出遭ったのは妙な生き人形1
1日3話更新、今日だけ6話更新!本日1話目です。
誤字脱字等ありましたらすみません。
初めて書いた長編作品になります。
拙いところもあると思いますが、今の私の全力です。
異形頭や生き人形といった、人外たちの魅力を表現できていたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします!
パフォーマンスは嫌いだ。
ましてや誰かと芸をするなどもってのほか。
あんな、ワタシから全て奪っていったものなんか。
だから、道化の真似事や、劇団で座長の真似事をしてしまったがための結果。この路地裏とスラム街を行ったり来たりする生活も嫌いだ。
芸名であり本名。かつて背を預け合い、現在では殺人予告をされるほど関係が歪んでしまった双子の妹とふざけてつけ合った名前も嫌いだ。泥棒。ワタシの名を聞く度に彼女を、遠い昔の何も知らずに生ぬるい湯に浸かっていた頃を思い出す。
「ああ、もう……」
まだ夜も明け切らない暗闇と澱んだ空気に包まれた路地裏で、どうしようもない現実に情けない声を絞り出す。とうの昔に道を見失った癖に未だ肥大し続ける自我。それに抵抗すれど喉元が締まり、身動きができなくなるだけで。嘲笑を浮かべながら諦めて闇に身を委ねれば、今日も思考はずぶずぶと沈んでいく。
調子に乗らなければ良かったんだ。本当に。
そうしたら、今もこんな汚れた場所で不審者に追われ、這うように逃げ回ることなんてなかっただろうに。出会したとしても、この妙な不審者ではなく、殺人鬼やひと攫いだとか、もう少しマシな相手だったはずだ。
芸術のない街に彩りを? あまつさえその街で演劇を武器に下剋上? 昔のワタシは馬鹿だ。
結果として天才だなんだともてはやされて。自分の存在が誰かの救いになっていると本気で信じて、淡い幻想を抱き調子に乗って。おこがましい。
自分の劇団を持とうだなんて思わずに……生まれ育ったスラム街で、人間に振るわれる暴力を恐れて身を縮めながらただただ長い生を浪費していれば良かった。せめて、今は廃遊園地となった場所でピエロをやっていた頃。あそこで留まっていれば良かったのだ。
そうしたら、幸福を知らなければ。今の、残飯を漁るねずみ、もしくは生まれた翌日には踏み潰されている虫ケラのごとき生活にだってなんら惨めさを感じていなかっただろう。
七割の人間と、三割程度の異形の見た目をした人外とが入り乱れるこの街トゥールでは、様々な「パフォーマンス」がその人物の価値を決める。
鈍臭ければレンガ造りの華やかな街を追い出され、演劇、サーカス、大道芸、マジック、秘密裏に行われる解体ショー、その他なんでも。街の住人たちの気を引く芸を披露できる者だけが、輝かしい世界に生き残ることができる。
そして、ワタシはそんな街で落ちぶれ、今では薄汚れたスラム街に身を潜める異形の人外だ。
ワタシは元々、ただの金属の塊だった。
人外には核、人間でいう心臓や脳の役割を果たす器官があるのだが、それを宿した特殊な塊で。このタイプの人外は、己の元となる物質と同じ素材のものを取り込み、取り込んだ分まで自由自在に肉体を変形させることができる。同じ物質でも核が宿ってしまっていれば捕食することはほぼ不可能に近いが……。
様々な肉体を持つ人外がいる中、ワタシは金属の肉体を持っている。つまり、核となる金属と同じ金属を体内に取り込むことで質量、体積を増やすことができるわけだ。たとえ刃物で刺され肉体が切断されても、それを喰えば元通り。
変形も自由自在だから、ワタシたちは人間社会で生きるためにこうして肉体をわざわざ人体を模した形に変形させ、この世界に紛れ込んでいる。子供の頃は屈辱的だのなんだのと喚いて、いきなり人間の子供の前で溶けてみたり、腕を切り落として見せたり、よく怖がらせていたものだ。
