舞台に立つ決意
1日3話更新、本日2話目です。
誤字脱字等ありましたら申し訳ありません。
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ジェラースに指定された時間。
恐怖か、それとも、高揚か。簡易テントの会場へやってくれば、溢れ返るひとにぶるりと体が震えた。
「ここ五日間、ひたすら人前に出て芸をし続けマシタ。気持ち程度に今日の宣伝も少しはできたと思いマスが……」
「ええ! 追い込み期間でのロバリーさんは目覚ましい成長を遂げました! いけます! この調子で妹さんからセヴィアさんを取り返しましょう!」
ぐっ、とガッツポーズをするイノセントさん。揺らめく薄桃色の髪が陽光を受け鮮やかに輝きを纏っている。
「はっきり言うと、私、ロバリーさんが立ち直るまでもっと時間がかかると思っていたんです」
「……ワタシも、まさか再び舞台に立とうと必死になる日が来るとは思わなかったデスよ」
実際、五日間の「芸を披露するために人前に立つ練習」は案の定、初日はミスや焦りでぼろぼろだった。今まで路地裏ではできていた簡単なパフォーマンスすら不恰好にしかこなせず、焦れば焦るほどコンディションは悪くなるばかり。
それでも演劇の街、その中でも特に賑わっている通り。かつてワタシたちが築いた劇団のある通りの一角で、朝から晩まで練習を続けた。肉体にも心にも鞭を打って、日陰に隠れたくなる体を日向にくくりつけ。
「それにしても最終日、昨日の追い上げはすごかったですよ! 一度も俯かず演じ切ったじゃないですか!」
教え子が成長した姿を喜ぶ若い指導者さながらのハイテンションで背中をばしばし叩いてくるイノセントさんは、心なしかいつもより少し話すスピードが速かった。
「イノセントさんが一ヶ月みっちり指導してくれたお陰デス。これで、彼に届くでショウか。……いえ、必死に手を伸ばしてきマス」
胸の前で手を握り締め、参加者や観客の緊張と熱、期待の入り混じる空気をたっぷりと吸い込んだ。
「優勝をかっさらってくださいね! きっと、ロバリーさんの正体に気づいている方も少なくないでしょう。怖くなったら、私たちを思い出してください! セヴィアさんの変顔とか!」
「ふっ……。それは、良いかもしれマセンね。そうしてみマス」
あの通りで、悪人面のトランプ頭。それに加えて記されたJOKERの文字。ワタシの外見は「街を象徴する劇団を作った男に似ている」と注目を集めた。
いち早く噂を聞きつけワタシを見に来た者の中には涙を流す、見知った懐かしい顔もあり、日に日に近づき、当日となってしまったこの大会が憂鬱で仕方なかった。昨日までは。
もう、違う。
ワタシは今日、彼女に。ジェラースにワタシの現状を魅せ、セヴィアを解放するよう要求するために芸をする。
全ては、セヴィアの隣に立ちたいから。ただそれだけ。
もう、殊勝な感情だけで舞台に立つことなんてできないだろう。ワタシは、彼の隣で引っ張り引っ張られながら舞台に立つ楽しさを知ってしまったから。
自分ですら信じられなかった、ワタシが舞台に立つ未来。それを信じてくれたのがセヴィアだったから。
やはり、ワタシはまだワタシ自身が信じられない。けれど、彼のことならば信じたい。
舞台に立つのは、怖い。けれど、それ以上にまた大切なひとを奪われるのは嫌だ。
そのうえ、ワタシはまだ彼に何も返せていない。失態を晒しただけで。芸においてもぽっと出の人形に負けたままでいられるものか。
変わったワタシを見て驚き、あの読めない表情を崩せばいい。
「……ワタシも、つくづく面倒な性格をしていマスね」
嫌味なほどに晴れ渡った蒼穹。その群青が嫌いだった。けれど。
深く澄み渡った空は、あの人形が持つ双眸を彷彿とさせてくる。そのせいで、ワタシがかつて持っていたひどく負けず嫌いな部分が顔を出してきた。
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