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9ー1 精霊の捧げ花

 9ー1 精霊の捧げ花


 フェブリウス伯爵家の別荘についたのはその日の午後のことだった。

 馬車の中でエミリアさんがサラさんに作らせた特性のお弁当をいただいてわたしたちは、満腹でうとうとしていた。

 「見て!トガー!」

 「ふわぃっ!」

 ライザに突然声をかけられてわたしは、飛び上がった。

 ライザは、わたしに外を指差して見せた。

 「見て、すごい、きれい!」

 北の野原は、短い夏の最中で目にまぶしい緑の中に白い綿雪のような小さな花がふわふわと漂っている。

 うん。

 「きれいだね」

 わたしは、頷いた。

 ライザが楽しげに微笑んだ。

 「それにとってもいい匂い!」

 ライザが目を閉じて鼻をくんくんさせるのを見てエミリアさんがにっこりと笑う。

 「ポルツの花の香りね」

 エミリアさんは、私とライザに教えてくれた。

 「あの野原を白く染めている綿毛のような花は、ポルツといって別名『精霊の捧げ花』と呼ばれているわ」

 精霊の、ね。

 わたしは、はぁっとため息をついた。

 エミリアさんは、 続けた。

 「あの花は、奇妙な花でね。朝咲いても夕方までにはまるで泡のように消えてしまうのよ。この甘い香りを残してね」

 そうなんだ。

 わたしは、チベットスナドリキツネみたいな顔になっていた。

 エミリアさんは、素直に笑顔で耳を傾けているライザににこにこしながら話す。

 「ポルツの花のことを『精霊の供物』とか呼ぶ人もいるけど、それは、なぜなのかは、私も知らないのよ」

 それは。

 わたしは、今、目の前で繰り広げられている光景を見ながら宇宙の果てまでもひいていた。

 大きな空中を浮遊しているクラゲのようなものたちが逃げ惑うあの白い綿毛のようなものをたちを触手で捕らえてはその巨大な口へと放り込んでバリバリと喰らっている。

 他の人たちは、きゃっきゃ、うふふと喜んでみているが、精霊が見えているわたしからすれば、これは、とんだスプラッターだった。

 『きゃあっ!』

 逃げ惑うポルツさんたちが悲鳴をあげているのをむさぼり喰らうオオクラゲたち。

 そして、飛び散る甘い香り。

 これは、もしかしてポルツの?

 あれは、どうみても精霊の共喰いとしか思えなかった。

 精霊って食欲とかがあるんだ。

 わたしは、流れていく窓のそとの風景から目をそらした。

 偶然にもライザの膝の上にちょこんと丸くなっているクロネコのルゥと目があう。

 ルゥが、ニタリと笑った。

 こわっ!

 

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