第10話 会長の秘密。
「ごめんなさいぃぃ~」
僕の目の前ではあの天下無敵の会長が土下座をして謝っている。
正直、今まで生きてきた人生の中で土下座なんてされたことも無かったし、ましてや土下座をする場面にも遭ったことが無かった。
だけど、今こうして土下座をされる側に立っていると1つだけ分かったことがある。
土下座は引く。
もちろん、されている側としての意見であって、する側としてみれば最大限の謝り方なんだろう。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ」
なんなんだろ…この罪悪感は…。
もし、ここに僕と会長以外の人が入ってきたなら僕が会長を土下座させていると思われるのかな…。というか、この天下無敵の会長に土下座なんてさせてたら殺されかねない。
それも、子供のように目から涙をダラダラと流し、「うえぇぇえぇえぇぇぇぇええぇぇん」と泣いているんだから、そりゃもう僕の人生の先がぽっきりと折られるだろう、例の集団によって。
あ、ちなみにどうしてこうなったかという経緯は僕のお気に入りのコップから始まったのは言うまでも無い。
「あ~もう、分かりましたから頭あげてくださいよ。こんな所誰かに見られたら僕殺されますって」
「でもぉでもぉわたひがこわひてね…ひっく…わたひが…」
「あぁ~もう分かりましたから大丈夫ですから」
「でもぉでもぉ~」
これは酷いな…。
普段の綺麗な顔が涙と鼻水で恐ろしく汚くなってらっしゃる。
近くにあるティッシュを使って少し汚い液体と男を一瞬で黙らせる液体を拭き取とろうとすると神のいたずらか、はたまた単なる偶然か…ガラッと普段開かない生徒会室のドアが開く。
「…………あ、なるほど。生徒会室でそれは王道だよね~。さっすが生徒会だ」
「違いますっ!!」
ポンッと手を叩いて満足そうに頷く。
短く切り、如何にもスポーツしてます!と日焼けの痕。そして、目もパッチリしていて笑顔が良く似合いそうな顔立ちをしたこの可愛い系の女性は岩瀬 奈央さん。風紀委員で会長と同じ学年である。
我が高校で数少ない会長に物を堂々と言える人物でもある。まぁ…考え方が会長と少し似ているからあれなんだけど…。
「岩瀬先輩、今日は何か用ですか?」
会長の汚い顔を拭き終え、ゴミ箱にティッシュを捨ててから身なりを整えて聞く。
「あ、良いの?私に構わずイチャイチャしてもらっても構わないんだけど。というか、むしろ見させてほしいんだけど」
「なぁ~~おぉ~~」
「おやおや、どうしたのさ。綺麗な顔が台無しだよ?」
「私がね、わたしがぁ~うわぁぁえぇぇあぁぁ」
「そっかそっか。大丈夫だよ、真也君はそんなんじゃ怒らない子だから。今度一緒に買いに行こうね」
「うん、うんうん」
「ということなので、今度コップ買いに行ってきます」
「何も言っていないのになぜ分かるんですか…超能力者ですか」
「私は綾乃のすべてを知っているよ。綾乃の一番の性感帯とか小学3年生までおねしょをしていたとか怖い話が苦手とか」
「へ?小3までおねしょしてたんですか?」
「や、ちょっ!?な、奈央っ!!!」
「私が怖い話をした次の朝には立派な世界地図が書かれてたなぁ。わっ!?」
ぶんっ!!と岩瀬先輩と僕の間に何かの物体が飛んでいく。
そして、ガシャンっ!!!と後ろの壁に当たり地面に落ちた物を見るとそこには僕のお気に入りのコップが粉々になっていた。
粉々になったことにもショックを受けたが、あれが当たっていれば間違いなく死ぬ。
そして、それを投げた会長の顔が鬼の形相のようにこっちを睨んでいるのだ
あ、これは完全に怒った時の会長だ…。
岩瀬先輩もそれに気が付いているのか、後退りをしていく。そして、僕と目が合うと言葉の無い会話が飛び交う。
そして…
-頑張ってね!
という視線を最後に生徒会室のドアを勢いよく開けて逃げて行った。




