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LV74「最終魔道決戦兵器」

「ともかくだ。おまえの言葉を信じるならば、リンジーがこっそりと秘密の地下施設に行った理由はわかったな。どう考えてもその大量破壊兵器を手に入れるためだろう」

「大量破壊兵器ではありません。最終魔道決戦兵器です」


 平然とした顔でジェシーが否定する。


「どっちもおんなじだろ。てか、そのオメガってのはどういったシロモノなんだよ」

「それはそれは、あまりに恐ろしくおぞましく、とても私の口から申せませぬ。ぶるぶる」


 ジェシーは身体を丸めると怯えたように震えている仕草をした。


「言えよ」

「すみませんあるじさま。私はこの部屋から出たことがありませんので。いうなれば籠の中の悲しい小鳥ちゃんなのです。ああ、なんという悲哀」


「ふーん。それじゃあ、話もひと区切りついたんでこの先のラウンジでお茶しようぜ」

「あ、はーい。あるじさま、お紅茶でよろしいですか。最近良い茶葉が手に入りましたので。あ、それと先ほど焼いたマフィンがありまして、自分でいうのもなんですが、これが絶品で――は!」


 扉にジェシーが手をかけると、すいーと開いた。

 蔵人は真顔。

 ジェシーは眉間にシワを寄せてから悔しそうに小指を噛んだ。


「あるじさま、無垢なメイドに誘導尋問とは鬼畜過ぎます」

「いや、勝手に自爆したんじゃねぇか」

「ご無体な」


 蔵人はジェシーの顔面を鷲掴みにすると、ポイと投げた。


「ああ、捨てられたー。物のように扱われた。散々尽くしてきたのにっ。ひどいわ」

「いやいやいや。他人だからな俺たち」


「ひどいです。でも、そんな言葉では傷つきません。私に心はありませんから」

「おまえ、本当にオートマータなのか?」


「えっへん。私はなんでもこなすスーパーメイドなのです。一家に一台どうですか」

「ごめん、ママに聞かないと飼っていいかわからないから」

「ペットじゃありません。けど、あるじさまにせいど……もといペット扱いされるのもまた一興です」


 蔵人はジェシーを無視するとその場をあとにした。






 タイルのぴかぴかする床をすべるように移動する。


 台座のあった場所に戻るがアシュレイとリンジーはまだ鼻先をくっつけ合ったままなにやら口論をしていた。


「よう、ご両人。俺がいない間にずいぶんと仲よくなったみたいじゃないか」

「あんた目ェ腐ってるんじゃない?」

「節穴です」


 ふたりはすぐさま距離を取ると蔵人を睨んだ。


「小粋なジョークで場をなごませようと思っただけなのに……」

「あるじさまの諧謔の精神がわからないとは。無能な雌ブタどもですね」

「誰っ!?」


 いきなり会話に立ち入ってきたジェシーに驚いたのかリンジーは頭から甲高い声を上げた。アシュレイも蔵人に寄り添って立つメイドが何者かわからず訝し気な視線を投げかけてくる。


「フッ」


 蔵人はニヒルな笑みで応じた。


「いや、なにを笑っているのです。クランド、そちらの方はどなたでしょうか」

「知らん。勝手についてきた。どうも俺みたいに男臭いのがタイプらしい」


 蔵人が格好をつけるとアシュレイは「あーはいはい」と呆れた表情で流した。


「ワイルドな主人に出会えていまにも絶頂しそうなメイドのジェシーです。以後お見知りおきを」


 アシュレイは完全に表情を消して能面のような顔つきになった。


「……また」

「いやいやいや、またってなんだよ!? なんもしてねーよ、俺は!」


「あるじさまに無理やり貞操を奪われ結果として永遠の服従を誓いました」

「うっわ……」


 リンジーが両手で身体をかばうような仕草をして蔵人から距離を取った。


「信じるなよ、そこ! コイツの言っていることは嘘だからな」


「とはいえ、これから私が稼働する限りはあるじさまに終生つき従うのは嘘ではありません」


 アシュレイがジッと蔵人の瞳を真正面から見据えた。

 悪意の塊である蔵人は罪悪感が枷になって視線をはずした。


「これにはとある事情があってだな――」


 蔵人は猜疑心の虜になっているアシュレイとリンジーに事の次第を細かく説明した。


「そんなオートマータがあるなんて話は聞いたことがないけど」


 リンジーは不審そうな表情でジェシーを見つめたまま最後まで納得がいかない様子だった。


「こいつの処遇はとりあえずあとで考えるよ。悪いようにはしない。ちゃんとするから」

「そう、ですか」


 アシュレイはジェシーに再び視線を走らせるといつもの平静さを取り戻して言った。


「ジェシー、私はクランドと共に旅をしているアシュレイです。よろしくお願いします」

「あ、え、なに? わたしはリンジーよ。特によろしくしなくていいからね」

「アシュレイさまにリンジーさまですね。ぴぴっ、メモリーに記録。データを更新しました。私はこう見えて繊細なのでかわいがっていただけると長持ちします。にっこり」


「変わってるが悪いやつじゃないみたいだから気にするな」

「気にするなっていわれてもねぇ……」


 リンジーが台座の出っ張りに腰かけて長い脚を組む。蔵人はむっちりとした太腿を眺めながら顎の下をさすってニヤつくのを誤魔化した。


「リンジーも機嫌治せよ。いくら狙いのオメガが見つかんなかったからって、ブンむくれてもいいことないぞ」

「なっ。なんであなたそれを!」

「ニュースソース」

「にっこり」


 蔵人が指差すとジェシーは人差し指を自分の頬に向けてわざとらしく口角を上げてみせた。


「なんですかクランド。そのオメガというものは――」

「い、いや、その、あばばばっ」


 アシュレイの問いかけにリンジーが両手を上下に振りながら激しく狼狽する。


「実はだな――」


 蔵人はアシュレイにリンジーが自分たちに隠れて魔道学院の地下倉庫に隠されている最終魔道決戦兵器オメガを捜しに行ったことを話した。

 すべてを話し終わったあと――。


「ううっ、なんで賢者であるこのわたしが……」



 リンジーはアシュレイの前で正座をしながら懇々と説教を受けていた。


「まだは話の途中です。よいですか、リンジー。私たちはかりそめにも無道な魔物を討伐する仲間として誓いを立てました。理由を言いたくないのならそれでかまいません。けれど、不寝番の役目を放って仲間を危機に晒したことがどういうことに繋がるのか、あなたは本当に理解しているのですか」

「ううっ」


「なぜ単独行動をしたのですか」

「いま、理由は言わなくていいって言ったよね!?」

「離反者に反論する権利はありませんっ」

「そ、そんなあ」


 膝立ちになりかけたリンジーがしょぼしょぼと再び座り直した。


「あるじさま、リンジーさまがめたくそ詰められてますね」

「アシュレイって教育ママになりそうだよな」

「拷問官の間違いでは」

「ハッキリ言うな……」

「ハッキリした性格なので」

「ロボなのに性格があるのか」

「ロボ違います乙女です」



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