ワタシと同じような異形の人外で最近有名なパフォーマーといえば、両腕がキャンディだとか、胴体が水槽だとか、尻尾が鞭だとか、機械仕掛けのタコ足を生やした人形だとか……まあ、様々で。
つまり、頭部が大きなトランプカードであるワタシもなんら珍しくない。
今では扱うひとが増え、「魔法」と名付けられた物理法則を無視して奇妙な芸当をする人外や人間がいる。増えてきたとはいえ、街にひとりかふたり、いれば多いほうだろう。彼らのほうが異形の人外よりよっぽど数が少なく珍しいのだ。ワタシたちは、まあ、人通りの多い外を出歩けばまず十名とはすれ違うだろう。
そのうえ、派手な容姿はパフォーマンスが映える。そんな理由でここには各地から流れ着いた異形の人外も多い。
ワタシのように頭部だけが人間と異なる形で、その他の肉体は人間と同じ形に似せている、という人外なんて全くもって珍しくない。
『お兄ちゃんはなんでカードの頭をしてるの?』
『お顔が薄いのにどうやって食べてるの……?』
なんて人間の幼子に言われたこともあるが、ワタシからすると人間の身体のほうが不可思議だ。
どうして丸っこく目立つ頭を生やしているのか、急所をいくつも剥き出しにしていて警戒心はないのか……。問うたところで子供たちは首を傾げるばかりだったが。
とにかく、ワタシのように無機物で形成された肉体を持つ異形の人外は、半魚人や獣人などを含む人外の中でも大多数とも呼べる部類なのだ。
人間と異なるのは頭部の形と、肉体を形成する素材が金属ということくらい。
ああ、正確に言えば首も金属製の杭を用いているから違うかもしれないが……ラフカラー、道化師がよく身につけているひだ襟に隠されているのだから、見えないものはカウントしなくて良いだろう。
人間の球体に似た頭ではなく、記憶の中の幼子が言っていたように薄っぺらい、人間の頭二つ分ほどの大きさをしたトランプカードに刻まれたJOKERの文字が顔の両サイドに二つと、「悪人面」な顔のパーツが描かれているのがワタシだ。とはいえ、一五七年も生きていれば消えない傷も多々あるのだが。
例えば、ぱっと見える部位だけでも頭の左端に破られた切れ込みと、右目の、白目の部分が黒色に変色した反転目が目立つ。
目に関しては舞台に立てば目立ってくれるだろうが……それは今のワタシの望みではない。そのうえ嫌なことを思い出す。そんなトラウマを詰め込んだ目は縫い合わせて隠し、赤いアイメイクを塗ってそちらを代わりに目立たせている。
と、まあ。いつからトランプだの砂時計だの、人間の扱う小道具がワタシたち人外の肉体の一部となったのかは不明なのだが、その謎については脚本家や空想家に託すしかない。
上背の高さに関しても、ワタシの背丈ほどある人間は少ないらしい。それでも人外となれば小さいほうだ。この街で見かけたことは少ないが、二階建ての家と同程度の上背を持つ者だっている。
つまり、怪我を負っていようが、スラム街に住むには小綺麗な黒を基調とした衣装を纏っていようが。ワタシはごくごく一般的な容姿を持つただの異形の人外でしかない。
たとえ、過去にこの街の演劇界を荒らし、大騒ぎしていた黒歴史を持っていようとも。
そんなもの百年以上前の話で、今のワタシは、スラム街に隠れる惨めで滑稽な愚者でしかないのだ。
だから、この現状はおかしい。
ワタシは今日もスラム街で膝を抱え、身を縮めているのがお似合いだ。こんな、狭っ苦しいうえに湿っていて足場の悪い深夜三時頃と思しき路地裏で、わざわざ妙な人形と追いかけっこするなどおかしいのだ。
ご閲覧ありがとうございました!




