LV91「欺瞞」
「――これはなんのつもりだ」
シェリルの言葉にはなんら感情が宿っていなかった。
蔵人を見る彼女の眼差しはひたすらに冷たかった。
「うむ、それこそが答えだ」
「こんな破廉恥な格好をするのが我に足りない勇気を得るための方法だというのかっ!」
獅子が猛るようにガオッとひと声吠えた。
ロリロリなアニメ声なのでなんら威圧感はないが、いまにも腰の剣を抜きそうなので蔵人は念のために数歩下がって安全な距離を確保する。
シェリルの装備はガチガチの重装騎士からビキニアーマーに変更されていた。
「うむ。思ったとおり脱ぐとグラマーだな」
黒のマイクロビキニはシェリルの大事な部分を最小限に隠しているが、視覚的には強烈に男性へと訴えるものがあった。
通り過ぎる男たちはギョッとした表情をするが、若く美しいシェリルの透き通るような肌に目が釘付けになり、無視する者はひとりもいなかった。
「どうした? すごく似合っているぞ。パーフェクトだ」
「アホかっ。こ、こここ、これではほとんど変態ではないかあっ!」
「そんなことはない。むしろ雄々しいぞ。ちゃんとおっぱいと大事な部分をカバーする部分は魔術効果のある頑丈なビキニで覆われているから防御力も問題ない。並の武器ではシェリルの大事な部分はかすり傷ひとつつけられない仕様だ。それに、武士の情けで肩当てやガントレットは残してやったぞ」
「よし、わかった。そこを動くな」
「ちょっと待て。冷静に考えろ。その装備は俺が安直にお色気路線へと無理やり変更させたと考えているならば、とんだ思い違いだ。シェリルよ、これはおまえの防具に頼る弱い心を鍛えるための、あえての軽装甲なのだ」
「我の……弱い心?」
「そうだ。おまえは技術は一流かもしれんが、自ら剣を抜いて敵と真剣勝負ができなかった。それは自ずと普段身に着けているものに現れるのだ。服装の乱れは心の乱れとガッコの先生に言われんかったか。そのようにパッと見は痴女以外のなにものでもない格好は、あえて最低限の装備で敵と対峙し、戦闘でもっとも必要な肝を練るためには最適な覚悟の武装なんだよ」
「覚悟、これが我の覚悟だって……?」
「ただセクシーってだけじゃない。最低限の守りによっておまえの動きは前以上に身軽になった。無論、敵の攻撃に関するダメージは重装備のときの比ではないかもしれないが、自らの身体を危機に晒さねば本当の胆力など鍛えることはできないと俺は思う」
「そうか。そのような深い考えがあったのか。我の思い違いだったようだ。自分が恥ずかしい。クランド殿、あなたは我のことを真剣に考えてこの装備を選んでくれたというのに。くだらない凝り固まった常識にとらわれ過ぎていた自分の浅はかさが嫌になる」
(ホッ。単純な女で良かったぜ)
「わかってくれればいいんだよ。いや、あらかじめ説明しなかった俺も悪かったよ」
ふたりは向き合って微笑み合うと互いの手を固く握り合った。
「というわけで新たに旅の仲間に加わったシェリルちゃんだ。みんなも仲よくするよーに。特にリンジー、先輩風吹かせてイジメたりするんじゃないぞ」
「よろしく頼む」
蔵人の言葉を聞いたアシュレイ、リンジー、ジェシーの三人はハニワのような表情になった。
「――とりあえずどこから突っ込んでいいかわからないけど。シェリルって言ったわね。クランドから旅の目的はキチンと説明を受けたのかしら」
「修行の旅だな。我は真の勇気をクランド殿と共に模索してゆく所存だ」
「はあ、とりあえず強い前衛が増えるのはわたしとしてもありがたいのだけれど。その、正直に包み隠さず教えて欲しいの。その恰好はなに?」
リンジーが苦虫を嚙み潰したような表情で訊ねた。
「ふふん。これは機能性を重視しつつも敵の攻撃を敢えて受けるという信念の名のもとに選ばれた新たなる我の鎧だ。素晴らしいだろう」
「あー、素晴らしい素晴らしい。とってもアメージングよ。それで、アシュレイ。あなたからはなにか言うことはないかしら?」
「シェリル。私はアシュレイです。話の続きは歩きながらでも構いませんか」
アシュレイは感情の乱れのない声で言った。
「問題ない」
「なし崩しに仲間になるのは決定なのね」




