第1話 天下無敵の生徒会長さん
才色兼備、容姿端麗、文武両道、聖人君子。とまぁ、様々な褒め言葉がある。
しかし、天は二物を与えずと言ったような言葉もあるようにすべてを備えた人間はいないのだ。
そう、表面上は良くても中身が最悪ってことはよくあること。
例えば、この人が良い例だったりする。
「早く早く早く早く早く早くぅーーー」
高そうな椅子の上でバタバタと暴れる
この椅子の上で暴れているのは才色兼備、容姿端麗、文武両道、聖人君子と言った褒め言葉をすべて兼ね備えた超完璧星人であり、身長167cmにボンッ!キュッ!ボンッ!とアイドル並みのスタイルを持ち、腰まで伸びる綺麗な髪は濡れ烏のような髪色、彼女の笑顔を見れた日には天使が舞い降りたとまで言われちゃったりして、我が「四條学園」の生徒会長の座を1年の時から就いていて、3年も確実と言われていたりする。
まぁ、生徒会長が成績優秀で見た目が良ければ学校側としても宣伝では最適だしね。
そんな学校側をも味方に付けてしまう彼女の名前は藤堂綾乃。
「会長、静かにしてください」
「早く早く早く早くぅぅぅ!!喉乾いたぁぁぁ」
「うっさいな…僕ので良いなら飲んでも良いですから静かにしてください」
手元に置いているパックのオレンジジュースを彼女に渡すとものすごい勢いでパックがクシャリと潰れる。
この野郎…普通全部飲むか?あと躊躇なしにストローに口を付けやがった…。
「ぷっはぁぁ、喉が潤うね~」
僕のあげたオレンジジュースをポイッとゴミ箱の中にダイレクトチップインさせて満面の笑みで俺にお礼を言う。
こんな綺麗な人に笑顔で言われたらほとんどの男性は許してしまうだろう。
しかし、僕はそんな甘ちゃんではないのだ。
「その喉が潤ったならさっさと仕事をしてください。書類が溜まりに溜まっているんですから」
天使のような笑顔を振りまく会長の机にその笑顔を隠すほどの高さを持つ書類の山をドサッと置く。
どうしてこんなに書類が多いのかというと、学校が行うイベントの権利を生徒会がほぼ持っているから。
始業式、終業式、体育祭、文化祭、その他色々。あと生徒会が自ら計画するのであれば新たなイベントを作っても良いという非常に自由度の高い学校だ。それ故に生徒会の重要性が高まり、生徒会長の座に就く者は恐ろしいプレッシャーを伴う。
簡単に分かりやすく言うと、生徒会会長は学校の総理大臣みたいなもので生徒会役員は各大臣みたいなもの。
生徒会の支持率が落ちれば夏休みだろうが、テスト期間中だろうがなんだろうが生徒会役員選挙が行われる。
もちろん、これだけ言えば生徒会に入るなんてデメリットでしか無いのだが、メリットも存在する。
まず受験時の面接での評価がグンッと上がる。それこそ、他の高校の生徒会長なんて比にならないぐらい。過去に1年間、生徒会長の座を維持したOBが大学入試の際、履歴書に「生徒会会長」という肩書を書いただけで入学決定の通知が来たり、なんて事も。それだけ四條学園の生徒会長という立場は高く、社会的認知もあるため名誉なのだ。
そんな名誉職に2年連続で就いて、3年目も確実と2年のうちから言われ続けている彼女は別格と言っていいだろう。
「最近さ、特に多くなったよね。これ」
「それは貴方が無駄にイベントをやろうとするせいです」
「でも面白いでしょ?皆喜んでくれるし、今年の新入学生は昨年より1.4倍だよ?いやぁまいったね、私の実力が底知れない」
「僕は貴方のその自信が底知れない。貴方のその無駄なイベントのせいで今月の予算はギリギリです」
「ほら、そこは副会長の君がやるべきことなんだと思うんだ。私はイベントを企画、その裏で君がせっせと…」
「はたき倒しますよ?」
会長だろうが先輩だろうがこの際関係ない。
僕のできる最大の憎しみを込めた笑みで微笑みかける。
するとさっきまでペンをクルクルと器用に手の上で回していた会長はピタッと遊ぶのを辞めて、山のように積もった書類を処理し始めた。