5ー2 芋を植えます!
5ー2 芋を植えます!
だが、いまのわたしは、どうだ?
この世界に召喚されて以来、わたしは、いろんなものに責任を負うことになった。
ご主人様のこと。
ルイーズさんや、クラウスさんのこと。
ライザのこと。
そして、この度の治療院のこと。
わたしは、不意に治療院で起きたアクシデントを思い出してしまった。
今まで考えないようにしてきたけど、あれは、プロポーズだったのではないだろうか?
いや。
ライナス先生とのことは、ただの事故だ。
きっと、ライナス先生も心に潤いが欲しかったに違いない。
だから、わたしにあんなことを。
わたしは、ライナス先生の腕に抱かれて口づけされたことを思い出していた。
間違いなくあれは、わたしの人生で最高のキスだった。
わたしは、頬がかぁっと火照るのを感じてたじろいだ。
何を今さら!
わたしは、ライナス先生のことを何も知らない。
彼もわたしのことを知らない。
なのに。
わたしは、そっと唇に指先で触れていた。
なんで、あんなキスができたんだろう?
「どうかしたの?トガー」
ライザがわたしが焼いたクッキーを齧りながらわたしのことを覗き込んだ。
「顔が赤い?」
マジか!
「そんなこと、ないですよ!」
焦っているわたしをライザが怪しむように小首を傾げる。
「そんなことより、休憩は、終わり!」
わたしは、いきおいよく立ち上がるとあずまやを出て、その側にある荒れた畑に向かって歩きだした。
わたしは、ジェイムズさんに頼んで屋敷の隅にあった荒れた畑を貸してもらって朝から耕したりしていたのだ。
ここで、なんか花でも育ててもいいし。
やっぱ、異世界に来たらスローライフでしょ?
といっても、花壇ぐらいの広さの畑なんだがな。
無理はしてはいけない、というのがわたしのモットーだ。
ジェイムズさんに用意してもらった園芸道具で畑を耕していると、とことこと近づいてきたライザもスコップを持って辺りを掘り返し始める。
「で?何を植えるつもりなの?トガー」
ライザは、虐待されてきたとはいえ所詮はお嬢様だ。
大地との触れあいなど初めてなのだろう。
わくわくを隠せないライザの輝く瞳に見つめられてわたしは答えた。
「芋」
「芋?」
ライザがキョトンとして聞き返すのでわたしは、繰り返した。
「芋。ここには、アマイモを植えます」
アマイモとは、出入りの業者が譲ってくれた異国の芋だ。
なんだかもとの世界のサツマイモとよく似ているこの芋は、業者曰く痩せた土地でもよく育ちしかも育てやすいのだという。
わたしは、種芋を植えながら考えていた。
この世界で一番、人が欲しがるものって何?




