それは、決してあそびではなかった
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俺はそのことを姉の電話で知った。
甥と同じ小学校6年生の男子生徒のズボンが故意に公衆の面前で引き下ろされたということだった。
その被害にあった少年はその出来事以降登校していない。
体調不良とのことではあったがその出来事が関わっていることは確実だろう。
被害にあった少年がそんなふうになっているのに、引き下ろした側はそんなことがなかったかのように登校しているらしい。
姉はそのことに怒りを覚えたようで、雇われ弁護士である俺に調べるように頼んできた。
調べてどうするんだよ。
姉がいうにはその引き下ろした子にその少年が傷ついていること、自分がどういうことをしたのかしっかりわかって欲しい。あと、姉はもしかしたら甥たちも被害に遭うんじゃないかという不安があったようでしっかり反省をして再犯?しないようになってもらいたいという考えもあったようだ。こちらはオブラートに包んで言っていたが。
まあ、甥の事も考えたら姉がそう言うのも納得はできた。
溜まっていた有給を消化するのにもいいかという現実的な考えと、感謝の気持ちを出してやろうと言う姉の言葉に俺は軽い気持ちで了承したのだった。
そして、俺は早速行動したのだった。
まず行ったのが甥からの聴取だった。
これが意外というか想像とは違っていた。
俺は勝手にズボンを引き下ろしたのは男子かと思っていたのだが、やったのは女の子だという。
しかも同じクラスの。
え?もしかして痴話喧嘩的な?
好きなこいじめちゃうような話?
姉から聞いた感じだと男の子同士で何かふざけてやったズボンの引き下ろしを相手の子供は全く反省していいないみたいな話だと思っていた俺は女の子がやったというのが意外だった。
しかし、甥は姉に聞かれていないかチラチラ姉を気にしながら俺に小声で言った。
「俺、ゆうりちゃん悪くないと思うよ」
ズボンを引き下ろした女の子のことをキッパリとそう言った甥。
怒り心頭だった姉とは大きく考えが違う。
自分がズボン引き下ろされるかもしれないのに?
「ゆうりちゃんはそんなことするこじゃないよ」
はっきりと甥は言い切った。
どうしてそこまで言い切れるのか俺はその時不思議だったが、姉の視線を気にしたのか甥はそれ以上はそこでは話さなかった。
それから、アポをとって2人の担任に話を聞きにいく。
もちろん甥の学校で起きたことを弁護士の叔父として話が聞きたいと言う個人的な要件として。
弁護士という職業を出したせいなのかすんなりとアポが取れて、学年主任の先生まで同行してくれるということになった。
俺は話しは難航するかと思っていた。
だが、一緒にきた学年主任も担任も割とすらすら話してくれた。
そこでわかったのは被害者と聞いていた来栖大賀の若干信じがたい行動だった。
なんと、彼は小学6年生になってもスカートめくりというものをしているという事だった。
俺は今時そんなことをしている小学生がいるのか。
なんて呆れたがそれを話す学年主任と担任の顔は真剣そのものだった。
大賀少年はそれはもう、さまざまな女子生徒のスカートをめくりまくっていたらしい。
小学4年生の時からやっていたというから、2年はスカートをめくっていたようだった。
同学年から、下級生や上級生まで本当にいろんな女の子にしていたらしい。
そして、不登校になった女子が3人。
この3人ともスカートめくりの被害にあっており、それが原因で不登校になったのではないかとのことだった。
それだけではなく、大賀少年の悪行は特に娘を持つ保護者には知らぬものはいないほどに広がっており、同じクラスになりたくないと訴える親子が続出していたとのこと。
注意することはなかったのかと聞くと、大賀少年は返事はするのだが女子が嫌がっていることがわかっていないらしく次の日にはスカートをめくっているという。
保護者も「子供のすることだから」「好きな子にいじわるしてしまっているのでは?」子供の遊びの延長のように考えてしまっているのでどうしようもないとのことだった。
さらに、来栖といいえばこらへんで一番大きい地主であり、建設会社の経営者でもあった。
その来栖さんが経営している会社で働いている人や仕事で関わっている人はこの学区にはたくさんいるだろう。
上司の子供に、孫に何か言って仕事に影響は出ないだろうか?
大きい関係会社の子供、孫に何か言って仕事に影響は出ないだろうか?
