第4話「意識外の戦死《イレギュラーのゲームオーバー》」
先程から見かけるのはやはり、
ボロボロの服の亜人達ばかり。
神の怒り《サウザンドバグズ》の影響はこれほどなのか…
と改めて思い知らされた。
そして、
感情を集めるためにしなければいけないことが未だ分かっていないまま、
道なりにひたすら歩いて行く。
実はさっきまでかなり襲われていたが、
ほとんど返り討ち、
もしくは和解で乗り切ることが出来た。
3人合わせて現在の所持金は200G。
元いた時代と200年も違っていることもあり、
1Gあたりの価値が分からないと使い物にはならないのだが、
そんなことよりも……
千華「ねぇ、柊真…これいつまで歩くのよ…」
琉空「せめて休憩しようよ…」
柊真「そうも言ってられないだろ…」
千華「お願いだから水分摂らせて……」
そう、
先程から全員こんな感じだ。
元々長時間歩くのには向かない3人だから、
HPが減らなくても肉体的に疲れる。
本来は琉空の誕生日に出かけようとして、
その矢先こっちに飛ばされたから、
あまり歩く準備もしていない。
何故水分もなしでここまで歩かされなければいけないのか…
などと愚痴をこぼしつつしばらく歩いていると、
露店があった。
どうやら雑貨屋らしい。
犬のおやっさんが切り盛りをしているみたいだ。
店員「おう、兄ちゃんら、寄ってかねぇか?」
柊真「あぁ、そろそろ体力の限界だしな……
寄らせてもらうとしよう。ふぅ……」
千華「やっと…」
琉空「休憩できる…」
店員「大丈夫か?随分とお疲れのご様子じゃねぇか。」
柊真「あぁ…実に滑稽な理由から、
かれこれ4時間程歩き続けているからな。」
店員「何があったかは知らねぇが…
ま、ゆっくり見ていきな。」
柊真「ありがたい……」
流石に店で買い物をしている最中に敵(?)に遭遇することはないだろう。
何より、
今は水分を確保しておかなければならない。
見ると、スポーツドリンクが少し並んでいた。
柊真「スポーツドリンクを3本貰おう。いくらだ?」
店員「まいど。お代は30Gだ。」
(スポーツドリンク×3購入、
所持金残高170G)
千華「それぞれのかばんに1個ずつしまっておくわね。」
柊真「あぁ。それと…店員さん、聞きたいことがある。」
店員「おう、いいぜ。
ここら辺のことは大抵知ってるからな。なんでも聞いてくれ。」
柊真「ありがとう、そうだな…
まず、なぜスラムはこんなに経済が行き届いてないような状態なんだ?
他の地区に行ったことは無いが、
ここまで支援が行き届かないなんてことはないだろう…?」
店員「それは、世界が今の状態になってから、食料問題が起きたからだな。
特にここらは解決しきれなかった区域だ。
みんな自分らのことで精一杯なんだからな。」
柊真「なるほどな…あんたはいいのか?
こんな地区でものを売っても、ほとんどのやつが金なんて払わずに抱えて持っていきそうだが……」
店員「いいのさ、俺はこのスラムの奴らの笑顔が見たくて、無理して仕入れてきてんだ。
値段も比較的安めにしてるつもりではあるが、持ってかれても文句は言わねぇ。」
琉空「優しいんだね、
それで救われてる子も、きっといるよ。」
店員「それほどでもねぇぜ、坊ちゃんよ。
ほら、嬉しいこと言ってくれた礼だ。
こいつも持ってけ。」
琉空「何だろこれ…非常食?」
店員「あぁ、そいつは腹持ちが良くてな。
量も多いから、数食分はそいつでこと足りるぜ。」
千華「凄い…」
柊真「すまないな、店員さん。」
店員「いいってことよ。
こういうことを言って貰えるだけで、
俺もこの仕事をやってる価値があるってもんさ。」
柊真「そうか。
せっかくだから、この非常食は大切に使わせてもらうよ。」
千華「かばんの中、まだ全然入りそうだけど
一応大切なものってことでしまっとくわね。」
柊真「あぁ、頼んだ。
それと…そうだ、店員さん、感情とやらを探してるんだが、何か知ってるか?」
店員「感情?
兄ちゃん不思議なこと言うな、感情なんて探さなくても普通にみんな持って……
…いや、もしかしたらあの人が持ってるアレのことか…?」
柊真「あの人…?」
店員「あぁ、元々感情を研究してた熱心なおバカさんがいるんだが、
そいつが死ぬ間際に助手に頼んで各地区のボスに感情を渡したんだ。
もちろん物体でな、
この地区のボスも持ってるって話さ。
そして、ある約束があるらしい。
それは、そのボスが認めた相手にしか渡さねぇってやつさ。
なんの事やら検討はつかねぇが、
まぁ認めるってことはだいたい強さとかに関してだろ。
必然的に、戦闘は避けらんねぇだろうな。」
柊真「なるほど。」
千華「戦うしかないのね…」
店員「だがなぁ…戦うのはよしといた方がいいぜ?
特にこのスラムのボス、
ロジと戦うのは…」
話を聞いていた時、後ろから微かにザッっという音が聞こえた。
柊真「嘘だろ!?こんな時に遭遇!?」
振り返った時目の前に見えたのは、
俺の首めがけてナイフを横に振りかざす兎の亜人だった。
今度は上手く避けられただろうか。
HPは減っていなかった。
しかし琉空と千華はずっと、
「しっかりして!」
と俺に向かって叫んでいる。
そこで初めて自分が死んだことを自覚する。
いや、待てよ。
HPは減ってないのになんで…
そんなことを思っていると、
真っ暗になっていく視界の中に
一人、謎の人物が現れる。
???「もう死んだのか、情けない。」
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(第5話へ続く)