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LV79「姉と妹」

「お姉さまっていうと姉妹なのか」

「ええ、見てのとおり。わたくしたちは双子ですから。もっとも姉妹といえど、お母さまから出てくる順番がわずかに違っただけの差しかないのですけれど、ね。それでも、姉は姉ですから。申し遅れました。お姉さまのお連れの方ですね。わたくしはミリアム。ミリアム・ドラン。帝都の魔道学院から認められた正真正銘の賢者です。そこのお姉さまと違って、ね」


 リンジーと同じ顔を持つミリアムは手にした杖を腰に回しながらニッと笑った。なんでもない微笑であるが蔵人はミリアムの奥底に潜んでいる複雑でひと口では言い表せない感情を敏感に探知して、知らず、自分の唇を舌を舐めていた。


「ねえお姉さま。いつからお姉さまが魔道学院から賢者の称号を得たのか、この愚妹に教えてくださらないかしら」

「え、あ、え、それは」


「なんだなんだ。どういうことなんだ。リンジーは賢者なんだろ?」

「あ、あうう。それは……」


「お姉さま、また意地を張っちゃってお仲間にもそのようなことを。帝都の魔法院で首席になり、元老院によって特別に認められたものだけが賢者の称号を得ることができるのです。わたくしとお姉さまの成績は五分でしたが、実地訓練において最終的に上だったのはわたくしでございますよ。わたくしは、きちんと賢者の称号を得ましたが……リンジーお姉さまが賢者であるというのはまったくの偽りではありませんけれど、認可も得ないうちに自称するのはどうかと。正確に言えば、お姉さまの現在の状況は保留、というのが正しいかと思われますよ」


 リンジーの顔色は青白かった。手に持っている杖はいまにもとり落としそうなほど震えており表情は硬く強張っている。


「だ――だからなによ! 私だって元老院の評価を覆そうと頑張っているんじゃないの」


「まあ、言うにこと欠いて。だから本来ならばわたくしに命ぜられていた討伐命令書を盗み見て地方に単騎で遠征し、あまつさえ秘中の秘であった魔道兵器の奪還までひとりで行おうと。のみならず、失敗したようですね」


「う、うるさいっ、ばか、ばーか! ミリアムのおたんちんっ」

「罵声もありきたりですわ」

「ぐ、ぐぬー」


(オモシロがっちゃあ悪いんだろうが。なんか笑える)


「姉妹喧嘩はそこまでだ。そんでよ。真の賢者たる妹さんのミリアムちゃんはこっからどうしたいわけ。お姉さんをひっ捕まえて当局にでも突き出そうってのか」


「ほほ、そんな情のないことをこのわたくしが。ただ、不甲斐ないお姉さまが地に頭を突いてどうしてもと頼むのならば、賢者の称号を得るために、妹のわたくしが協力することはやぶさかではありませんわ」

「むむっ」


 あきらかにリンジーを見下したミリアムの発言である。現に蔵人が隣に視点を移すと激しい感情を面に表しているリンジーの形容しがたい姿があった。


「ご姉妹のお話ですので口を挟むのはどうかと思いましたが。ミリアムさま。世界には秩序というものがあるのことをご存じでしょうか。どのような状況でも長幼の序を忘れてはなりません」

「あらあ、わたくしにお説教ですの」


 見かねてリンジーを擁護したアシュレイとミリアムの間にバチバチと火花が散った。ふたりはあからさまな非難にならない言辞を多用して丁々発止と舌戦を始める。


 それを見守っていた蔵人は――。

 

(うーん、ミリアムちゃんとか言ったか。この子、確実にリンジーより胸がデカいな)


 自分の顎先を指で撫でながらしかめっ面で、まったくもってくだらないことに意識を集中していた。


 魔道士の正装なのだろうか、ミリアムの装束はリンジーとほぼ変わらない身体のラインが浮き彫りになるドレスであった。


 差異を上げればリンジーの衣服における基調が青なのに対してミリアムは赤だというくらいだ。


(しかし、ミリアムちゃんのお胸、パッツンパッツンだな。けしからんぞお。しかも、大きさだけじゃないな。不格好にデカすぎるわけではなく、体型をアンバランスに見せるほどではないほどよい大きさを保っている。これ以上小さかったらしょぼんな感じだし、これ以上大きかったら下品すぎる。そんなギリギリを見切ったサイズだ。お尻の形もよい。


 しっかし、日本人と違って欧州人に近いこの世界の美女たちは腰の位置が高くて脚がなっがいなー。尻の突き出し方もぜっんぜん違う。ふ、だがこの違いは女体ソムリエであるこの俺だからこそ噛み締められる世界だ。おこちゃまにはエターナルにわからんだろーな)


「ともかくだ。本人が嫌って言ってんのに無理強いするのはよくないぜ」


 蔵人がリンジーの頭に手を置きながら言った。リンジーは驚いたように顔を上げて蔵人を真っ直ぐ見た。アシュレイと口論していたミリアムが初めて不快さを表情に示した。


「お姉さまは特になにもおっしゃられていないようですが?」


「わかるんだよ、俺くらいになるとな。とにかく、だ。いま、キチンとした称号がなくともだな。そのうちにリンジーが賢者の称号にふさわしい成果を上げればいいだけだろ。ま、お姉ちゃんが心配なのはわかるがすべて俺さまに任せておけばでぇじょーぶだっつのボインちゃん」

「ぼいん……!」


 言葉のあけすけな無礼さに気づいたミリアムが胸元を押さえてサッと後方に下がる。雪のような白い肌がほんのりと赤らんだ。



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