異形な再演1
1日3話更新、本日3話目です。
誤字脱字等ありましたら申し訳ありません。
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「ふぅ……」
深呼吸を一つ。廃遊園地唯一の舞台上から、遠くに見える街の明かりを見つめる。
「ふたりは……来て、くれるでショウか」
答えてくれるひとは誰もおらず。
ただ、現実から背けてきた目を醒ますように、胴に穴が空いて、そこを冷たい風が通り抜けていくように、無遠慮な風が吹きつける。
「また、ワタシは誰かを傷つけてしまわないでショウか」
答えてくれるひとは、誰もいない。
広さを確認するため、闇に溶けかけた灰色のステージをこつ、こつ、と僅かにヒールのある革靴で台本を片手に歩く。ひび割れている端の部分を爪先でつつけば、ぼろぼろといくつかの小さな欠片が崩れ落ちた。
「……」
少し俯けば、寒くもないのに震えの止まらない両足が目に入る。
舞台に立つことは、もう、だいぶ怖くはなくなってきている。それでも、ひとりで静寂に包まれる闇の中に立っていれば、誰からも見放されてしまったようで上手く顔を上げていられなかった。
もし、イノセントさんが見せた優しさが偽りだったら。
もし、セヴィアの本性があのとき見たままのものだったら。
もし、ジェラースを狂気の闇に突き落としてしまったら。
「そう、デスか……。ワタシは、これが怖かったのデスね」
過去と未来ばかり見て、今のことを何も見ることができていなかった。ワタシは「トラウマを恐れているが故に舞台に立てない」のではなく、また誰かを、自分が傷つくのが怖かったから、過去を言い訳に現実から目を背けていたのだ。きっと。
「ふっ、はは……」
下がった眉に、無理に持ち上げて歪んだ口角。喉の奥で、空気が漏れるような妙な音が鳴った。
ワタシは、大馬鹿者だ。
情けない。ひどく情けなくて、惨めで、隠れるように掻き抱いた背に爪を突き立てる。人間のようなそれでは服を裂くこともなく、ただ硬い体に硬い爪が触れるだけだった。
笑えない。
噛み締めた口で、やがて細く息を吐く。
握りしめていた台本を放り、頭を振る。普段よりも肉体を形作る金属の量が少ないため、幾ばくか縮んだ背。少し細くなった二本の足に力を入れ、しっかりとワタシ自身の力で立つ。どれほど怖くとも、地を突き刺すように力強く。
やめてしまおう。誠実に、そう言うのなら。紙に綴られた台本ではなく、ワタシの中に台本は刻まれている。
俯き、顔を上げた先で。ふと、視界の端に小さな明かりが揺らめいた。それはやがて近づき、人影が闇に浮かぶ。
「はいはーい! こちら、準備オッケーです!」
闇夜を切り裂く明るい声。イノセントさんの後ろには顰めっ面のジェラースと、なんとも言えない苦しそうな笑みを浮かべるセヴィアがいる。
ワタシの最初の観客は、なんとしてでも手放したくないあのひとたち。彼ら彼女らを、できることなら笑顔にしたい。
ただ、ワタシが傷つきたくないだけではなく。この思いだけは、本物だと言い切れる。
竦みそうになる体に鞭を打って、目一杯の「悪い笑み」を、以前は舞台の上でよく浮かべていた顔を作ってみせた。
「さあ! 今宵お集まりの皆々様。ロバリー・フォスターのステージへ、ようこそお越しくださいマシタ! どうかワタシに、たんと笑いを聞かせてくだサイな」
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