そう考えてしまうと、なかなか強く言い出せないということもあったようだった。
そして、大賀少年は少し離れた名門中学に進学することが囁かれておりそれまでの辛抱だと考えているものがほとんどだったという。
それで大賀少年に強く言えない、言わない、あとは小学校を我慢すればなんとかなると考えている人がほとんどだったらしい。
俺は思った。
やっベー悪循環だ。
そんな環境にいたらまあ、調子に乗るわな。
誰も強く言えない、何にも言えない状況だったらな。
ここまでの話を聞くだけでもそう思った。
思っていた通り、大賀少年はスカートめくりをやめることはなかった。
そんな中スカートをめくられた女子がいた。
それはゆうりちゃんと仲がいい子だという。
その子はすでに何回か被害に会っており先生たちにも何度か相談していたという。
何度やめるように伝えてもスカートをめくる大賀少年。
何度もスカートめくりという不快なことをされていたその女子は泣き出してしまったらしい。
その時ゆうりちゃんは隣にいたということだった。
その女の子と一緒に帰っている途中でゆうりちゃんがいない方から大賀少年はスカートをめくっていったらしい。
つまり、ゆうりちゃんは現場をがっつりみていたということらしい。
がっつり現場を見ていた人物がいてもなお、大賀少年はその様子に謝ることもせず笑いながら立ち去ろうとした。
泣き出してしまった女の子を見ても笑いながら。
ゆうりちゃんが何を思ったのかはわからない。
しかし、彼女は立ち去ろうとした大賀少年のズボンをゆうりちゃんは引きずり下ろしたらしい。
というのが事の経緯だった。
ここまで聞いて思った。
ゆうりちゃん、悪くなくね?
大賀少年が全て悪くね?
なんか、俺が娘をもつ親だったらよくやったとかいっちゃうかもしれない。
そう思ったのは俺だけではなかったらしい。
女子の保護者(特に被害者)からは彼女の肩を持っている人が圧倒的ということだった。
ちょっとした件みたいになっているのに保護者会なんかも行われないのは、大賀少年の今までやったことでも保護者会やらなかったでしょ。という声があったということもあるらしいが、今回の件で大賀少年の両親はことの重大性にようやく気づいたらしい。
大賀少年のやったスカートめくりが原因で不登校になったと思われる生徒が本当にいること、女の子をもつ親には知らぬものはいないというほどに広まっていること。
これが寝耳に水の状態でわかってしまい、対応に四苦八苦しているとのことだった。
しかし、姉のように子供が男子の保護者は今ままでの詳しいことがよくわかっていないという人も多いらしく、姉のような人にも近々文書でぼんやり周知するらしい。
と、ここまで聞いて心配になってくるのはゆうりちゃんのことだった。
大賀少年の両親の槍玉に真っ先に上がるのではないか?
大賀少年が悪くないことにするためにはゆうりちゃんを悪者にすることが手っ取り早いような気がしてならなかった。
そんな俺の想像は的中してしまっていた。
どうやらすでに大賀少年のご両親は突撃かましたらしい。
だがその後すぐに、学校に事実確認の電話と謝罪をしてきたらしい。
学年主任と担任の憶測ではあるが、ゆうりちゃんの保護者かゆうりちゃんに何か言われたのでないかという考えだった。
このように、問題になり他人から言われてようやく事実確認などを学校にして、知り合いの保護者にもどれくらいの人が知っているのかということを調べ出して火消しに奔走しているようだった。
あまりにも火が広がりすぎてどうにかできるのだろうか。
そんな心配もあるが何にもしないよりはマシだろう。
だがこちらも事実確認、裏どりもしなくてはいけない。
他に話を聞ける人物はいないだろうか、と聞いてみれば絶賛この問題に関わっているPTAの副会長が是非話がしたいと言っているとのことだったので会うことができた。
個人情報の保護ということもあり、その副会長以外には紹介されることはなかった。
ああ、もしかしてそのPTA副会長は被害者なのだろうか。
そう考えながら、そのPTA副会長が待っているという喫茶店へと向かっていった。
そのPTA副会長からも学年主任や担任からと同じようなことを聞いた。
もう、これまで一致しているのなら大賀少年の話し概ね事実なのだろうだと思わざるを得なかった。
違うところといえば教師陣との主張の違いだった。
「子供のやったことなのですから、何も騒ぐことはないのではないのでしょうか?だって、今まで彼の親も何もしてこなかったのですから。」
その言葉には、自分の子供が被害に遭ってもなんの対応もしてこなかった大賀少年の両親、また何度注意されても行動を反省することがなかった大賀少年への怒りが確かに感じられた。
ああ、大賀少年がやっていたことが、その保護者が言っていたことが今ここで彼らに返ってきているのか。
そう感じずにはいられなかった。
大賀少年は予定通りの中学校へ進学するだろう。
その学校には大賀少年のスカートめくりのことを噂で知っている人間もすくなからずいるだろう。
あまりにも大人数にスカートめくりをしていたので学校側にも大賀少年がそういうことをする人間だという情報は入っているだろう。
普通の子とは同じような人間関係を築けるかどうかは彼しだいではあるがかなり難しいとも思われる。
そこまで考えて俺は自分がするべきことを思い出した。
俺がするべきことは、姉に甥に同じようなことが起きないであろうこと、学校側からこれから何かしらの通知があるであろうことをつたえることだ。
当事者ではないのだ。
姉から感謝の気持ちをもらって飲みにでも行こう。
大賀少年はこのスカートめくりウワサがひろがって周りから白い目で見られることが何年も続きます。
保護者も「ああ、あの」みたいな目で見られることが続きます。
ゆうりちゃんはご両親が報復的なのを心配して遠方の学校に進学しました。
相手はどう思っているのか。
すこし考えることをすればなにかはかわったのかもしれない。
そう思ってかきました。