第3話 帰り道の沈痛
信じられないくらいの寒さだった。容赦のない底冷えだった。身体の全部が凍り付いてしまって、体熱は夜の闇の中に消えていったようだった。
それでも彼はただ一心になって歩いた。本当のことを確かめてやると、その一心だった。
そしてそんな少年の後から、姉弟子がべそをかきながらついてくる。彼女は一緒に引き返そうとペールの裾を引っ張るが、ペールは目的を果たすまで帰ろうとは思わなかった。
この姉弟子は、その名をカーステンといい、一門の生まれであった。このカーステンの方は、雪の精霊のお話をすっかりと信じ切っており、ひどくおびえていた。
森の中の湖のほとりにたどりついたとき、ペールの手足は寒さにしびれきっていて、感覚もなかった。
そこでは木々も開けており、空には一面にマナの極光が広がっていた──宇宙のそのものの夜空を背景に、薄緑色の光の襞が、その現象の大きさを考えると目眩がするほどの恐ろしい速度ではためき、翻り、波打っている──
凍った湖の上では、雪の精霊たちが空を見上げていた。
縋りつく姉弟子を振り切って、ペールは氷の上へと踏み入った。そして大きな声でまくしたてる──あのお話の若者のように、死にまつわることを雪の精霊たちに言い聞かせるために。あとから言い方が悪かったのではないかと疑義が出ないように、何度も繰り返したり、言い回しを変えたりして、とにかく雪の精霊たちに聞かせて回った。
「おまえたちは春になったら溶けて消える! 存在しなくなる! 死だ! 死ぬんだぞ、雪の精霊!」
雪の精霊たちは不思議そうにペールのことを見下ろして──それだけだった。ペールが予想していた通りのことであるが、本当にそれだけだった。雪の精霊はあくまで単純そのもので、死の恐怖に狂ったりなんかしなかった。急にやってきて大声を出しているペールのことを興味深そうに眺めはしたが、それは他人の言葉を解しているわけではなく、単にその音に反応しているにすぎなかった。
ぼくは正しかったんだ──と、ペールの胸は高鳴った。身体は震えていたが、それは歓喜からくるものだった。寒さはもう忘れていた。
つまり、あのお話は迷信だったわけだ。それを、打破して見せたのだ!
ペールは喜び勇んで、湖のほとりの姉弟子に駆け寄った。勝利の喜びを分かち合おうとした。
──しかし、姉弟子はその勝利を理解していなかった。それどころか、なんてことをしてくれたんだと、ペールを泣きながら罵った。ペールが戒めを破ったことで、これから酷いことが起きると、姉弟子はそう信じ切っていたのだ。
ペールの高揚していた気分は、途端に消え失せて、虚しくなった。思いだしたように夜の寒さが体に沁みた。この上なく惨めだった。
帰り道の沈痛……。
結局、その年の冬はいつも通りの冬だった。当然、冬が長引くこともなかった。