婚約破棄されました。「はい、喜んで〜!」
名ばかりの婚約者は、腕に可愛らしい令嬢をぶら下げて、私の前に立ち塞がった。
「お前との婚約は破棄させてもらうっ!」
「えっ!?うわっ!はい、喜んで〜!」
どこかで聞いたような居酒屋店員の返事をしちゃったけど。
いよっしゃあ〜!あっちから婚約を破棄してくれた!これでやっと地獄から抜け出せる!
「うわっ〜嬉しすぎる!早速お父様達にも報告しないと♪」
スキップする勢いで前から消えようとしたら、背後から待ったがかかった。
「はぁ?まだ何か?」
胡乱な目で見ると、当人も周囲もぽかんとした顔をしていた。
「い、いや⋯⋯理由、そう理由を聞かないのか?」
「え?そんなの要ります?時間の無駄でしかないでしょ?」
「⋯⋯え?」
何で不思議そうな顔してる訳よ。こっちは顔すら見たくないってのに⋯⋯。
「え〜もしかして、私が未練あるとか思い込んでたりする?うわっ!ないないキショい」
「え?は?」
「そもそも、最初からずっと断ってたのに、強引に権力振りかざして婚約者にしたのはそちらですよね」
「「「えっ?」」」
え〜?なに驚いた顔してんのよ〜。
「オマケに初めて会った時には罵詈雑言。好意なんてカケラも持てない」
はく⋯⋯と、言葉にならない声が聞こえた気がしたが、フルシカトで頭の悪そうな令嬢に満面の笑みを向けた。
「いや〜アレに近付くそこの女に、もうずっと感謝してたんです!粗大ゴミ引き受けてくれてありがとう!」
「粗大ゴミ⋯⋯」
「もしくは産業廃棄物?」
コテンと首を傾げる様は可愛らしいが、言ってる事は酷い。
「⋯⋯」
この発言に、流石に周囲も言葉を無くしている。
「ったくさ〜自分ちで出たゴミは、ちゃんと自分ちで片付けて欲しいわけよ」
それがゴミ出しのルールじゃない?
そう問いかけても、頷く人などいない訳で。
「料理だってさ、作ったら片付けまでが料理って言うじゃない?」
それって人も同じだと思うのよ。
「「「え〜」」」
「失敗したなら途中で人に投げないで、作った本人が責任持てって話じゃない?」
ーー確かにそうだけれど。何か違う。
「なんかもう残飯処理任された気持ちでしたもん」
言うに事欠いて残飯処理ときた。
「な・ん・で、私の事は構わずお幸せに〜♪」
軽い足取りで、今まで見たことのない笑顔で去って行く元婚約者。
お幸せにが「残飯処理は任せた!」に聞こえた気がするのは、きっと気の所為⋯⋯だと思いたい。
「えと⋯⋯あたし⋯⋯」
そろっと腕を離し後ずさりしようとしたら、先程の令嬢がひょこっと顔を出した。
「あ、不法投棄は止めて下さいね〜」
ピキリと固まる人達に言い置いて、ササッと消えた。
「⋯⋯」
残された人々は、暫くの間そこを動けずにいた。
「やっほい!今日はパーリーじゃ〜!」
一方婚約破棄された令嬢の家では、夜通し宴会が繰り広げられたそうな。
「あ〜!スッキリした〜!」
まぁね⋯⋯¯\_(͡°͜ʖ͡°)_/¯




