表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第2話 ペール少年はこう考えた


 その雪の精霊のお話は嘘だ! とペールは主張したが、その訴えは一門の長老たちには取り合ってもらえず、彼は大変に不服だった。それはある冬の日、暖炉の側で、長老たちが一門の子どもたちに伝承を語って聞かせていたときのことだった。

 もともと、ペールはこの一門の生まれではなく、とある材木商人の息子だった。運悪く魔術師としての能力に覚醒してしまったこの少年は、オルゴニア皇帝と呪い師一門の協約に従い、生家から引き離されてこの地を縄張りとする一門に引き取られていた。──このオルゴニア帝国においては、魔術師は生存と身体の安全を認められており、呪い師を生業とすることを許可されている。

 名うての商人であった実父の知能を引き継いでいたのか、このペール少年は幼くして利発であり、知恵が回る子供だった。彼はイボ取りの呪いや獣除けの魔法花火なんかの実際的な呪いを覚えるよりも先に、魔術理論の方に興味を示し、そしてそれを理解していった。彼は田舎の呪い師の一門が持ち得る程度の学問書はすぐに読み終わってしまったが、一門の長老たちはそれを大いに喜び、ペール少年を褒めたたえ、より高度な書物を帝都やほかの一門から取り寄せてペールに与えた。

 さて、そんなペール少年にとって、長老たちが語ったこの『雪の精霊のお話』は、迷信深く非合理なものだった。

 そもそも、雪の精霊というものは、マナの極光の残滓によって動かされているにすぎず、高度な知能も持っていない。それが天候魔術などという大それたものを実行できる道理はないのだ。

 ペールはその持論をぶつけたが、長老たちは、否定も肯定もしなかった。

 無論、大人たちにとっては、お話はお話だ。それの真偽などというものはそもそも問題でなく、ただ、ませているペールが賢しらに主張するのをみて、ほほえましく思っていたのだ。

 けれど、当のペールとしては、その長老たちの反応は、ペールを軽んじていることの現れに思えてならなかった。何分、お話はお話でしかないなどということは、子供には通用しない。その意味では、天才少年ペールもまだ子供であった。子供にとっては、お話というのはすなわち大事である。人生経験が少ない子供にとってのお話の比重というものは、大人からすると理解できないほどに重いものである。

 だから、ペール少年はこう考えた。

 大人たちがぼくの話を聞いてくれないのは、非魔術師(カタギ)出身のぼくを疎んでいるからに違いない──。

 彼は悔しくて、苛立たしくて、悲観的な気分だった。

 その夜、ペールは部屋を抜け出し、森に分け入った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