「あぅぅぅぅ……」と。