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ともすれば君は  作者: 駿河 健
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第36話 蓄積

 次の日は塾の授業がなく、俺は昼前くらいに起きると何の勉強をするでもなくビデオゲームを開いた。昨日の帰りに聞いた話では、藤原は今日は自習室には行かずに家でゆっくりするとのことだったが、彼女がオンラインゲームにログインしたのは夜の8時を過ぎてからだった。


「めっちゃ寝てた」


「疲れとれた?」


「寝すぎてしんどい」


「あぁ、よくある」


「まぁでもエナジードリンクかちこんだからいける」


「不健康すぎだろ」


 正直、彼女のすぐにエナジードリンクを飲む癖はやめさせたかった。以前はたまにだったのが、最近では塾の授業の前に毎回飲んでいる。以前それについて指摘してみたのだが、


「日本のやつだから大丈夫だよ。それに多くても1日1本くらいしか飲んでないし」


 という風に全く俺の言うことに耳を貸すそぶりは無く、なぜそれが言い訳になると思ったのかは分からないが、海外の成分が規制されていないエナジードリンクを飲んで脳を半分切除することになった男性の話を聞かされた。それに比べれば日本のものは遥かに安全だと。


 それはそうと、ゲーム内でまた彼女に課金アイテムが増えていた。ショップで確認してみれば、12,000円だった。最近、前よりも課金の頻度が高くなっている気がする。他のいくつかのゲームでもしょっちゅう千円単位の課金をしているし、今みたいに1万円を超えるものもたまに買っている。貯めてたお年玉を全部もらったとして、流石にこれはどうなんだろうと思わざるを得なかった。ワンゲーム終わったところで、俺はチャットで彼女に聞いた。


「藤原、さすがに課金しすぎじゃね」


「うーん、まぁw」


「例のお年玉で?」


「うん。こないだ買ったバトルパスね、.......」


 そこからしばらく、彼女の買ったアイテムなどの自慢が続いた。そのうちにゲームのチャットの中で別のゲームで課金したものについての話も始まる。適当に相槌を打って好きに話させようと思ったが、20分ほど経ったところで何故かまた特殊相対性理論の話を始めようとしたので俺は遮った。


「こんなこと言われるのも鬱陶しいと思うんだけど、ちょっとならまだしもそのレベルでゲームに課金するのは良くない」


 そこから、彼女は勢い余って特殊相対性理論について更に三つほどメッセージを送ってきたところで止まった。俺はメッセージをふたつ連投する。


「しかもバイトで自分で稼いだお金とかじゃなくて、親戚にもらったお年玉だろ?」


「良くないよ。強くなってキャリーしてくれるのは嬉しいけどさ。一緒にやれるだけで楽しいから」


 そこまで言って、彼女から返信が来た。


「いいよ別に、お金ならいっぱいあるし」


「そういうのは将来のためのやつだよ? ゲームなんていつサ終するか分からないのに」


「将来とかどうでもいい」


「良くない」


「大したこと無いって」


「ダメだったら」


「もう良いって。橋下の家とは金銭感覚も違うし。うちはちょっとくらいの出費気にしない」


 気が付いたら彼女といたルームから俺は退室していた。さっきまで見えていた彼女とのチャットはもう画面には映っていない。昨日あれだけの楽しいことがあって、前よりもずっと好きになったのに、彼女は平気で俺を傷つけるような言葉を吐く。俺は彼女の傷つくのが嫌で少しでもそうならないようにと思って考えているのに。


「接続切れた?」


 スマホの方に彼女からLINEでメッセージが届いた。俺は既読をつけずに通知でその内容を読むと目を逸らしてうなだれた。


 今に始まったことじゃない。彼女は最初からこうだ。彼女に悪気はない。俺はそれを分かった上で彼女と一緒にいると決めたんだ。だから怒ってはいけない。落ち着いて、分かりやすく説明するんだ。


「ちがう。俺が怒って接続を切った、ごめん」


 まず、とりあえず俺が怒ったということは伝えても良いだろう。


「あ、そうなんだ......」


 大丈夫。ここから、俺が名前とかも含めて自分の育ちが悪いのをコンプレックスに思ってることを説明して、お金持ちの家に生まれた藤原から「金銭感覚が違う」みたいなそれを実感させられる言葉を言われるのは、嫌な気持ちになるということを伝えるんだ。


 ただでさえ惨めな気持ちにさせられたのに、また自分で惨めな事を考えている。でも彼女のためだった。


 その時、また彼女からメッセージが届いたが、俺はそれを見て既読をつけないようにした。


「まぁいつも橋下よく分かんないことで怒るもんね」


 怒ってはいけない。彼女に悪気はない。ただ分かっていないだけだ。そのせいで今までに多くの人に怒られ、拒絶され、酷い扱いを受けてきた。嫌われて虐められて、時には暴力も振るわれ、母親からも虐待を受けてきた。彼女と同じ症状を持ち、唯一の味方でいてもよかったはずの兄でさえそうはならなかった。


 今、彼女に上手く返信するのは難しいかもしれないから、今日はもう諦めよう。彼女を傷つけてはいけないんだ。

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