第7話 それで十分だった
帝都には、この大陸で有数の歴史と権威をもつ帝都大学がある。この帝都大学の一部を間借りして、共和政府立魔術大学は併設された。
当初、共和派の内外においてこの魔術大学への懐疑論も大きかった。
この大陸における伝統的な理解としては、魔術師というのは惰弱でいかがわしい精神異常者とみなされていた。そしてその魔術師が抱える精神異常を現実に投影する外法こそが魔術なのである。この認識は、魔術師に対して比較的寛容なこのオルゴニア帝国においても同じだった。
そんな怪しい連中をわざわざ集めて魔術の研究を行うというのは、風変りで突飛な構想──もっといえば、いかにも理論先行の原理主義的共和主義者がひりだした非現実的な施策として人々に受け入れられていた。
招聘に応じた魔術師たちもまた、世間の偏見に負けず劣らずの奇人変人揃いであった。各地の呪い師一門の長老たちとしては、一門の優秀な若者をみすみす帝都に送ってやる義理などなかった。帝都に送られた魔術師の中には、半ば厄介払いとして送り込まれた変わり者も少なくはなかった。
帝都の人民の好奇と嘲笑を向けられる中で始動した魔術大学であるが、結果的に言えば、この魔術大学の研究は共和派に多くの恩恵をもたらすことになる。
そして。
すべてが終わった後、ペールは帝都を離れて極北大公領へと戻った。故郷での彼は本分である精神魔術の研究に耽溺したが、これはあまりにも高度で難解であり、周囲の人間はその研究を全く理解することができず、彼を変人として扱ったという。
とはいえ、ペール自身は、再び愛慕する姉弟子とともに暮らせることに大いに満足し、それで十分だった……と伝えられている。